第4話 いつも通りおじさんに関する研究報告
先日行われた、居付守 殿人(いつもり とのひと)、通称いつも通りおじさんについての、精神耐久性実験の結果をここに記す。
いつも通りおじさんとは、何が起ころうともいつも通りだと、一切動じないおじさんのことである。
我々は、緊急事態において正常な判断が出来なくなる現象の解決のため、彼の精神構造について調査することにした。
まず、実験内容について。
彼には実験であることを知らせずに、用意した一軒家に五日間住んでもらった。
そして、毎日何かしらの異常現象を起こし、その瞬間の映像と、本人の感想を記録した。
起こす内容は、ポルターガイスト、侵入者、幽霊、巨人の出現、地震の五つ。
次に結果について。
一日目。扉が開こうと家具が揺れようと微動だにしなかった。
感想は、「家具もちょっとぐらい動きたいよね」だった。
二日目。マスクを被った侵入者を見ても、動じずに挨拶をし、数分間会話をしていた。
感想は、「ここって観光名所だったんだね」だった。
三日目。彼が寝ているところを幽霊に覗き込んでもらったが、彼は驚く素振りも見せず、そのまま眠った
感想は、「今までたくさんの人が亡くなってるからね。一人ぐらいいてもおかしくないよ」だった。
四日目、近くに巨人を呼び、地響きと轟音を鳴らしてもらった。彼は、窓から外を数秒間確認し、野球中継を見に居間に戻った。
感想は、「最近は栄養価高い食べ物多いからね〜」だった。
五日目、震度四の地震を起こした。いつも通りおじさんは、収まるまで机の下に隠れ、揺れが止まると椅子に座り、何事もなかったかのように新聞を読み始めた。
感想は、「ここは揺れる国だからね〜」だった。
今回の実験から、彼のいつも通りに含まれないものはおそらくないと思われる。
そのいつも通りの中で、自然なイレギュラーと不自然なイレギュラーの区別がついているのかは怪しいところである。新たな実験で確かめたい。
最後に、彼に実験であることを告げた時の感想も記しておく。
「実験だったの? まあ、細菌とかマウスとかもされてるんだから、人間もされることあるよね」
そう言い残すと、ボロボロのリュックを背負って去っていった。
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