085 tr29, dies irae/怒りの日
※今回は残酷描写を含みます、苦手な方はご遠慮ください。
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【AD:2121年, 革命新暦:199年、冬】
「ふう、もう少しじゃな」
「あと1年ですか、早かったですねぇ」
「もう少し小細工しないとならんから、未だ頑張らなくちゃだがの」
「あら、マリアベルの人格転移で?」
「あっちはオーダー通り…とはいかんよ。
一部記憶を変えたり、あの気持ち悪いジル…なんだったかの、あの辺は技術的問題という事にしてパスじゃな。
それに見ただけで周囲をすべて魅了?絶対服従?そんなの無理、無理。
思春期によくある、絵空事の妄想もいい処よ。
先々まで人の心の動きを制御なんてできんわい、あのサルの分泌成分でちょっと誤魔化すのが精々じゃ。
そういうばあさんはどうじゃ?」
「そうね、あの可哀想なペット君は寿命も短くなりそうだし、こちらからできる事はあんまりないわ。
寄生生物の件だって表立って宿主にさせる二人に対してはいろいろ言い伝えたけれど、最終的には行動制限程度の弱体化版にしたの。
悪いけどあの二人、人格的にあまりに適性が低くて…」
「ハッキリ言ってしまえ、頭が悪いと。
職員の間でもだいぶ話題になっておったぞ、特にドラクルくん。
やれ配下を増やせ身体能力を伸ばせあれせぇこれやらせろとキャンキャン言う割に、本人はまるで使いこなすための努力をせなんだ。
おそらく教科書の一冊も読み切ったことすらないんじゃなかろか?
せっかくのイニシエーションも、本人の努力なしにはまるで無駄になってしまうわい」
「プライドばかり高くて努力しないものだから、結局公衆衛生学も心理学すら履修しきれませんでしたからね。
それでも大事な女王は形だけ整えて、最低限の機能は持たせたわ。
それより危険なのはグリグリくんよ。
彼はその…真面目なんだけれど要領を得ないというか覚えが悪いというか…それに時々農奴を無断で持ち出して、火遊びしてるの」
「ああ、あれあいつじゃったのか…
農奴にしたって随分酷い扱いをしよる、無為に手足を拘束して火をつけるなぞ…てっきりアベルの悪い遊びかと思ったら、グリグリのやつじゃったか…」
「責めたところで『いえ、自分は人体の機能を検証しているだけですから』ですからね。
世の道理も解らず悪びれるどころかますますのめり込みそうで、もう注意するのも止めたわ…。
あの子も医療はまるで身につかなかったから、寄生生物による治療は機能を抑えて『奇跡』みたいな表現で他の人に施させないと、かなり危険ね」
「まったく、いの一番に手を上げた二人がこれだとのぅ…」
「そういえば人格転移を実験したあの二人はどう?おっきい男の子と小さい女の子。
特に小さかったアジンちゃんは成長促進剤や外科手術、あと予定より少し強い寄生生物を使って身長をSSSR標準値程度まで引き上げましたから」
「あの二人もあまりよろしくないのう。
二人とも体格の近い素体を使ったから小脳は問題なかったんじゃが、人格面に大きく障ったようでの。
アジン?1じゃなくて07グループ出身じゃよな、生き残りの07と混ぜてみたんじゃが、思考方法がネガティブ面で固定になってしもうた。
ばあさんのサポートのおかげか身体面は格段に改善されたが、精神安定でサルの分泌成分が必須じゃ。
大きい…13じゃったかの、彼はもっと深刻じゃ。
どうも既に転生者だったらしく、その上さらに人格転移を重ねたら自我崩壊に近い状態になったわ。
理性的な行動をとれず、言語ももはや理解できているのかどうか…
身体の強い個体は、精神面の強化も課題じゃな」
「あらまあ、事前に相談してくれれば内分泌系で調整できたかもしれないのに…
それにあの子、おじいさんがメドベージェフって名前つけてあげた子じゃないの」
「どうも忘れがちでの、転生者は好かん」
「好き嫌いで研究しちゃダメでしょ…まあ私も人の事言えませんが」
「他の子は手を入れないんかの?」
「おおむね順調ですし、無理にいぢらないほうが良いでしょう。
何人か思想矯正の必要あり、とギリギリ引っかかったデータが出てましたけれど、職員含め再提出で押し込んで報告しておきましたよ。
進捗報告書の相関関係図も少し変えましたから、洗脳のオーダーは不要と伝えてありますし」
「そうじゃな、100年単位の稼働前提じゃとメンテナンスを考えて機械式は入れにくいし、高精度シミュレーションを入れるとはいえ生体式もドミノ倒し的に思わぬ作用が出る場合もある。
じゃから今回の作戦は極力人体のみか、現地調達で済ませる選択肢だったというのに、開発部門がここぞとばかりにおかしな案をねじ込もうとしおって」
「通信機器だけは仕方ないでしょう。
それに転移時の衝撃緩和で利用する突入ポッドも、操作用としてインパネルが必要でしょ?」
「あんまり単独機材でマルチ化させたくないんじゃがな…
その辺は汎用機で何とかならんから随分前から開発依頼しとったが、どうなったか」
「今度の進捗確認会、開発部門もマリアベル経由で出席を依頼しましょう。
以前のように衛星持ち込みとか原子力発電なんて、おかしな思想を変えていてくれれば良いのだけど…」
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