066 tr16, just alone/唯一人で
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【AD:2117年, 革命新暦:195年、夏】
「…何しに来たのよ。
哀れな火傷女を笑いにでも?」
「リザちゃん…僕、君に会いたくて来たんだよ。
怪我は治せるから大丈夫だと思うけど、リザちゃん真面目だから心配で」
「放っといていいのよ、こんなの自業自得だもの。
哀れの目で見られたくなかったからPCBにも口止めしてたのに」
「うん、正規の聞き方じゃダメだった。
僕も一応関係者だったから、捜査への協力や周辺情報の提供と引き換えで、リザちゃんの事教えてもらったんだよ」
「これだから03は嫌なのよ。抜け目ない…。
ここに来たって事は、事件のあらましくらいは知ってるんでしょ?」
「うん。
シャス&シスのコンビがあのあたりのケシ畑で数年前から阿片を精製してて、それを突き止めたリザが注意したら、あいつら不注意で発火して爆発事故が起こったんだってね。
あいつらも爆発に巻き込まれて怪我したけど、シャスは咄嗟にシスの影に隠れて捻挫、シスは重いし皮膚も固いから、リザより爆心地に近かったのにちょっと焦げただけだったよ」
「ハッ、なによそれ…私の一人損じゃない。
あいつらの処分はどうなったの?」
「二人ともしばらく独房行きで、別行動だって。
いつも一緒だったから、存外にショック受けたって聞いたよ」
「いい気味ね、出てきたら脅して手駒にしてやるわ」
「それはいいけど、リザは怪我の具合どんななの?」
「それこそPCBに聞いたんじゃないの?
生活に問題の出そうな四肢や臓器はちゃんと治してもらうわ、左眼はこの際だから新しく機能付きの義体を入れてもらう。
でも顔はそのまま。
これは今回、私の失態を忘れないための罰よ」
「罰って、悪いことはしてないよ」
「だってそうでしょう、幾らあの二人が愚かとはいえ、細椀の子娘一人が男性二人の、しかも一方は巨大で怪力、そんなところに助けも呼べない状態で飛び込むべきじゃない。
少なくともドラクルとグリゴリか、あるいはメドベージェフのような手駒を連れて行くべきだった。そうでなければPCBに相談すべきだった。
短絡的で軽率だった、私の失態に対する罰よ」
「リザ…そんなに自分を追い詰めなくてもいいじゃないか。
みんなに心配かけまいとして、自分達の内だけで解決したかったんでしょ。
それにあの二人が麻薬の精製に手を出してるのなんて、今に始まったことじゃない。
どうしてこの時期に単独で行こうとしたの?」
「…絶対に秘密にしてよ、いい?
見ちゃったのよ、偶々。他の14達を。
人数こそ3人くらいだったけど、まともにまっすぐ歩けないのを引っ張って、特別棟の方に連れて行かれるのを。
何処に居たって良いのよ、敗者なんてどうせ廃棄処分だもの。
でもあの表情、たった数年なのに面影も薄い、生意気なあいつらを想像すらできない酷い顔だった…。
何かのきっかけであいつらと交代になるかと思うと、怖くてじっとしてられなくてつい二人の施設にいっちゃったの…」
「辛かったね」
「せっかく頑張ってきたのに、気が付いたら誰も傍に居なくて誰の傍にも居られないの。
そのうえこんな怪我するようなおかしな事まで…もう、どうしたらいいかわからない…」
………
「…落ち着いたかな。
エリザヴェータ、聞いて。
よく『私を選んで』って君に言われると、僕は『欠陥品だから』なんて返してたでしょ。
あれね、冗談じゃなくて本心なんだよ。
僕も特別、見せてあげる。
どっちもついてる、『両性具有』なんだ。おまけに第二次性徴期も来ない、身体は一生子供のまま。
見た目こそ人間だけど生き物としては出来損ない、だから『欠陥品』なんだ。
カワイイカワイイってよく言われるけど、結局愛玩動物と変わらないんだよね。
だからリザの方がマシ、僕の方がヒサン、なんて云うつもりはこれっぽっちもない。
みんな他人には見せられない悩みを抱えてるだろうし、折り合いをつけなきゃいけないのも知ってる。
リザはさ、少なくとも僕にはお話ししてくれたでしょ?
どんな形でも僕はキミのことが大好きだし、独りで悩むよりお互いもっとお話しできれば少しは楽になるかなって思うんだ」
「もう…そうやって人を誑し込むの本当にシティアのずるいところよ。
でもありがとう、独りで病室にいると気が滅入って考え方もおかしくなってた。
少し、他の子達とも歩み寄っていいかもしれないわね」
「私ね、『若草物語』って本が好きなの。
私たち候補生ってナージャ、アジン、ユリア、あと私で4姉妹でしょ?
気の強い次女のジョーが私みたいで、あとユリアが引っ込み思案だから三女みたいだなーとか、いっぱい想像してたのよ。
だけど、みんな仲良くないじゃない。
本当は私だって全員と仲良くして、男の子たちとだってたくさん遊んで、ずっと先だけど暖かい家庭が欲しかったのよ…笑っちゃうでしょ。
だけど大事な使命があるのも忘れてない、異世界の資源回収。
強くなきゃいけない、仲間もうまく動かさなきゃいけないって、ここに来る前からずっと思ってて…だけどみんなバラバラで、もうどうしたらいいかわからなくてさ…
でもね、吹っ切れた。
この顔の火傷はね、今までの甘い考えを捨てて、いつもやらなくちゃいけないことを忘れないための、戒めにする。
本当はシティアイにはユリアや他の子じゃなく私だけを選んでほしかったけど、もうそんなこと言っていられない。
心配してくれたシティアのこと、私はやっぱり嫌いになれない。
だから願い、今は一緒に居て…」
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