手のひらの上で踊ろう!〜異世界現実逃避行をあなたへ〜【アキラ編】

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第1話 独白をあなたへ

 巨大な捕食者の毒針が、見ず知らずの誰かを貫こうとしていた。


 その直後、砂漠の直上を彗星が走った。


 その彗星は、光の尾を引きながら、象よりも巨大なサソリに向かってまっすぐと走り、その頭部に直撃したところで、爆散して消えた。


 灼熱の太陽。

 どこまでも続く砂漠。

 頭部が爆ぜた巨大なサソリ。

 倒れ伏す赤髪の女性。


 呆然としながら突っ立って、どこか人ごとのようにその光景を見ながら、俺は自らの不幸を呪った。


 人生最悪の一日。

 それはてっきり昨日のことだと思っていた。

 しかし、どうやらそれは甘かったらしい。

 俺の『厳しい現実』とやらは、まだ始まったばかりだったようだ。


 確かに俺は現実から逃げ出したいとは思っていたさ。

 でも、考えてもみてほしい。現実逃避行の行先が、まさか『異世界』だとは思わないじゃないか。


 え? 最近じゃそんなことは普通だって?

 朝起きて家から出たら転移。学校に行けば学校ごと転移。帰り道では通り魔的に勇者召喚され、一度家を出れば、無事に再び帰り着くことの方が難しい。

 なんとも世知辛い世の中である。

 まあ、死んで転生よりはマシか。場合によっては、人じゃないものに転生する場合もあるらしいから。


 などという無駄な思考こそが現実逃避。

 昨日の一連の出来事のせいで、どうやら現実逃避癖が性根に叩き込まれてしまったようだ。


 でも、それだけ苦しかったのだ。

 ここ以外ならどこでもいい。そう思えるほど逃げ出したかったのだ。

 そうして逃げ出した結果、たどり着いたのがここ異世界。


 俺の人生をラノベとして語るなら、そのタイトルは『暗井明くらい あきらの異世界現実逃避行』

 さしずめ今の俺の状態は、第一章の第一話といったところだろう。

 しかし、物語にはプロローグが付き物だ。


 だからまずは聞いてほしい。

 俺が逃げ出した現実の話を。

 たぶんそれが、この物語のプロローグだ。

 

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