第56話 元クラスメイトの支配する街



 発情犬2匹をなんとか満足させ、翌朝、俺たちは出発した。

 あのアホえろ犬ども、媚薬の味を覚えたせいで、あの後何度も……いや、詳細は言うまい。

 ともあれ、俺たちは元々の目的地である、サラディアスの街へと到着した。

 スパイであり奴隷のエルフ、リナリーゼがここに、勇者軍の一人がいるって言っていたからな。


 そいつから女神の情報を抜き出すために、ここへとやってきた次第だ……が。


「なんだこりゃ……? 外壁の扉が閉まってやがる……?」


 サラディアスの街は魔物よけの外壁でぐるりと囲まれている。

 入り口には大きな扉があるのだ、それが今はしまっていた。


 そのせいで、門の前では大行列ができていた。


「ダーリン、事情聞いてきました~」


 ばるんばるんと、胸を無駄にゆらしながら、エリスが戻ってきた。


「で、なんだって?」

「勇者軍が街を占拠してるんだってさ」

「……はぁ?」


 なんだそりゃ?

 街を占拠?


「なんかね、勇者軍のひとが入り口で荷物チェックしてるの。そのせいでこの行列なんですな」

「ほぉ……」


 荷物チェックだぁ……?


「いったい何のために……?」

「街に悪いやつが入らないように、勇者さまがチェックしてるんだって。妖しい荷物は没収だってさ」


「妖しい荷物ってなんだよ」

「食料とか、貴金属とか」


 ……なんだそりゃ。

 体の良いカツアゲじゃないか。


 よーするに……。


「あの街には勇者がいて、勇者が街を訪れるやつらの荷物をぶんどってるって話しか」

「そーゆーことっ。さっすがダーリン、理解力の鬼!」


 行列に並んでいるやつらから、不満の声が上がる。


「勇者って人々のために戦ういい人達じゃなかったのかよ」

「街を占拠して荷物を奪うって……もうこれ、魔王軍と同じじゃん……」

「魔王軍を追い払ってくれたから、勇者軍っていい人達かとおもったのに……」


 この世界の連中は勇者を良いやつだって思っていたようだ。


 だが、俺は知ってる。

 勇者。俺の元クラスメイトども。

 あいつらは、一部を除いてカスだ。

 

 木曽川を始めたいじめグループ、そしてそのいじめを見て見ぬふりしてきてカスども。

 もとより、あのクラスに居たやつらは全員、性格が終わっている。


 極めつけは、女神に廃棄され、死ぬやつがいるっていうのに、反対するやつがいなかったんだぜ? 

 神坂みさかさん以外。


 だからまあ、勇者がこんなひでえことしてても、まあそうだろうよと納得しかないわけだ。

「ダーリンどうします?」

「お兄ちゃん……どうしよう?」


 美女二人が俺を見つめてくるが。けっ。

 知るかよ。


「街の連中がどうなろうと関係ないね。俺は中にいる勇者に用事があるんだからよ」

「「しゅん……」」


「てことで、威嚇」

「「え!?」」


 俺は威嚇(上級)を発動させる。

【無音】を付与してなかった、前に居た連中がドサドサと倒れる。


「え、ちょ、ダーリンどうしたの!?」

「あほか。おまえ、気づいてないのかよ」

「気づく……?」


 ちっ。気づいてないようだ。

 一方鼻の良いシロは気づいた様子。


「お兄ちゃん! ドラゴンくる!」

「ドラゴン!?」


 俺は魂を感知できるからな。

 上からの襲撃にも対応できるのだ。


 エリスは耳がいいんだが、上空まではカバーしきれないからな(全然カバーできないわけじゃないが)。


「威嚇で取り巻きの雑魚竜は消し飛ばしたが、でけえのが来るな」

「おにいちゃん、どうしよう?」


 どうしようだと?

 はんっ! 決まってる。


「さっさと倒すぞ。目立つのもやむなしだ」


 別に、ほっとくと街の連中や、この行列の連中に被害ができるからとか、そういうんじゃないからな。

 俺は黒衣ブラックウーズ・コートから幸運銃トリガー・ハッピーを取り出す。


「シロ。フェンリル姿になっとけ」

「え? いいの?」

「ああ。レールガン使う。後で事情聴取されたとき、フェンリルの魔法ってことにしておいたほうが、都合が良い」

「わかった!」


 ぼんっ、とシロがフェンリルへと変化。

 俺はシロの上に乗っかり、銃を構える。

 超磁力スキルで銃に磁力を発生させる。


「死にさらせ! くそドラゴン!」


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 レールガンはドラゴンの頭……というか、ドラゴンの体ごと吹っ飛ばした。

 消し炭……というか、細胞のひとかけらものこさず、敵は消滅。


「ふぅ……」

「さすがダーリン! すっごい威力! あのデカいドラゴン一撃だなんて!」


 ……しかし、まずったな。

 外壁のほうから、がちゃがちゃと、鎧を着た男達が近づいてくる。

 ここで逃げたら、逆に怪しまれる。


 はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~。

 ったく、くそドラゴンのせいだ。


 あいつのせいで、目立っちまったじゃないか、くそが。


「でもでも、周りの人たちのこと、助けてあげたダーリンは、立派だと思いますよ」

『しろもそうおもう! お兄ちゃんやさしくて、大好き!』


 ……ちっ。うるせえよ。

 別に助けたくて助けたんじゃないからな。


『ジョン・スミスの記憶で知ったことある。こういうの、ツンデレ、とおまえ様の世界では言うんだろう?』


 ……妖刀のやつ、余計な知識つけやがって。くそが。

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