第2話 出会い
彼は自分の目を疑った。ここは王国でも魔物が多い事で有名な森であり、彼も森に住み着いている魔物を討伐しに来ていた。このような場所に人、それもまだ年端もいかない少年がいると思ってはいなかった。いや、いる訳がないのだ。なにせこの近くには、都市はおろか集落でさえ存在していないのである。
木に寄りかかってぐったりとしている少年はその姿も酷いものであり、服は真っ黒に汚れ、信じられないほど痩せている。靴も履いておらず、ヒューヒューと途切れ途切れにか細く息をしている。放っていたらそう時間も経たないうちに死んでしまうだろう。
「...何があったのかは知らないが、放っておくのも夢見が悪いか。」
「待ってろ、助けてやる。」
「これでどうだ!喰らえ師匠!」
俺は、右手を師匠の方に向け、
「ファイアアロー!」
と、唱えた。すると、右手から矢のように真っ直ぐな真紅の炎が現れ、師匠に向かって勢いよく進んでいく。
対して、師匠は右手に持った剣の先端をこちらに向け、
「ふっ!」
と、剣を振るう。俺のファイアアローと師匠の斬撃がぶつかり合い、拮抗...することなどなく、ファイアアローを消し去りそのまま俺の真横の空気を切った。
「私の勝ちだな。」
自信を持って放った攻撃が少しも抵抗できずに消滅してしまったショックで少々放心していると、背後からそんな声が聞こえてくる。
振り向くと、師匠の剣が俺の首に当てられた。
「...はい。」
今日こそは勝てると思っていたが、蓋を開けて見れば惨敗であったことを自嘲しながら俺は敗北を宣言する。
「また私の勝ちだな。」
そんな事を宣う我が師匠ことキング・シルバースは、世界最強と呼ばれる本物の化け物である。容姿良し、家柄良し、頭も良く、戦闘能力は誰よりも高い。いつかこっぴどく負けてしまえばいいとかなり本気で思っているが、尊敬は出来る人という位置付けだ。
俺は、"弟子"だ。俺は十歳になる前に家族に魔物の巣窟である森に置いて行かれてしまい、そこから離れる為に走ったが、子どもの足の限界は早く、大して離れることもできずに死にかけていた。そんな所を、偶然通りがかった師匠に治療され、保護された。その時に師匠に名前を聞かれた事で分かったのだが、俺は、家族に関わる記憶のほとんどが欠落しており、自分の名前も思い出す事が出来ないのだ。
だから俺は、名前を思い出すまではただの師匠の"弟子"なのだ。
しかし、俺には師匠も持たない、「魔法」が使えるという力とそれを扱う才能がある。魔法はとんでもなく珍しい能力らしく、世界を走り回る師匠ですら魔法が使えるヤツを見るのは俺で二人目らしい。
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読んで頂きありがとうございます。
次話も楽しみにお待ち下さい。
「最強」に最強を託された俺は、最強なんかじゃない 志水悠馬 @aioon
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