第2話 ヒドラに【無】双する

 俺、松代まつしろ 才賀さいが

 クラスメイトたちと異世界転生するはずが、スキル【無】のFラン勇者だったせいで、ダンジョンに廃棄させられた。


 俺の目の前には、巨大な毒蛇。

 ネット小説とかでよく見かける、ヒドラってやつだろうが……。


 そんなバケモノが、目の前にいた……。

 

「う、うわぁあああああああああああああああああ!」


 俺は叫びだし、その場から逃げ出す……!

 無理だ……あんなの勝てっこない!


 だが……!


「行き止まり!?」


 目の前には壁! 周囲を見渡しても、出口らしい場所は無い……!

 目の前の毒蛇の向こうには……穴らしきものがあった。


「嘘だろ……出口あそこだけかよ!? ヒドラを倒さないと……でれないってことかよぉ!」


 シュウゥウ……。


 ヒドラの口から紫色の煙が漏れる。

 それはこの部屋に充満していく。


「げほっ! ごほっ! ごほっ! の、のどが……いってえ……! 目も……あぁあ!」


 毒が俺の喉と目……つまり、粘膜を焼く。

 ヒドラの毒が俺の体をむしばんでいく。


 苦しい……痛い……!

 ……こんな暗い場所で、死ぬのか……? 俺は……。


 いきなり女神によびだされて、Fランクの烙印をおされて、ダンジョンに捨てられ……。

 最後は……苦しんで……死ぬ……のか?


「……けるな」


 死にかけて、追い詰められて……俺の腹の底からもれたのは……。


「ふざ、けるなよ……!」


 俺をこんな状況に追い込んだ、女神。

 俺をいじめた木曽川。

 そして……今俺の命を理不尽に奪おうとしてる、ヒドラ。



 俺という存在を、踏みにじってきたやつらに対する、とてつもない怒り。

 それだけが……俺を支配する。


「絶対殺す……こんな毒……乗り越えて……やる……げほっ! がはっ!」


 ああくそ……毒が……体をむしばんでいく。

 こんな毒……無毒化できれば……。


『スキル【無】を【無毒】に進化させますか?』


 …………は?

 なんだ……この声……?


『スキル【無】を【無毒】に進化させますか?』


 無を……無毒に?

 何言ってるんだ。俺はスキル無しなんじゃ……。


 いや、待て。

 思い出せ、ステータスの表記を。


 俺は、スキル【無】。

 もしかして……。


 俺のスキルが、無いんじゃなくて、【無】っていうスキルだとしたら……。

 いや、【無】だからなんだって話だ……。


 でも、【無】を【無毒】にって言葉はひっかかった。

 ひょっとして……。


「い、イエス! イエスだ!」

『スキルが進化します;【無】→【無毒】』


 瞬間……。


「うそ……だろ? 痛みが……一瞬で消えたぞ!?」


 激しい痛みが、綺麗さっぱり消えたのだ!


「無毒……このスキルの効果なのか……? ステータス展開オープン!」


~~~~~~

松代まつしろ 才賀さいが

レベル1

スキル【無毒】

~~~~~~


 やっぱり!

 スキル【無】は、スキルが無いってことじゃなくて、【無】っていうスキルだったんだ。


 そして、【無】は【無毒】に進化できた!


「JURAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 ヒドラが俺めがけて、口を大きく開き……。


 ドバァッ……!


 口から大量の毒を出してきた。

 だが……。


 びしゃっ!

 

 ……体に毒を浴びても、俺は全く痛みを感じない!


「悪いな、俺……毒が効かないみたいなんだ」

「JU、JURA……」


 はは、焦ってやがる。

 ヒドラのやつめ。


 今までどんな敵も、その毒で倒してきたんだろう。

 だが……悪いな。


「俺はおまえの……天敵だ……!」

「JURAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 ヒドラが毒では無く、そのでけえ尻尾で攻撃してきやがった。

 くそ! よけ……。


 尻尾が俺の体にぶつかる!

