【短編小説】妄想に生きる男

Unknown

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 俺はとある小説投稿サイトで執筆活動をしている27歳のくだらないニートだ。群馬の安いアパートで1人暮らしをしている。だが俺には付き合っている彼女がいる。姿は見えないが、彼女の顔は知っている。俺はスケッチブックを近所で買ってきて、彼女の似顔絵を2Bの鉛筆で描いた。鉛筆を握ったのは小学生以来だった。ちなみに俺の彼女は黒髪のボブで目が大きくてめっちゃ可愛い。俺は絵を描くことに興味は全く無いのだが、学校での美術の成績はいつも良かった。写生大会でも何度も入賞した。俺は多分、絵の才能があったけれども、俺自身が絵を描くことが好きではなかった。俺はどちらかと言うと、文学の道に進んでいった。カクヨムで俺が「代表作」にしている「シャーペンカチカチ無双」は不朽の名作だと俺は思っている。読んでね。

 俺は深夜4時の真っ暗な部屋の中でシングルベッドに横になりながら、横で寝てる彼女に声をかけた。


「まだ起きてる?」

「うん、起きてる」

「もう4時だね」

「そうだね」

「愛莉は今日も仕事なんだよね?」

「そう」

「だったら、早く寝ないとやばいな。もうすぐ朝になっちゃうよ」

「眠剤飲んだけど寝れないよ」

「だったら俺の眠剤分けてあげるよ。リスミーって薬」

「いや、いいよ。もしリスミーが効きすぎて今日の仕事に支障が出たら困るし。もし朝まで寝られなかったら、そのまま会社に行くから。平気だよ」

「そっか。でもあんまり頑張りすぎるなよ。愛莉はいつも頑張りすぎてるんだ」

「そうかな」

「うん。あんま頑張るな。もう既にかなり頑張ってるんだから」

「でもUnknownは働いてないじゃん。だから私が仕事頑張らないとUnknownを支えられないの」

「……」


 彼女は俺の隣で泣いていた。でも俺はずっと無表情だった。どうして俺は働けないんだろう。若い時はずっと働けていたのに。職場の便所や自分の車の中でリストカットを頻繁にしていたけど、働いて社会の役に立っているという事実が、俺の自己肯定感を高めてくれて、生きていられた。でも今の俺は何も仕事をしてない。在宅でパソコンやスマホで入力作業をする仕事をやりたいと思っているが、結局やってない。全く行動力が出ないのだ。


 ◆


 ドラゴンクエストやファイナルファンタジーのような世界で俺はずっと勇者として戦ってきた。だけど、俺はある時、気付いてしまった。俺が経験してきたファンタジーの世界の出来事は、全て精神科病院の閉鎖病棟の中で行われていた事だったのだと。俺は頭が狂っていたんだ。俺の統合失調症が寛解した時、俺は泣いた。別に嬉しかったわけじゃない。悲しかったわけでもない。人間の脳のくだらなさに気付いて、俺は泣いたんだ。まあそうだよな。あんなに脆弱でプニプニでピンクで柔らかくて。そんな臓器に俺はきっと一生涯苦しめられるんだな。


 ◆


 統合失調症の患者が、部屋に置いてあったゴミ袋を「自分の恋人」だと認識してしまって、その結果ずっとゴミ袋を愛してた人が居たらしい。病気が寛解したら、恋人なんて実は存在してない事に気付いてしまって、絶望したらしい。こんな悲しい話は無いですよ。


 俺が今ベッドで一緒に寝ている彼女の存在が、もしかしたら全て俺の妄想かもしれない。昨日、肉体的な関係を持った。その彼女が実は全て俺の妄想かもしれない。そう考えると怖いけれど、今俺のベッドで寝ている彼女の頬を撫でてみたら、ちゃんと感触を感じたから、おそらく実在する彼女なんだと思う。きっとそうだ。





 終わり

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