夏って言って

@subarutelescope

第1話

 公園で滑り台のてっぺんに立つ。セミが

鳴いている。どうして、葉っぱはこんなに緑色で、木はこんなに鮮やかで、下にいる君の笑顔はこんなに柔らかいんだろう。

 電車が通る——その瞬間を見計らって、「なに?なんか言った?」僕が返す。君が何かを言う。君は、そういう悪戯が昔から好きだった。君はどうして、そんなに無邪気で美しいんだろう。わかってるよ、君がそんな悪戯するからさ、僕にだってわかるんだ。

 「君が好き」でしょ?嬉しい、君の声。

君の声は誰よりも明るい。ダメだね、君の声は明るすぎて、夏休みで遅めに起きる僕には少し明るすぎるみたい、だから、次に電車が通った時、僕も言った。

「僕の全ては君のもの」



———————————————————



「君が好き」なーんて、キザなこと言っちゃったな、と我ながら思ってた。でも、まさかそれ以上にキザな言葉で返してくるなんてね。あなたは、いつも劇作家。滑り台の上に登って、子供みたい。でも、あなたの声と言葉が好き。いつも、辞書にない言葉で愛を囁いてくれる。あたしのイタズラを、受け止めて、返してくれる。

 だからあなたが好きなのよ。世界一。



————————————————————

雨が降る、梅雨が来る。カエルが鳴く。

そんな当たり前の季節が、もう長くないことを知る。地球温暖化って、夏と冬しかなくなっちゃうんだって。学校で聞きかじった情報。本当か嘘かわからないけれど、君とのこれからの思い出に、少し花が添えられなくなってしまうなあ。なんて、残念がっていると、

「おい、砂川!」同級生が駆け込んでくる。

「河原、学校やめるらしいぞ!」

‥‥は?


一瞬、飲み込めなかった。なんで、なんで、

どうしてだ。一言も言わなかったじゃないか、僕らの2ヶ月は、ただの遊びだったの?

僕は君の家へ走った。まだ蒸し暑くない、心地よい風を体で感じながら。


「はあ、はあ」家の前へ着くと、君のお母さんがいた。

「あら、なんのご用でしょう?愛莉のお友達?」

慌てて聞いた。「愛莉さんいますか?」

「あらー、今いないのよ、どこほっつき歩いてるんだかねー、ごめんなさいね」

「ありがとうございます!」

出不精の彼女が家にいない、学校にもいないとしたら、行くのはあそこだけだ。僕は公園へ走った。


 彼女は公園で水を飲んでいた。

「あ、砂川くん」呑気な声だ。

僕は少し怒っていう。「学校辞めるって、

どういうこと?」

「あー、聞いちゃったかあ、そんなに大げさなことでもないの、ただ、ちょっと疲れちゃって」

「‥何に?」ぼくは少し苛立って答えた。彼女が本当の理由を話していないと思ったからだ。

「すべて‥かなあ、将来とか、学校とか、

自分のこととか、家族のこととか、色々?w」

「‥俺のことも?」

「うん、正直。正直、重いんだよね。やめて欲しかった。」

「そっか、わかった。」僕は、悔しくてたまらなかった。少し強がって俺といったことも、人に伝える愛には制限があることも。


————————————————————

「ごめんね‥」彼と別れたあと、少しベンチで泣いた。なんで、私だったんだろ、あんないい人、他にいくらでも相手いるのに。

私はクローン病だ。治らない、かも知れないし、手術を受けても、元の生活には戻れない。


-地球温暖化って、夏と冬しかなくなっちゃうんだって-


もしそうなら、私はずっと夏がいい。君を思い出していられるから。また、いつか、君が私のことを一番だと思わなくなったら、会おうよ。私の世界一。ずっとずっと忘れないから、忘れてやんないから。神さまは、私たちをいつまでも幸せには暮らせないようにしたけど、私は君を、たとえダメだと言われたって、愛してやるから。だから、お願い、あなたは私のことを忘れて、どこかに行っていて。


それが、私にとって1番の救いだから。


ねえ、神さま、夏と冬しかないならさ、彼にも聞いてみてよ、夏と冬どっちがいい?ってさ。もし、冬を選んだら、殺してやる!って言っといて!



ねえ、君がこの先どんな素敵な恋人に出会っても、どんな良い家庭ができてもさ、あの夏の思い出だけは、ずーーーーーっと、持っておいてよね。そうすれば、私はあなたの中で生きていられるから。大好きよ、誰よりも。

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