SPLATTER FANATICS AND A LITTLE LOVE, THAT'S ALL 02

桜盛鉄理/クロモリ440

001 秘密基地はなぜかキャンプ

 錬金術の底上げのための修行、そのつもりだったがそうはならなかった。勉強会とか言いながらサニーデイ・カンパニーのメンバーが秘密基地ガレージに入り浸るようになったからな。まあおれの修行は夜にこっそりやるからいいんだが。


 JSTの効果でドラッグと手を切ることができたという人間が増えた。おかげで晴子の人気も上昇中だ。そして人の中心にいたいなら必要なのは金じゃ無く自分自身の魅力だということにも気付けたはずだ。人に頼りにされるために自分を磨く。おれにかまけるよりよっぽど健全だ。だから勝負を挑んで一喜一憂する必要はもう無いだろう? わざと負けるのも結構大変なんだぞ。


 上倉晴子はさすがに泊まらせず家に帰すが、赤井きつね緑川たぬきは泊まっていくこともある。すっかり合宿キャンプだ。ここにはミニキッチンも水道もあるし意外と二人とも料理ができる。味噌汁も作れるのか。カップラだけじゃないんだ「「なめんなよコラ」」

 吹き抜けの登り綱を腕だけでのぼり、吊したサンドバッグを叩く。ついには二人でタイムを競ってサーキットトレーニングまで始めた。武器にも興味を持ったので基本のナーランチャーを教えた。


 それを見た晴子も「あたしにも何か教えなさいよ」というので長拳の套路を教えた。縄標を使う演武が気にいったようだ。最近はJSTのせいで太っ……いや何も言ってないぞ、うん。体が硬いな。痩せやすくなるから柔軟もやろうか。「言ってるのと同じよ!」


 休みの日には遊茶公大と遊茶小枝子も秘密基地ガレージにやってくる。定期的に公大の義足の調整をしているからな。小枝ちゃんにもやらせるがオーバーホールまではさせていない。あとは運動とか体力トレーニングとかサボらないようにチェックしておかないとな。それでも間食をしたらあまり意味が無いんだが。

「おい、冷蔵庫の黒松ソーダ飲んだの誰だよ!」

「ああ、あれあんたのだったの? どんな舌してんのよ」

「飲んでおいてそれかよ! オオトリデパートの台湾フェアでわざわざ並んで買ったんだぞ」

「そんなに怒鳴らないでよ、減るわけじゃなし」

「減るに決まってんだろ! バレバレの嘘つくな! 弁償しろよ」

 いや公大がそこまで怒るのもどうかと思うぞ。並んだのはおれだからな。まあ、五香粉ウーフェンシャンが欲しかったからついでだが。


「ひでえ女だな。愛玉子オーギョーチーまで食いやがって」

「ええっ、ないの? 楽しみにしてたのに」

 小枝ちゃんが目に見えて落胆している。やっちまったな、晴子。

「えっ、あれあなたのだったの? ごめんね、てっきりシャウエッセンのだとばっかり」

「ハムですらねぇのかよ! いい加減にしろよハルコンネン」

「それはどこの誰なのよ!」「自分で調べろよ!」

 砂の惑星の登場人物だな。絵は晴子には見せないでおこう。

 二人のやり取りを見て一瞬驚いた表情の小枝子だったが、「あんなふうに女の人と話すお兄ちゃん、初めて見た」と小声で言った。うんうん、一緒に生暖かく見守ってやろうな。


 遊茶小枝子のプラモのマイブームはマーキングやウェザリングをしたり、小さいクリアパーツを識別灯に見立てて要所に貼り付けたりしてリアル感を出すことだった。

 その流れでステーショナリーにビーズでデコ加工したりプラケースにエングレービングをしたりしていたのだが、サニーデイ・カンパニーのメンバーがそれに興味を持った。小枝ちゃんもうれしそうに晴子のコンパクトミラーをデコ加工したり、赤井きつね緑川たぬきのジッポーにそれぞれ狐と狸のエングレービングをしてやる。

