第17話 VS雷
今日もみんな楽しくアイス大会も無事に終えた。
やっぱり暑い中で食うアイスは最強なのだろう。おっかさんや女たちは自分のお気に入りのアイスをペトラに注文し、ペトラがそれに応えて作る形に変化していた。
なんだか屋台でもやってるみたいだったな。ペトラも屋台の大将のような風格がにじみ出ていた。
まぁ、ペトラも楽しそうにしていたからよかったがな。
だが、今回もペトラの思う最強のアイスは完成しなかったようだ。
ペトラのアイス道は続く。
そんな一日を終えて、オレはまた砂漠に精霊を吸収しに来ていた。
ぶっちゃけもう有り余るほど魔力はあるのだが、もう少しでなにかが起きそうな気配がしたのだ。
それが何なのかはわからない。だが、オレは自分の直感を信じて、今日も砂漠に来たというわけだ。
『見つけた』
砂漠の上でふよふよ浮いているトカゲの精霊に尻尾を突き刺そうとした時だった。
『そうか。この辺りの精霊の減少の犯人は貴様か』
『ッ!?』
振り返れば、まるで二十センチほどの人形のようなものが浮いていた。まるで民族衣装のような服を着た男の人形だった。あれも精霊なのか? 人型の精霊なんて初めて見た。
だが、その窺うような嫌な視線には覚えがあった。昨日の夜から今日の昼間もたまに感じていた嫌な視線。その正体がこいつか。
『お前か? オレのことをチラチラと覗き見してた野郎は?』
『下級精霊ごときが、中級精霊の儂に生意気な口を利くとはな』
『あん?』
下級だ中級だうるさいな。オレは人を勝手にカテゴリー分けする奴が大っ嫌いだ。オレの中でのこいつの好感度が下がった。
『見てたぞ? 貴様の行動を。劣等種たる人間のメス相手に尻尾振って。貴様には高貴な精霊としての自覚が足りん! しかも、そのために同胞に手をかけるとは許されざる行為だ! 貴様は、世界の均衡を預かる精霊としてふさわしくない。よって、儂が貴様に裁きを下す!』
『能書きはいい。気に入らないから貴様を殺すって言えばどうだ?』
オレは悪だ。悪である自覚がある。
悪が正義に倒されるってのも、お約束の形ではあるのだろう。
だが、こいつはどうだ? 自分は正義だと信じて疑わってねえ。よくいるタイプのオレの大嫌いな偽善者に似てやがる。こいつの正義は本物か?
オレにはこいつの言う世界の均衡だとか難しいことはわからねえ。
だが、そんなオレにもわかることがある。
オレが死んだら、ペトラはどうなる?
小金があるからしばらくはいいだろうが、金はいずれ尽きる。とてもペトラが成人するまではもたねえ。
じゃあ、ペトラはどうなる?
また捨てられるのか? オレ無しでもペトラは生きていけるのか?
答えはもうオレが初めてペトラを見た日に出ちまってる。生きていけないんだ。
それに、おっかさんたち、娼館の女たちはどうなる?
あいつらに、またペトラを捨てさせるなんて惨めなマネをさせるのか?
『させられるわけがねえよなあ?』
もう一度言おう。オレは悪だ。自分が悪であることを自覚している。
だが、そんなオレにも曲げられねえものがあるんだ。
『消滅せよ! 裁きの雷で!』
男が腕を振り下ろすと、視界が真っ白になった。そして、体がバラバラに砕けちまいそうなほどの衝撃を受ける。
男はなんと言った? 裁きの雷? 最悪だな。こいつ、雷の精霊かよ!?
頭も悪いオレでもわかるぞ。水タイプじゃ雷タイプに勝てねえ。効果はバツグンだってやつだ。ド畜生が!
『うぐ、クソ……』
体中がビリビリと痛む。そのまま破れちまいそうなほどに痛い。精霊になって痛みを感じたのはこれが初めてだ。
見れば体中が沸騰したようにぐつぐつ煮えたぎっていた。
このままだと、あの雷男が言っていた通りに蒸発して消滅しちまう。
『ほう? 吹き飛ばしたつもりだったが、まだ原型を留めているとはな。精霊を取り込んで魔力を底上げしたか。下種なマネを……。魔力だけなら儂を凌ぐほどだな。貴様、いったいどれだけの精霊を手にかけた?』
『へっ……。覚えちゃいねえなッ!』
雷タイプには岩だろうということで、岩の魔法を使う。創り出したのは無数の尖った石の群れだ。そいつをショットガンのように発射する。
『くっ!? なぜだ!? なぜ水の精霊である貴様が土の魔法を使える!?』
『自分で考えなッ!』
どうやら効果があるらしい。雷男が初めて狼狽えたような声をあげる。
『おらおら!』
『ぐふっ!? 調子に、乗るなあ!』
『かはっ!?』
さすが雷ってか、速すぎて攻撃を避けるとかそんな次元じゃねえ。
しかも、この雷男も雷の速度で動けるのか、だんだんオレのショットガンが当たらなくなってきやがった。
このままじゃマズい。そんなことはわかってる。だが、どうすりゃいいってんだ!?
このままではペトラを助けると約束したオレの言葉も嘘になっちまう。ペトラが、おっかさんが、娼館の女たちが……。
今のオレは自分一人のだけの命じゃねえ。たくさんの命を預かってるんだ。
こんなところで負けられるかよ!
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