 べきばきっ……! ごき!


 骨が折れる音。

 そして、俺が吹っ飛んでいく!


 どごぉおおん!


「げほっ! がはっ……! い、てええ……」


 くそ……そうだ。無毒は、毒を無効化するだけのスキルなんだ。

 物理攻撃は普通に、ダメージが通る。


 ……いてえぇ。

 いてえよ……ちくしょう……どうにかできないか……。


 この痛みを、無かったことに……。


『スキル【無】を【無傷】に進化させますか?』


 ……!? またあの声だ……!

 【無】を、【無傷】に進化……。


 さっきも、【無】を【無毒】にできた……。

 ひょっとして……。


「イエス!」

『スキル【無】を【無傷】に進化させます』


 しゅおんっ!


「痛みが消えた! 怪我が治った!?」


 治ったって言うか、傷がなかったことになったみたいな感覚だ!

 やはりそうか!


「俺のスキル【無】は、【無~】みたいな感じで、何かを無かったことにするスキルに、進化させられるんだ!」


 無毒→毒の効果を無かったことにする。

 無傷→傷を無かったことにする。


 はは!

 すげえ! なんだよ、【無】ってすごいスキルじゃないか!


 誰がFランだ!

 誰が無能だ!


 俺は……強いじゃないか!


「JU……RA……」


 ヒドラは動揺してる。

 そりゃそうだ。致命傷くらわせた相手が、無傷で生きてるんだからな!


「さて……このバケモノどうしてやるか……」


 無がつくスキルに、【無】を進化させられる……。

 無~、で攻撃できるものがいいな……。


 いや、待てよ。

 そんなことしなくても、いけるんじゃないか?


 俺はヒドラに近づく。


「JURAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 ヒドラが毒を吐いてくる。

 だがすかさず無毒を発動。


「無駄だぞ毒蛇野郎。俺に毒は効かない。尻尾で攻撃して来いよ? え、どうした? でかい図体してるのに、もしかしてびびってるのか……? こんなFラン勇者によぉ」


 ヒドラの目の前までやってきた、俺。

 やつは俺を物理で攻撃してこない。でかいから、体を動かすにも体力がいるのか?


 まあわからんが、好都合だ。


「じゃあ……いただきます!」


 がぶりっ!

 ……そう、俺が取った攻撃手段は……食らうこと。


「へえ……結構うまいじゃないか……白身魚の刺身みたいだ」


 スキル【無】を無毒に進化すれば、ヒドラの毒が効かない。

 毒が無効化できるってことは、食べても腹を壊さないってことだ。


 俺はひたすらに、ヒドラを食らっていく。

 

「あー……醤油欲しいな」

「JU……JURA……」


 ヒドラのやつ、動かなくなっちまった。

 なんだ? 異常な行動をする俺にびびってるのか?


 そうだよな。

 こんな馬鹿でかい蛇を、いきなり食いだしたら、そりゃびびるよな?


 だが抵抗しないと死ぬぜ?


「がぶ……もぐ……ほらどうした? 抵抗してみろよ。まあ無傷にしちまうがな」


 ……俺はひたすらにヒドラを食いまくった。

 そして……。


 ほどなくして、ヒドラは頭だけになった。

 ヒドラの目から光が消えると……。


 ぼふんっ!

 

 煙を発し、頭部が消滅。


「倒したってことなのか……?」


 ふぅ……はは。

 あんなでかい図体の割に、たいした敵じゃなかったな。


 俺はその場に大の字になって倒れる。


「はは……あははは! スキル【無】! すげえじゃねえか! あんなバケモノたおしちまったよ、俺!」


 このスキル……思ったよりも応用が利きそうだ。

 さっきは無毒、無傷しか使えなかったが……。


 ひょっとして、無敵とか、なれるんじゃないか……?

 攻撃手段も、探せば見つかったんじゃ無いか……?


 まあ、なんにせよ……だ。


「俺は……生き延びた……ぞ……!」

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