084 tr28, no lies/嘘じゃない
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【AD:2121年, 革命新暦:199年、冬】
冬至も終わり、俺たちにとって実質的に最後の誕生会まであと少し。
来年の今頃には異世界へ送られてしまうので、今年はこの世界で過ごす最後の年だ。
不安半分、期待半分かな。
知らない世界へ行かされる…そもそもどうやって、何すると世界を渡れるのか?っていうよくわからないものが怖いのと、監視さえ無れなければ楽しいこともたくさん出来るかな、という願いと。
なんとなくぼんやりしてたら、思いっきりぶっ飛ばされた。
「試合中にぼんやりするんじゃない。
オレが敵なら、もっとひどい目にあう」
「いっでででで…相変わらず手加減無しだなぁケーにいちゃんは。
まーでも前よりは良くなったんじゃない?」
「そうだな、最初は棒立ちで何もできなかったからな。
今ならフセスラフのラッシュくらいなら躱せるだろう」
「おっ、マジかよシティアすげーな!
さっそくやってみっか!」
「この犬バカは早速調子に乗ってちょちょっと待てってわーっ!」
彼は順調にナージャとの仲を育んでるみたい。
こんなことやってるけど案外手先は器用だったようで、最初の彫り物からは想像もつかない位出来の良い虎の像をプレゼントしてた。
何で知ってるかって?こないだの冬至でプレゼント交換してるの見ちゃったからね。
ナージャはナージャでフセスラフに、銀の腕輪を渡してた。
銀自体は俺が調達してきたけど、彼女は頑張って独力で彫金してたのは、四姉妹たち共通の秘密だ。
表立った交際は相変わらずしていないけれど、気が付くとそっと手を握り合ってたり、とっても微笑ましい。
こういうリラックスした雰囲気も、メンバーによっては難しくなってきた
アジンとメドベはもはや完全にアベルのいいなり、ドラクルとグリゴリもほぼ下僕だ。
リザとユリアも三歩下がって付き従うの態で文句の出ないようにしているし、おサルは完全にペット扱い。
シャスとシスはそもそも姿を見せたがらなくなった。
ここに居るフーちゃんとナージャ、俺くらいかな、消極的にして関わろうとしないのは。
ケーにいちゃん? 彼はマリアベル所長から特別扱いを受けてるしどっちだか分かんない。
どうも自分の意志、ってのをあんまり感じないし。
年長のアドバンテージもあるし色んな武器を使いこなせる、気配にも聡いし護衛には最適だと思うけど、どうしても積極的な発言ってのをあんまりしない。
ただ無口なだけかもしれないけど。
このままアベルの護衛だけ黙々とこなすのは、つまんない人生だろうなーと思っちゃう。
楽器の演奏以外で、なんか面白い事出来ないかなー。
そんで思いついたのは、石投げ。
単純だけど、簡単じゃないからね?
俺みたいに身体が小さい子でも威力は抜群、人間みたいな肩や腕の身体構造じゃないと石投げってできないんだよ。
昔はドベちゃんたち03の子達で石投げ競争して、的に当てるのが流行ったものさ。
石ならそこいらにも落ちてるから調達しやすいし、遠くまで届くし、大仰な武器なんて持ち歩く必要なくなるもんね。
授業にもないし、これは俺のオリジナル。
「ほらケーにいちゃん、ちょっとやってみ?」
ビュッと石を投げ、仕掛けておいた的に当てる。
「ん?ん…むむ」
「そんな大きい岩じゃなくていいんだよ、手で包めるくらいのサイズで充分。
よく狙って、最初は顔の近くから目線で追うように…そうそう、何度もやれば当たるようになるさ」
「意外だな、シティアにこんな特技があったか」
「なにー!俺だってやればできる子なんだぞー!
ホレ見てな、あすこに飛んでる鳥だって」
「おお、本当にすごいな。
オレも練習してみようか、動くものに当てられるなら立派な技術だ」
「そーだろー?ヘッヘッヘ、尊敬しても良いんだぜ?」
「もっと大きくなったらな」
他の子はあんまり興味なかったみたいだけど、ケーにいちゃんだけは上手く気に入ってくれたみたい。
少しでも、楽しいを教えてあげられたら嬉しいなぁ。
最近冗談も増えてきたし、この調子。
みんな、少しづつだけどこれからの準備を始めたみたい。
授業やイニシエーション以外で身に付けた技術もあるし、人間関係もそのままじゃ国の思惑に沿った形に作り直されるかもしれない、けれど俺は、僕は、従いたくない。
この思いは秘して悟られちゃいけない。
そのためにも、もう少しだけ我慢できるよう調整しなきゃ。
ユリアやリザは叛意を意気込んでいたけど、他の子はどうだろう。
少なくとも四姉妹の気持ちは感づかれないようにしないと、おかしなことになりそうで怖い。
何より異世界ってくらいだもの、向こうがどうなってるのかよく分からないのは気になる。
分からないけれど、今この世界でわかることは、俺たちは国のためだけに生まれたって事。
そのために大事に飼育されるのも、あと1年。
良くも悪くも、あと少しでいろんな思い出の詰まったこの施設を出る事になるんだな。
時々思うんだ、無為に殺されることはなくなっても、絶対の奉仕を求められる生って虚しい。
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