第1週 4話

年鑑 フューチャー・ウォーカー

WEEKLY 1st 「未来人ですが何か問題でも?」


≪4≪


「え…髪の毛の色が…!?」

 一刻かずときがナギの頭に謎の粉をかけた直後、異変が起き始めた。彼女の髪の毛の色が金から黒に変わった。


「…この〝ヘアーパウダー〟は、一瞬で髪の毛の色を変える効力があるわ、時代に合わせてみたけど…」

「そっちの方が落ち着いている…艶があって鮮やか黒だな」

「この時代は何かと面倒ね、20世紀の文化を勉強しないと…」

 ナギは性格に難があるが、容姿はお世辞抜きで申し分なかった。


「…ところで、ずっと気になっていたんだが、そのは何だ?」

 ナギの身だしなみは解決したが、一刻はまた別のことが気になっていた。それはナギの傍にいる謎の人工生命体、2頭身の球体形状ボールフォルムで統一された青いダルマである。


「次元転位型ドローン〝ガーディアン〟愛称は〝ドラッチ〟よ」

[…ご紹介が遅れました、おはようございます、一刻さま…]

は人工知能が搭載された最新鋭のドローンでね…」

「はあ…」

 一刻は聞き慣れない言葉を耳にして、理解できないまま小刻みに頷いていた。人工知能やドローンが登場するのはもう少し先のことである。


「…つまり、頼れる相棒よ、困った時に助けてくれる、さっきみたいに必要な商品の購入手続きもしてくれるし…」

 ドラッチには他の役割があるが、その詳細は後程に。


「…相棒は置いていくことはできないのか?」

「それは無理…見えないようにすればいいのね?」

[〝光学迷彩カムフラージュモード〟に切り替えます]

 ドラッチがそう言うと、彼女の姿が消えた。雲隠れすることは容易なことのようだ。一刻が気になることはいくつもあり…


「それと…そのなんだが…」

「通信、翻訳機能が搭載されていて、調べたい物にかざすと、読み込んで検索してくれるわ…他には催眠機能とか…」

「へえ…」

 一刻は少しだけナギとの距離を縮めた。ようやくナギの外出許可が出て、彼女は一刻の行きつけの店に同行した。


「…いらっしゃい、あら、お連れがいるなんて珍しいわね」

 一刻たちが喫茶店に来店すると、1人の女性店員が応対した。


「どうも…いつものモーニングセットお願いします」

「朝から女友達ガールフレンドと食事なんて…やるわね」

「違いますよ…単なる学校の友達です」

「この辺では見かけない顔ね、何方にお住まい?」

「私は未来から…!」

 その時、ナギは何か妙な視線を感じた。一刻は余計なことを話すなとで訴えた。


「…アメリカに留学していて、最近帰って来たんですよ、隣町に住んでいるんだよな?」

 一刻は咄嗟に思いついた作りうそ話で、その場をどうにか凌いだ。一刻はナギと一緒に特等席に座るわけだが…

 

 一刻の叔父、隼人はやとが経営する喫茶店<mii>は、モダンな環境で奥行きがあり、隼人マスターが淹れるコーヒーが店の売りだが、他に魅力があった。

 修治たちに愛想よく接する美人店員ウエイトレス美衣みいは、隼人の妻だった。

 美衣はお世辞抜きの美人妻、アラフォー女性の色気、高貴なオーラが放たれたマドンナ的存在であった。

 多くの男性客は彼女目当てに来店しており、一刻もまた叔母の虜になっていた。

 

 はっきり言って、隼人と釣り合っておらず、まさに美女と野獣の夫婦であった。ちなみに、はやとは見た目が厳つく、接客が苦手なため、若い客や女性客の応対は、ほとんどみいに任せていた。


「…まあ食べろよ、ここのモーニングは絶品だうまいから」

 一刻たちの席の卓上には、トースト、サラダ、ゆで卵、コーヒーとモーニングセットの定番メニューが並べられていた。

「へえ、これが20世紀の朝食か、頂きま~す」

 ナギは期待感を持って、注文した物を味わうわけだが…


「…やっぱり、ここのコーヒーは美味しい!」

「やっぱり…?」

 一刻はナギの妙な感想を聞き逃さなかった。


「…私、変なこと言った?」

「何か以前に食べたことがあるような言い方だな…」

「え…?それは…違う店で飲んだのと似てたからよ…」

 ナギは珍しく、冷静さを欠いていた。

一刻は疑問を抱くが、すぐ気持ちを切り替えて食事に集中した。2人は心地よい朝の生活を満喫するわけだが…

「…!」

 その時、一刻は何かを察知して、顔色が悪かった。店の厨房から殺気を放っているのは、叔父はやとであった。彼は言葉に出さないが、「食ったらさっさと帰れ」という合図サインを送っていた。


「お金持ってるけど…」

「そんなのいいよ…ついでだ」

「男の株が上がったわね~」

「だから、デートじゃないって…」

 一刻は美衣おばにからかわれながら、2人分の会計を済ませた。


「本当に美味しかったわ、私のいる世界の食事は味気なくて…」

「歯磨きとかしないから想像はつくな…」

「気に入ったわ!ここに住むよ」

 ナギの今の発言で、一刻の体が一時固まった。


「何馬鹿なことを言ってんだ?早く用件を言って、どっか行ってくれ!」

「まあまあ、そう言わないで…よろしくね~」

 ナギは一刻の苦情クレームに聞く耳を持たず、平然としていた。

 一刻は悪夢から逃れられず、未来人へんな女性の暴走に付き合わなければならなかった。

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