065 tr15, lost side of the world/世界の欠片

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【AD:2117年, 革命新暦:195年、夏】



「メドやん、結局イニシエーションって延期になっちゃったねー」

「ああ、でも秋から始まるだろう。

 呼び名が選抜者ではなく候補生に替わり、複数人グループも解消されていたな。

 シティアは何か知っているか?」

「相変わらずメドやんは頭も筋肉も固いなぁ。

 何食べたらこんな力出るんだよ!」

「いつも同じものを同じくらい食べてるだろう。その身体のどこに入っていくんだ。

 それにキミほどの健脚はいないじゃないか、今だって走り込みは俺が周回遅れだ」

「今日はまた動きにキレがないねぇ」

「暑いの苦手」

「まーこれだけ分厚い毛皮じゃねえ、冬はもっこもこであったかいのに。

 まだ夏毛に生え変わらないの?」

「早いところ換毛してくれないと、茹だって死ぬ」

「あはは、皆でバリカン大会かな!」


「あれ?煙??なんだろ…ちょっと様子見に行ったほうが良いかな」

「す、すまないシティア、俺は疲れてもうダメだ…見て来てくれないか」

「うん、じゃあ行ってくる!荷物見ててね!」



「テメェふっざけんなよ!なんだその言い様は!」

「それはお前の方だ!我輩たちは何も悪くない!!」

「んだとコラァ!」

「ちょーっと待った!いま緊急事態!フーちゃんもドラクルもいったん離れて深呼吸!」

「シティアか…チッ、このやぶ蚊野郎、命拾いしたな」

「なんだとこの犬野郎!」

「だーかーら、ハイッ二人とも三歩ずつ下がる!

しんこきゅ~吸って~吐いて~吸って~吐いて~。

はいはいどーどー、目の前に火が出てて危ないから、四人ともまずは避難してからお話ししよっか。ね?」


「メドやんが待機してるのはあの辺だったかな、そろそろ大丈夫でしょ。

 そんで4人ともどうしたの?あれ、ナージャ火傷してるね、先に手当てしようか」

「いや、先に向こうへ救援を送った方がいい、逃げ遅れたものがいるかも」

「ナージャ、二次災害になるから今は待機。ほら、右腕出して。

 これどうしたの、一緒にいたのはフーちゃん?」

「だからそこのやぶ蚊野郎のせいでモガガ」

「はぁ…フーちゃんは後で聞くよ、トレーニング場で何かあった?」

「私とフセスラフはトレーニング場で組み手をしてたんだ。お互い待機時間だったんでな。

 その時にドラクルとグリゴリが二人で森の奥の方へ行くのが見えたから、声をかけようとしたんだ。

 そしたら…」

「そこの二人がよー、すごい勢いで走って逃げてきやがって。

 追いかけるようにとんでもない勢いの炎と煙が道沿いに吹き荒れたんだよ。

 そん時にドラクルがコケて腰ぬかしやがって…」

「やめないかフセスラフ。誰だって火災は怖い。本能には勝てない」

「…悪かったよ。オレも臭いが酷くて最初動けなかったからな。

 んでナージャが先行して奴らントコに行ったんだ。そしたら…」

「道脇の朽木に火が点いていたようでな、咄嗟に倒れるのを防いだらこのザマだ」

「…ナージャには悪かったと思う。だがそこの犬ッコロに云われる筋合いはない!」

「んだとゴラァ!」

「…次やりあったら、二人とも地の果てまで追いかけて金玉引っこ抜くぞ?コラ。

 それでグリゴリ、話の筋は合ってる?」

「う、うむ」

「じゃあドラクルとグリゴリの二人は、森の奥で何が起こったか見てたかな?」

「う、う、むむ」

「それは我輩から話そう。

 以前から森の奥から酷い臭いがして陽炎が立っておったのでな、我輩とグリゴリで調査に行こうと現地へ行こうとしたのだよ。

 奥の方には粗末な小屋が立っておってな、シャスチとシスナータッチがうろうろしておかしいと思ったところ…突然大爆発が起こってな、慌ててきた道を逃げてきたのだよ」

「ウソつけおめぇ、どうせまたリザの尻追っかけてたんだろーがよ!

 知ってんだぜ、オメーら授業そっちのけで四六時中あいつの後ろ追っかけてるのをよ」

「う、うるさい!それと今回は無関係だろう!

 だいたい爆発の時にリザ殿の姿はなかったでござる!」

「い、い、いやあの・・・リザ、居たよ」

「「「え?」」」

「た、多分…爆心地に居た。オラぁ、チラっと見かけた気がする」

「な、な、なんだと…なんで今まで黙ってた!リザ殿!」


「…ドラクル、走っていっちゃったね」

「もう消防部隊も救援部隊も来てるから、平気だろ。

 それよかナージャ、ちゃんと医療部に怪我見てもらえ」

「ああ、そうしよう。

 メドベージェフは倒れていたが平気なのか?」

「俺は疲れていただけだ。

 もう平気だから、俺も現場の様子を見てくる。

 シティアとグリゴリはどうする?」

「僕も行くよ。皆怪我してないか心配だ」

「…オラも行く」



「あぁぁあああ!リザ殿!エリザヴェータ様あぁぁぁあ!

 我輩が近くに居ながら助けられないなんて!申し訳ありませぬ!!」

「ほら退きなさい、救助の邪魔だ」

「あぁぁぁあ!我輩が治すのですぞ!」

「馬鹿なこと言わない、そこの木にでも拘束しておきなさい」

「あああああ!あああああ!」


「オラ、悪い事したか」

「別に?助けに行ったところで、爆発じゃどうにもならないでしょ。

 リザが怪我してたら、ドラクルと二人で慰めてあげな」

「…その時は、俺も行きたい。救助に行けなかった俺も悪い」

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