第28話 賢者の小屋を発見
俺はエリスを蘇生することに成功した。
ボスの部屋にて。
憤怒の巨人を討伐した後、部屋中央にあったマグマは消滅し、クレーターが出現していた。
俺たちはクレーター側にへたり込んでいる。
「ダーリン、本当に大丈夫?」
「なにがだよ」
俺の左隣に座るエリスが尋ねてくる。
「左腕、ほら、なくなっちゃったし」
エリスの蘇生の代償として、俺は左腕を失った。
念のため【無傷】を使用して、腕をはやそうとここみたがダメだった。
代償としてもってかれたものについては、どんな手段を使っても、戻せないってことだろう。
【事実無根】を再度使い、左腕を失ったという事実を消すという裏技も通じなかった。
「ダーリン、左腕……それって……」
エリスが申し訳なさそうな顔で呟く。
彼女は自責の念にかられているのだろう。
こいつ視点では、自分のせいで俺が左腕を失ったって見てるみたいだからな。
……前の俺なら、「おまえのせいで」って言っていただろう。でも、今は違う。
「勘違いするな。おまえの【ため】に、やったんだからな」
「っ! だ、ダーリン……」
「おまえのために、俺がやったことだ。おまえが自分責める必要はない」
左手でエリスの頭を撫でようとして、できなかった。左腕がないことを改めて実感する。
肘から先が完全に失われてる状態だが、まあ、なんとかなるだろう。
利き腕は無事だし、俺のメイン武器は銃だからな。
『
妖刀がからかう調子で言う。
さっきまでシリアスな雰囲気漂わせていた妖刀だが、いつも通りに戻っていた。
「ダーリン。これから、私があなたを、死ぬまで支えるよ」
まっすぐに俺を見て、エリスが言う。
真剣な眼差し。
そこに嘘偽りは一つもなく、ただ、固い決意が見てとれた。
「失った左腕のかわりに、私が、あなたのそばでずっと寄り添って生きていきます」
……ああ、なんだろうな。
胸がぽかぽかと暖かくなっている。
嬉しいってことなんだろうな。
エリスが、愛する女性が、ずっとそばにいてくれるってことが。
「ありがとう」
俺の口から素直な気持ちがこぼれでた。
こいつなら俺がなにをいっても、許してくれるだろう、受け止めてくれるだろう、そう思ったから。
「どういたしましてっ」
ぎゅっ、とエリスが俺を抱きしめてきた。
柔らかく、温かい体だ。いつまでも抱きしめてもらいたいし、もっと言うと……。
い、いや、今はそれどころじゃないな。うん。
「さて、エリスよ。これからだが」
「ボスを倒したから、早速脱出です?」
「いや、その前に、あそこを探索したいんだ」
「あそこ?」
俺が立ち上がると、体がふらりと傾く。
思ったより腕って重かったんだな。
倒れそうになる俺の横に、エリスがすかさず近づいてきて、肩を抱いて支えてくれた。
この女がいつも口にしていた、愛を感じるって意味が、今やっとわかった気がする。
こいつに覚えている、このあったかい感情こそが、愛なんだろうな。
「ありがとな」
「えへへ♡」
で、だ。
俺たちはクレーターの中を見下ろす。
「!? く、クレーターの中央に、建物があります! い、いつの間に……?」
「憤怒の巨人を倒した後、マグマが消えてさ、それであの建物が出現したんだよ」
「はえー。マグマの中でも溶解しなかったとか。すごい素材でできてるんですかね」
「それか、すごいやつが魔法をかけていたか、かな」
「なるほど! その可能性もありますな! さすがダーリン頭良い!」
俺を褒めるエリスの言葉を、前より素直に受け止めている自分がいた。
普通に嬉しかった。
「ダーリン、本当にあそこ調べるの? なんだか、危なくない?」
まあ、気持ちはわかる。ここはボスの部屋なんだ。
あそこにいるやつも、敵と考えるのが普通だろ。
「あそこにいるのが敵だったら、憤怒の巨人が倒される前に出てくるはずだろ」
「あ、そっか。本当に仲間なら、巨人が倒される前に手を貸すんですね」
「そういうことだ。いくぞ。しっかり支えてくれよ」
「OKですよダーリン!」
エリスに体を支えてもらいながら、俺たちはクレーターの中央を目指す。
斜面を苦労しながら降りていき、こやの前まで到着した。
「ダーリン。ここ、かなり高位の魔法使いが使っていた小屋です」
「わかるのか?」
「はい。実際に近づいてみて、気づきました。この小屋周囲に、とてつもない強力な結界魔法が施されてました」
なるほど、結界か。
だから、溶岩の下敷きになっても、小屋が無事でいたわけだな。
溶岩でも解けないような、強力な結界の使い手。
すごい魔法使いの使っていた小屋が、目の前にある。
妖刀、中に生きてる奴はいるか?
魂を感知できる妖刀に中を探らせる。
『いいや、中に生きてる人間はおらんよ』
……わかった。
「いくぞ、エリス。中を物色して、冒険に使えそうなものをもらっていこう」
「わかりました! ダーリンがそうするっていうのでしたら、従います!」
……俺はドアノブにてをかけて中に入る。
扉を開けて、すぐに俺は気づいた。
中空に、幽霊がいることに。
……おいくそ妖刀。いるじゃねえか! 幽霊が!
『生きてる人間はいないと言っただけだぞ?』
確かに幽霊は死んでるだろうけども!
空に浮いてる幽霊が、俺をみて目を丸くする。
『信じられぬ……おまえさんたち、憤怒の巨人を倒したのか?』
エリスをみやる。
彼女は首を傾げていた。
「おまえ、あの幽霊が見えるか?」
「うん。でも、なんか変な言葉しゃべってるね。何言ってるのかさっぱりですよ」
……変な言葉?
俺は改めて空に浮かぶ幽霊を見やる。
老人だ。年齢は80くらいだろうか。
白い髭に髪の毛、そして魔法使いがかぶるような、三角のとんがり帽子をみにつけていた。
ここで死んだ幽霊で、間違いないだろう。
が、気になるのはその正体だ。
エリスはこいつがないを喋ってるのかわからない、といっていた。
でも俺には理解できる。
これらのヒントから導き出せる回答は一つ。
「じーさん、あんた……もしかして地球人か?」
幽霊の爺さんは目を大きく向いて、こくんとうなずいた。
『そのとおり。わしは女神に拉致されて、この異世界へと無理矢理連れてこられた、元地球人じゃ』
やっぱり、そうだったか。
あのクソ女神、俺たちだけじゃない、前から同じことしてやがったんだ。
『ここで出会えたのも何かの縁。できるだけ、君の疑問に答えよう。そして、我が魂を解放してくれた例として、この大賢者の小屋にあるものは、すべて、おまえさんに譲る』
大賢者?
それが、この爺さんの称号ってことか。
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