第六章 王子のドキドキ 169話
〈王子視点〉
「今日こそ勝つ!」
今日は騎士コースの実践授業。俺はレイシアとの久しぶりの対決を心から待ち望んでいた。休み中、ダンスパーティーだ、社交だ、お茶会だと、アチラコチラに顔を出さなければいけない日々は過ぎた。へつらいと色仕掛けと無能なお嬢さん方の相手はもういい! 俺は見くびられないように強くなるんだ! そのためにはレイシア、お前を倒す!
授業前、皆それぞれ練習相手を探していた。次々とペアができる。俺は宿敵レイシアを探したが見つからない。
「ああ、レイシアは休みだ。届け出が出ている」
そうか、ならば他の者は……。なぜ目をそらす? あわててペアを組み始める?
………………俺は避けられているのか⁉………………
冷や汗が全身にあふれた。
確かに俺は、Aクラスでクラスメイトという者はいない。
今さらダンスや社交など習っても仕方がないし、取っていない。と、いうか帝王学を学ぶのは俺と姉のみ。やることがたくさんある。
この騎士コースだけが、俺に許された同じ学生と触れ合う唯一の時間なのに……。
俺は避けられていたのか……。
暗たんたる気持ちで先生に聞いた。
「先生、俺はどうすればいいのでしょう」
〈教師視点〉
「先生、俺はどうすればいいのでしょう」
妙な
俺が相手をしてやってもいいが……。しかし、万一負けると他の生徒に示しがつかなくなるしな……。いや、負ける気はねーぜ。万一だよ、万一。
まっ、こいつの実力なら大丈夫だろう。俺は生徒全員を集めた。
「え〜、今日はあのレイシアが休みだ! ここでお前達の真の実力を見てやろう。いいかお前ら、騎士になりたいか」
「「「おおー」」」
「そうだな。なりたいよな。それでだ。どうせなるなら、親衛隊を目指したくはないか!」
「「「うおお〜!」」」
やっぱり、こいつらバカだ。ノリだけで親衛隊などなれるか! 現実ってやつを知らせてやれ。テメーら今のままじゃ甘っちょろいんだってな。
「いいか、親衛隊は王族を守る最高にデキる者しかなれん! お前らに分かるようにいえば、頭が良くて強くて規律を守れる者だ。さらに忠誠心も必要だが……。少なくとも守る者より弱ければ必要ないよな」
俺はアルフレッドを見てから言った。
「ではこれから、王子対全員の練習試合を始める! 王子から一本取った者には評価Sをくれてやろう。負けたやつは護衛の価値のないものだ。殺す気で行け」
「「「うおおお――――」」」
「無茶な!」
「レイシアなら、このくらい瞬殺するだろうな」
抗議の声を上げたアルフレッドは、俺の言葉に反応した。
「レイシアを倒したいんだろ。このくらいの練習こなさないと無理だな。そうだ、お前の護衛騎士、レイシアを推薦しようか」
「断る! 俺がレイシアを倒す」
「なら、こんなザコとっとと倒すんだな。時間内に終わらせろ!」
やる気になった生徒たちと、やる気になった王子。さあ、楽しませてもらおうか。
〈再び王子視点〉
「お前ら、弱いから三人がかりで行け」
先生がそう言うと、「「「うお〜」」」と棒立ちで3人が構えた。
見るまでもなく弱そう。
一気に距離を詰め、左端のヤツの木刀を下から上に叩き上げる!
クルクルと木刀が跳ね上がる。
それを驚いた顔で眺めている中央のヤツに体当たりをし木刀を奪う。
奪った木刀を最後のヤツの喉元に添える。もちろん寸止めだ。
「カラン」と、最初に跳ね上げた木刀が音を立てて落ちた。
これでいいのかい、先生。
「素晴らしい」
パチパチパチと拍手をしながら、先生は言った。
「お前らは鍛え直しだ! 次はお前達。5人にしようか」
「全員総掛かりでもいいぜ」
俺は本気でそう思った。あいつ……レイシアだったら全員出も倒すだろう。なら俺も……
そう言ったら、あいつらの目が変わった。殺気がグラウンドにみなぎる。
「おいおい、やっちまったな」
先生が俺に言う。ふっ、願ったりだ。
「こう言ってるがどうするお前ら。バカにされたぞ〜」
「「「ウオオオオオ――――――」」」
「じゃあ、王子のお願いだから全員でやろうか。ただし、攻撃を受けた者、地面に足以外がついた者、木刀を落とした者はすぐに退場すること。でないと本気で倒すまで続くからな。悔しくても下がれ。違反したヤツはその場で俺が攻撃する。それでいいな」
怒号と歓声の中、俺はグラウンドの端に立つ。距離を置いて50名を超える生徒が向き合う。
「始め」
一斉に、俺に向かって駆け出す生徒たち。俺は中央突破と見せかけて右端に移動する。
所詮寄せ集め。隊列など最初からない。端の5人に木刀を当てると、ヤツらの後ろに回り込んだ。
止まって振り返ろうとするヤツらは隙だらけだ。
ここで一度距離を取る。
呼吸を整え、一気に走りだした。
混戦。丸焼きの肉の表面をこそげ落とすように、俺は木刀を振るった。中には当てられたのに背後に回って再度攻撃する者もいた。返り切ろうと動くまえに、先生が膝蹴りで倒していた。
「ルール違反はいけませんね。後でお仕置です」
切る、蹴る、殴る。ありとあらゆる攻撃をした。時々、目潰しに砂を投げるやつもいたが、そんなものレイシアのフォークで慣れているよ! そいつの腹に蹴りを入れてやった。
さすがに息が上がってきた。残り2人を倒し終わって、俺は雄叫びをあげる……その直前!
「まだ、俺がいる」
見たことある、こいつ。確か騎士団長の息子……
「真打ちは最後に出るものだよ、アルフレッド王子。あなたみたいな腕力ゴリ押しでは、疲れてしまえばものの役にも立たないでしょう…うははは。頭脳ですよ。機を選ぶ。それが戦略というもの」
え〜と、名前何だっけ? まあいいや。何だって? 俺が脳筋だとでも? え〜と、お前何クラス? えっ? Dクラス? ダメじゃん! 騎士団長の息子のいる所じゃないよね。
まあいい。腕は立つんだろう? 俺は乱れた呼吸を落ち着かせようと、木刀を正眼に構えた。
「キェ―――――――――」
おかしな声を挙げながら、騎士団長の息子は俺に向かってきた。
ナニコレ、遅い……! 軸がブレブレ。
正眼に構えていた木刀をひょいと前に出したら、そのまま突込んで来たヤツの喉にヒットした。
…………俺、何もやってないんですけど……
勝負は一瞬で終わった。のたうち回りながら、「ひきょーだ」とわめき回す……えっと名前思い出せない。
俺一歩も動いてないんだけど……。
虚しい。俺の相手になるやつはいないのか?
ふと、レイシアの顔が浮かんだ。
ヤツと戦いたい。俺が本気で向かい合えるのはレイシア、お前だけだ。
「レイシア……早く戻ってこい」
ふいに言葉に出た。
「なんだ。レイシアが好きなのか?」
俺の言葉を聞いた先生が俺に向かって言った。
「そんなことあるか!」
俺はすぐに否定した。
レイシアだぞ。そんな……
なんだ、胸がドキドキする。
違う! 今戦ったから心拍数が上がっているんだ。惑わされるな俺!
レイシアに勝つ! だから早く俺の前に来い、レイシア。
しばらくの間、レイシアの顔が頭の中から離れなかったのは単なる気のせいだ。
俺は邪心を振り払おうと素振りを始めた。
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