047 tr41, be with me or be gone/共に在ろうとも、或いは失せ去ったとしても
思ったほどケリーとルイーズは拗れなくてよかった。
ルイーズは時々人によってエラく冷たいが、小さいころ何かあったのかね。
さて翌日。
ルイーズの放課を待ち、共に楽器を持ちオズモシス商会へ。
「はい、会長からご用件を伺っております。
使いの者と共に工房へ向かいますが、よろしいですか」
「はい、お願いします」
昨日ほぼ空気だったヨンネが棺桶背負って出てきた。
「ん」
ああ、もともと口下手なのね。
工房で棺桶を下ろし、おもむろに手紙を渡すヨンネ。
「ん」
「おうヨンネ、オメェも相変わらずだな…どれどれ。
おう、アンタらケリーんトコの商会に来た若夫婦か!
まあ奥に入んな、詳しい話聞かせてくれや」
ケリーの野郎、またかよ…
ルイーズも顔赤くしてる場合じゃねえや。
ハゲ髭のドワーフ然としたオッサンの案内で、工房の奥へ通された。
「オレぁユッケ、ユッケ・エラカンガスってんだ。
このエラカンガス工務店で30年ばかし船舶用道具の細工をやってる。
ケリーの若旦那にゃ世話になってる、まずは話を聞こうじゃねえか」
「オレはケイン・カトー、転移者だ。
こっちはルイーズ・ブリャチスラヴィチ、フルヴァツカのイヴァン伯爵んトコの娘さん」
「おお、聞いたことあるぞ。
ライカンスロープで、大層優秀なんだってな」
後ろでモジモジしとる、まあいいさ。
「今ヨンネの持ってきた棺桶、あれを背嚢として改造できないかと思ってな。
前提として今オレの持つチェロとこの娘さんの持つギター、この2本を収めたい。
そのうえで旅で使うから、ある程度厳しい条件でも中に影響が出ないよう気密性を上げたり耐衝撃をつけ足したり、荷物を入れる空間も必要だ」
「どれ、楽器見せてみ。
うーん、棺桶に楽器ごとケースは入らねぇし、スペースは限られるな。
使えるのは桶としてのガワだけで、あとは背負うためのアタッチメントやら内張りやら大改造が必要か。
ヒンジは交換、接合部も機構変更、楽器なら湿気もダメだろ、気密性なら最近南国から輸入された樹木の脂を固めたやつがピッタリ隙間を埋めてだな…」
職人トークで日が暮れるまでかかってしまった。
途中で気を使ってルイーズに声をかけたが、そのまま背中同士寄りかかって教科書読んで、それでいいんだそうな。
無論、時々くすぐるが。
「ウム、大筋の方針はこんなもんか。
今置いてけば現物合わせで始めて、だいたい1週間で仕上がりだな。
昼間は時間があればなるべく毎日来て調整に付き合え。
お代はオズモシス商会で良かったか?」
「ん」
ヨンネ…
「わかった、なるべく来る。
ただ、でっかい狼が2頭付いて来るが、かまわんか?」
「ああ、ええよ。
うちの孫共の相手してくれりゃ、それでええわい」
「あっ、そうだ!
魔燕のヤドリギを付けられるようにできますか?」
すっかり忘れてた。
「出来るがその分荷室が減るぞ。
現物はあるか?」
「ああ、元々持って行く予定だから構わない。
明日持ってこよう」
預かったギターの代替を…と思ったが、既にルイーズは練習用ギターを別に持っていた。
「フィドルや笛もいいですね!」と、気丈に振る舞っているのがいじましい
大分遅い時間になったのでルイーズを女子寮前まで送り、ヤドリギを受け取っておく。
――――――――――
外側の塗装に瀝青を含んだ非浸水性加工、内側は楽器部分保護のため二重蓋、ヤドリギも落ちないよう工夫され、他の隙間に荷物を詰めるよう極力スペースを取った、特別仕様の背嚢が完成した。
両肩で背負う時も固い部分が当たりにくい、片手でケースのようにも持てる、ストラップで肩掛けも可能の優れモノだ。
おまけに補修用の針と当て布まで忍ばせてくれる親切仕様。
職人スゲェ。
盗難対策で飾り気はないが、ヤドリギの近くに金星の装飾を継承してた。
銃の貫通した孔はないけど。
予告にもかかわらず土曜日には仕上げてくれた。
「ケースだけでこの重さじゃあ、お前さんら巨人でなきゃ実用できないな」
30kgはあるか、これから中身入れるとかなりの重量になりそう。
「そこの白いのにも孫たちがずいぶんせわになった、こっちもありがとよ」
相変わらず接客担当はジロだ。
タロは・・・一生懸命棺桶をスンスン匂い嗅いでた。
まあ、アスファルト臭いわなぁ。
こういった舶来品を入手できるルートのひとつとしてオズモシス商会は重宝されてるらしい。
本拠地地中海沿岸で、プロイセンからバルトを通り、北海の方まで手を伸ばせるとなりゃ、そら強い。
「楽器の入ってたそっちのケースも忘れるなよ。
急ぎで酒も呑めなかったが、旅が終わったら土産話の一つもしてくれや」
ニカっとユッケさん、いいオヤジだ。
――――――――――
すっかり忘れていた、棺桶以外に楽器のケースを2つとも置きっぱなしだった。
これも大事な品物だ、学生寮の場所は知っているのでルイーズへ届けておこう。
土曜日でも通常授業だし、女子寮だから受付で預ければいいし。
寮の受付に近づくと、奥から不穏な視線を感じる…。
コロボックルだ。
見なかったことにし、サッと手続きを済ませ、ケースを渡し、走って逃げ…捕まった。
「なーぜー逃ーげーまーすーかぁぁぁ」
怖えよ、そんなキャラだったかお前!
「聞けばアウストリに戻り暫く経つというのに全然音沙汰なしで私も寂しいですよルーは特別としてもルーディのレストランまで訪れたり月曜日も学者まで来て直ぐ居なくなるなんてずるいです…」
「そ、そうはいっても、オレとキミは特別な関係じゃないだろ。
事前に約束したならともかく、個別に会ったのはルイーズとケリーくらいだ。
というかなんで昼過ぎなのに寮に居るんだ…あっ、たしかクリステンさん!
たーすーけーてー」
「あはは、随分アンに気に入られたねぇ!
それなら3人でスイーツでも楽しみましょうか、着替えるから待っててね」
アンの扱い慣れてるなぁ、さすが同級生。
土曜日の授業はお昼過ぎまでで、この時間は自習したり帰ってきたり人それぞれ。
最終的に赤髪のスヴェンさんとルイーズも合流し、近所の喫茶店でたっぷり奢りました。
あと少しで彼ら、彼女らともしばし会えなくなる。
この世界に来なければすれ違うことすらなかった人々だが、知ってしまうと別れは惜しい。
挨拶できる余裕があるだけ、恵まれているんだろうな。
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