第28話 友達鳥の裏切り

 赤字仕事ばかりでまともに稼げないので貯金の残額がどんどん減る。

 ついにこの日が来たか。そう覚悟した。


 友達鳥との付き合いはあるゲーム関連フォーラムで知りあってから十年になる。

 その間実にひどい扱いを受けて来た。

 出かけるときの費用はすべてこちら持ちである。この映画を見に行こう、ここの料理を食べに行こう。その金額は十年でなんと一千万円に上る。半分は自分の胃袋に収まったとしても五百万円は奢らされている。

 MMOゲームに誘いながらレベル差がつくと勝手にやりなと放り出す。自分のゲームのホームページに載せるための英語の翻訳をすべてこちらに投げて来る。ゲームの中ではこちらを便利なドローン扱いである。

 待ち合わせにはかならず何十分も遅れて来るのに、いきなり背後から腎臓にパンチを食らわせて来る。冗談ごかしているが他人を殴る快感を味わっているのだ。そしてこちらが時刻を間違えて遅れると鬼のように喚き散らす。

 その他にも常に私をディスって喜ぶ。

 つまり徹底的に舐めているのである。

 それらすべてを平然とした顔でやり過ごした。ハラワタは煮えくり返っているが、一度友達と言ったからにはその言葉を守るのが私だ。

 それをこいつは決して怒らない男だからと嵩にきる。

 まさにクズの代名詞である。

 ポロリ漏らした言葉では自分に謎の人徳があり、それで他人が大事にしてくれるのだと言う。

 まさに傲慢。こちらが人並外れて我慢強いのだとは露とも思っていない。


「これとこれとこれとこれ。見に行きたい」

 友達鳥がずらりと映画の題名を並べる。

「お金がない」初めてそう返事をした。「マトモな仕事が無くてお金がない」

 その場で通信は切れた。

 あれほど毎日していた要求がパタリと消える。

 予想通りである。

 タイマーをセットする。

 三日以内にまた連絡を取って来るならまあ普通の人。二週間なら相当悪い。一カ月ならクソ野郎。

 さあどうだ?


 結果は三か月経っても音沙汰は無かった。どうやら私が考えていたよりももっとロクでなしだったようだ。


 半年経っても連絡が無かったので溜まった漫画を一箱分送る。

 すぐに連絡が来た。

 開口一番。

「これとこれとこれとこれ。見に行きたい」

 呆れた。この状況でまだタカルつもりか。自分が裏切ったことは一瞬で無かったことにしたのだ。

「どうして半年も連絡しなかったんだい?」

 意地悪くも訊いてみた。返事は・・。

「だって死んでいたら怖いじゃん」

 お前は鬼か。金が無ければすぐに首括るのかい。何よりそう考えたならすぐにでも連絡入れるのが友達だろう。

 本当のところは借金の申し込みをされるのが怖くて逃げていた癖によく言うな。

 それっきりこのクズ女郎のことは無視することにした。

 その後も英語の翻訳などを頼んで来た。金が引っ張れなくてもまだ労働力として使ってやるというところだろう。

 ときたま声は聞こえていたが引っ越しをしてからは完全に切れた、


 こうして十年に渡る実験は幕を閉じた。

 クズな人間はどれだけ誠意を尽くして面倒を見てやっても決して生まれ持った性格は直らない。彼らにとってはどれだけの恩もただのラッキーなのだ。天が彼らの人徳とやらに与えた褒賞なのである。だから感謝もしない。

 十年の間に友達鳥が礼を言ったことはただの二回。

 最初に会ったとき。そして最後に会ったときである。

 最初に会ったときは見知らぬ者に奢って貰ったのだから礼を言うという最低限の礼儀だ。これすらしなければ二度と会っては貰えなくなる。つまり集れなくなる。

 最後のときは私の顔に迂闊にも冷えた懐の痛みが浮かんだせいだろう。


 二度とこの種の実験はしない。人間の当方もないクズっぷりを知るのは一度で十分である。

(とはいえその後に何度も同じような目に遭うのだが。この世にクズの絶えることはない。それはこのシリーズでおいおいと書かれることになる)

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