転生したらスパダリだった!?前世で三流テロリストだった俺が断罪される公爵令嬢をギロチンから救う

路地裏ぬここ。

第一章 スパダリと断罪されるご令嬢

第1話 公爵令嬢、ギロチンの危機!

「アリスン・コールリッジ! 君との婚約は破棄する!」


 ヒイラギ皇立学園高等部の冬の創立記念パーティーにて事件は起こった。


 これまで楽しくダンスを踊っていた生徒達は、いきなり始まった婚約破棄断罪イベントに騒然とし始める。


 場の中心にいるのは、ヒイラギ皇国第三皇子であるニコラス・ネイト・ヒイラギ。その横には男爵令嬢であるケイシー・マクナイトが微笑んでいる。


 そして、二人と対峙している美しい少女が、アリスン・コールリッジ。


「君は、ケイシーを階段から突き落としたそうだな! 幸い怪我は軽かったようだが、見ろ! 捻挫をしてしまったではないか! せっかくのダンスパーティーで踊れずに可哀想ではないか!」


 ケイシー嬢はわざとらしく包帯をぐるぐる巻きにした足にヒールを履き、豊満な巨乳をニコラス皇子に押しつけながらしなだれかかっている。


 ガチな捻挫だったら、ヒールも履けないと思うのだが。



「ケイシー嬢、悪い笑い方だよなぁ。そう思わないか? アレク」


 横から従兄弟のケネトが、俺にこそっと耳打ちする。

 

 俺達は断罪シーンを見つめるオーディエンスの一人として、その場に立っていた。


「クズ皇子、相変わらず変な女に手を出したね」


「アリスンがそんなことするわけないじゃないの」


「でもあの巨乳なら仕方ない。男なら騙されて当然だ」


 周りもざわざわとしながら三人を囲み、好き勝手に感想を述べていく。ニコラス皇子の行いが悪いせいか、ニコラスとケイシーに批判的な声も多いが、ケイシーの巨乳を賛美する男子の声もちらほら聞こえてくる。


「あの捻挫、絶対にケイシー嬢の自作自演だと思うけど」


 ニコラスとケイシーと面識がないケネトでさえ、この感想である。



 ヒイラギ皇立学園高等部は、政治家や官吏を養成するための総合教養科、騎士を養成するための騎士科、そして魔術師や魔道具師を養成するための高等魔術科に分かれている。


 ヒイラギ皇国のみならず周辺諸国からも留学生が集まる、大陸の西側きってのマンモス校だ。


 場の中心にいる三人は総合教養科の二年生だったから、高等魔術科一年の俺との接点は皆無だ。ただ、学園の三角関係の名物としてなんとなく名前は覚えていたのだ。



 ニコラス皇子は女癖が悪いことで有名で、貴族のみならず、平民富裕層とも浮名を流す性欲男だ。


 ニコラス皇子の婚約者が、名門公爵家の長女であるアリスン・コールリッジである。なぜ名門公爵家のご令嬢であるアリスンが、そんな浮気男のクズ三昧に耐え忍んでいるのかは謎だ。

 

