第四部
序章 法衣子女は見た! 414話
「あの金色の髪。あれ、アルフレッド様よね」
桜の木の下に王子様がおります。桜は遠くから見るとピンクで一色の綺麗な木なのですが、近づくとせっかくセットした髪やレースの隙間に花びらがゴミのように入り込み、途端にみすぼらしくさせる木なのです。そこになぜか制服を着た王子がたたずんていたのです。
先生や生徒会のお手伝いで入学式のボランティアに駆り出された私達法衣クラスのメンバーは、お昼ご飯の休憩を取ろうと固まって移動していた時に大変なものを見てしまったのです。
どうして王子様が制服を着てあんな所にいるのでしょうか? 私達は桜のゴミが来ない風上へ移動しながら、王子様を観察することにしました。
私達の行動が目立ったのでしょうか? 私達のまわりに女生徒たちが集まってきました。
王子様は新入生らしき生徒に声をかけております。
「新入生? なぜ制服を着ている?」
「おかしいですか? あなたも制服ですよね。案内には『制服かそれに準じたもの』と書いてありましたよね」
何でしょう? どこかで聞いたことのあるような会話をしています。
「入学式は着飾るものだろう? まして女生徒なら」
「着飾るお金があるのでしたら、私は本を貰いますわ。どんなに豪華なドレスでも日常着ることができなければ必要ないのです。成長すれば着ることができなくなりますし。すぐに意味のなくなるドレスに比べたら、知識は一生の宝ですよね」
「先輩も制服なのに、なぜそんなつまらないことを気になさるのですか? 私は学びに来たのです。学問を学ぶだけなら制服が一番ですよね」
「これから入学式だろ。こんな花まみれになっていいのか? なぜわざわざこんな所にいるんだ?」
「ここは静かだから。それにここ、この名も知らぬ樹と降りしきる花びら。夢のような美しさがありますよね。独り占めで来ていたのですがお譲りしますよ。私もそろそろ準備をしなくては。花まみれでは悪目立ちしそうですし」
やはりどこかで聞いたような……。それにしても降りしきるピンクの花びらの下で見つめ合い会話をする王子と美少女。なんと言うか絵になります。まるで歌劇のワンシーンのようです。
「誰あの子」
「新入生に話しかけているだけでしょう? 気になさるほどでもありませんわ」
高位の貴族のお嬢様達がイラついておられます。聞かなかったことにしましょう。
こちらの目線に気がついたのか、女生徒が足早に去っていきました。お嬢様達は王子様に声をかけたがっていましたが、あの花びらが舞っている王子様の所に入ることはできません。王子様は反対方向に去っていきました。
◇
ご飯をいただきながら、私達はさっきのことについて語り合いました。あんなステキな情景、二度と見ることはできないでしょう。
「なになに? 何があったの?」
その場を見ていなかったクラスメイトが聞いて来ました。見ることができなかったことを残念がっていましたが、彼女たちは他の生徒に話をし始めました。この調子では数日で学園中にこの話が広がりそうです。
◇
「……ということで、生徒会ではこれからは爵位の上下なく能力のあるものを重用していくつもりだ。先ほど新入生と話をしたが、その者はこう言っていた。『着飾るお金があるのなら、自分は本を買うと。どんなに豪華な衣装でも成長すれば着ることができなくなる。それにくらべて知識は一生の宝だ。着飾るより私は学びたい』そう言っていた。俺はそういうやる気のある生徒にチャンスを与えたいと思う。そう、そこで一人制服で入学式を迎えている新入生。お前だ。クラス分けテストの結果を楽しみにしている。…………」
さっきの桜の木の話⁈ 制服を着てここにいるのは王子とあの子二人だけです。思わず首があの子の方へ向きました。
あ、知っています。さっきの状況も、今の状況も。イリア・ノベライツ様の制服王子と制服少女のワンシーンにそっくりでした。あれ? 何でしょう? お芝居じゃないですよね。どうして小説のシーンがリアルで再現されているのでしょうか? 去年レイシア様のお茶会でお会いしたイリア・ノベライツ様。もしかして予言者なのですか? 制服少女の話ってラノベじゃなくて予言書だったのでしょうか。
神作家とはこういう事なのですか⁈
ブワっと体中の血がたぎりました。私たち、神の奇蹟を目撃したのでしょうか。
タイミングよく再販されたイリア・ノベライツ様の『制服王子と制服女子~淡い初恋の一幕~』と『無欲の聖女と無自覚な王子』は奇跡の予言書と噂をされ一気に増刷を繰り返しました。小説の中の入学式の様子と、私達が目撃した桜の木の下での光景がそっくりな『制服王子と制服少女』。
あの時の制服少女が実は聖女コースだということで、『無欲の聖女と無自覚な王子』は奇跡の書続編として注目を浴びました。二冊を合わせて読むと妄想が膨らみます。これから起こるかもしれない未来が書いてあるのではないかと研究を始める者まで出てきましたが、それはまた別のお話ですわね。
ああ、レイシア様。もう一度お茶会を開いてくださらないでしょうか。イリア・ノベライツ様に質問したいことだらけです。私達から高位貴族のレイシア様に話しかけることができないのがもどかしいですわ。私たち、いつでも声がかかるのをおまちしております。お気づき下さいませ、レイシア様~!
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