「これお金取っていいレベルでしょ?」

「むしろ売ったほうがいいな」「ああ」

「小学生にリアルな金の話をするんじゃねえ!」

 目下商品化検討中だ。

 お返しにと言って晴子は小枝子とキャッチボールをするようになり、赤井きつねはバスケ、緑川たぬきは洋楽のCDを貸したりギターを教えたりするようになった。「メタルはまだ早いって言っただろ!」


 そのうちに赤井四葉までが秘密基地ガレージに顔を出すようになった。「バイクの調子が悪い。工具貸してくれ」とか言われてもここはバイク屋じゃ無いんだが。まあ、確かに工具はあるが。ついでにとか言ってオイル交換は勘弁してくれませんか。

  おれ秘密基地ガレージに工具を揃えているのは古い自動車をここに運び込んでレストアしているからだ。深夜の散歩の途中に山に放置されていた昭和45年頃のセリカを見つけたのだ。

 そいつは通称ダルマセリカと呼ばれる自動車できちんとレストアできれば結構高値で売れるはずだ。赤井四葉はそれを赤井きつねから聞いていたんだな。

「へー、これが例のセリカか。むかし兄貴の先輩んちの裏山にもあったな。今もあんのかな」

 な何それ詳しく! オリジナルの部品が手に入るなんてそうそう無いからな。

「お、おう。じゃあ訊いてみっけど、あたいにもなんか情報料くれよ。お、これなんかいいな」

 そう言って四葉は壁に掛けていた三節棍を手に取った。継ぎ手に仕掛けがあって棍にもなるリー・リンチェイ仕様だ。しかし素人にあまりお勧めは………って使えてるよ。

「色が赤いのも気に入ったよ。じゃあもらってくぜ」

 はい。じゃあよろしくお願いします。


 2台目のセリカを譲り受けて秘密基地ガレージに置いておくとさすがに皆に驚かれる。

「前から思ってたけどよ、零一の手品それっておかしいだろ?」

 おかしくないだろう? 手品なんだから。何か問題でも?

「「それで誰が納得するかよ!」」

「手品ってのはタネも仕掛けもあるんだぜ。それを聞かせろよ」

 科学技術その他もろもろの応用だ。あとは錯覚効果だよ。先週のテレビで引田天功とかカッパーフィールドとかもやってただろう?

「あれすごかったわよね! イリュージョンだっけ?」

「ああ確かに……ってそれでごまかせるわけねーだろ!」

「「見てできるなら苦労はねえよ!」」


 次の休みには水上錦次も側近を連れて秘密基地ガレージにやって来た。ダルマセリカに引き寄せられたのか? 鼻が利くな。

「こいつはすげえな。何なら俺が引き取ってもいいぞ。乗って見てえ。売る気はねーのか?」

 飽きたらそうするよ。ずっと手元に置くつもりも無いしな。作っている時が楽しいんだよ。

「そこにいるのは血紅師ちべにしの赤井四葉か? 魔騎士魔武マキシマムの水上だ。よろしくな」

 ん? 四葉さんとは初対面なのか?

「名前は知っていたがな。『さびしぐれ』のコンサートで見たことがあるが話すのは初めてだな」

「なな何でテメーが錦次さんと知り合いなんだよ! ああもう! 言っとけよ!」

 赤井四葉が「すぐ戻るから待ってろください!」と言ってバイクで飛び出していく。

 1時間ほどして戻って来た彼女はめかしこんでいて、昼飯には彼女手製のチャーシューと煮卵を乗せたそうめんと杏仁豆腐が並んだ。

「姉ちゃん、何のアピールだよ?」

「うううるさいな! 『五代十国』直伝の味だ。よっく味わって食べな!」


 四葉が出ていったあと、水上のおっさんがおれに話しかけてきた。やっぱり車のことだけじゃなかったか。

「あのあとだがちょっと面倒なことになってな。また手を借りるかもしんねえ」

 面倒ってなんだ? 蛾眉丸がいなくなれば楽勝じゃなかったのか?

外硫児架ゲルニカは潰したんだが残党が別のところとくっついて新型ドラッグを流行らせようとしてんだよ。『ファナティック』って言うんだが本当に人が狂っちまうようなやつだ。狂った中毒者を俺らは『ラフィン』って呼んでる」

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