 名前は知ってはいたものの、アリスン・コールリッジ公爵令嬢その人を見たのは初めてだった。


 淡い桃色の髪に、藤色の瞳。透けるような白い肌にさくらんぼのような唇。華奢な体躯。清楚で美しく整った顔が悲しげに揺らぐ。


 兎を連想させる可愛らしさだ。俺はアリスンの表情から目が離せない。そして彼女の身体から魂の姿が見える


 あの子は――俺の――――。



「君のような凶悪な女は母上に言ってギロチンにかけてやる! おい、連れて行け!」


 ニコラス皇子は顎で衛兵に指示を飛ばす。


 ヒイラギ皇国は女帝が治める国家である。ニコラス皇子のママがその皇帝陛下だ。


 しかし、階段から突き飛ばして捻挫させただけでギロチンなのか。打ちどころが悪くて死んだ、なら話は別だが、ケイシー嬢はピンピンしてるじゃないか。


 ママは皇子の言うことはなんでも聞いてしまうのだろうか。


「違います! 私は突き落としたりなんて……ッ!」


「じゃあなんだ? 君はケイシーが嘘をついているって言いたいのか!」


 ニコラス皇子の鬼の形相に、アリスンは涙を浮かべながら俯く。



「あーあ、どうなるんだろ。本当にギロチンなのかなぁ」


 ケネトはぼけーっと呑気なことを言う。


 恐怖に震えるアリスンの姿が、強烈に脳に焼き付いてくる。


 ギロチン――あの断頭台に首をかけられる時のなんともいえない恐怖心。今でも漏らしそうなくらいブルブルと震えてきちゃうんだぜ。簡単にギロチンとか言うな。


 衛兵に引きずられていくアリスン嬢を見て決意する。


「……あんなに可愛い方をギロチンになんてかけさせるわけにはいかないだろ!」


「え……なにそんなに燃えてんの?」


「彼女と出会えたのは運命だ。このために俺は地獄から蘇ったんだ! 現世こそ俺は彼女を幸せにしてみせる。絶対に彼女を助けるんだ!」


「へ!? またいつもの病気が発動しちゃったのか?」


 ケネトが嫌そうな顔で俺を見ている。それをあえて答えずにこう続けた。


「彼女が連れて行かれるのは王宮の地下牢だろ? そんなところにあの可愛い令嬢を入れられてたまるか。追うぞ。カチコミかけてやる」


「カチコミって言葉を使うんじゃない。テロリストだか海賊だか知らないけど、もっと品よく振る舞いなさい」


 ケネトは語彙の選択には文句を言うが、第三皇子に喧嘩を売ることには反対しない。男とは、好きな女の子のためには命をかけるものだ。


 ケネトとは付き合いが長い。彼は男の美学をわかってくれている。


 俺達は騒然とするパーティー会場を抜け出して、衛兵たちを追う。


 アリスンは衛兵に無理やり馬車に押し込まれている。そして馬車は学園の敷地を出発し、王宮へと走り出した。


 襲撃場所は学園を出た先のメインストリートに差しかかる前の道と決めた。足に俊足の魔術をかける。


「俺にはかけてくれないんかい!」


「お前は後から来いよ」


 あえてケネトには俊足魔術をかけなかった。奪還シーンはカッコよくソロで決めたいじゃないか。


 馬車が学園を出て、人通りがない道を進む。俺は飛行魔術で飛びあがり、ドンッ!と勢いよく馬車の上に飛び乗った。衝撃で馬が嘶き、驚いた御者が馬車を止める。


 騎馬で馬車を守っていた衛兵達が、驚きととまどいの表情を浮かべながら馬車を見上げ、剣を抜いた。


「貴様、何者だ!」


「第三皇子、ニコラス殿下の馬車と知っての狼藉か!」


 やられ役のお決まりのセリフだ。彼らに構わずに馬車から華麗に降り、ドアを開けた。


「アリスン先輩、お怪我はありませんでしたか?」


 王子様然と、紳士にアリスンへ手を差し伸べる。アリスンは俺を見て目を見開いた。


「えっ……? どうして銀糸のスパダリがここに……?」


 茫然としながら、聞きなれない言葉を呟く。


「貴様、勝手なことをするな!」


 衛兵が慌てて馬から降り、剣を俺の方へ振りかぶる。アリスンが恐怖で顔を強張らせるも、俺は一瞬の回し蹴りで衛兵の横っぱらを急襲し、撃退してみせた。


 このハラハラドキドキのカッコいいシーンを見せたくて、あえて馬車のドアを開けたのだ。衛兵を片付けてから馬車、ではダメなのだ。


 アリスンをゆっくりと馬車から降ろし、残りの衛兵と対峙する。衛兵は三人。一人は回し蹴りで沈めたので残りは二人。


「か……カッコつけてんじゃねぇぞ!」


 一人の衛兵が斬りかかってくる。俺は一瞬で衛兵の間合いに入り、拳を腹に叩きこむ。もう一人を睨むと、剣を構えたまま硬直している。


「俺の名は、キャッツランド王国第二王子、アレク・オーウェン・キャッツランドだ」


 キャッツランド王国第二王子、というパワーワードを聞いて、衛兵は戦慄の表情を浮かべる。


「ニコラス殿下、ならびに皇帝陛下にお伝えしろ。階段から突き落として捻挫くらいで、ギロチンは重すぎる。罰金刑くらいに留めていただきたい」


 剣を抜き、柄に描かれたキャッツランド王家の紋章を見せた。


「それに、冤罪の可能性もある。彼女の身柄は俺が預かった」


 その時、ようやく息を切らせたケネトが追いついてきた。


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