第48話

「俺の中ではお前達を迎えに行く事は決定事項だったが、アナベルの動きを封じないと、お前達を危険に晒すかも……とも考えていた。証拠集めを始めたのはその為だが、ローランドの事を考えると少し躊躇したのも事実だ。しかし、ローランドがアナベルの元で幸せそうにも見えなかったしな。今思えばこれで良かったと思っている」


「アナベル様はローランドを見る度に自分の罪を見せつけられている様に感じて、あんな厳しく……?」


「そんな殊勝な女か?だからと言ってローランドに辛く当たるのは間違っているがな。

だが、証拠を全て集める前に、父が亡くなり……俺に早く婚約者を決めろと煩く言う連中が増えた。……後はお前が知ってる通りだ」


一通り陛下が説明を終える。私は意を決して切り出した。


「………陛下。多分、いえ絶対に気づかれていると思うのですが……」


ちゃんと伝えようと思っているのだが、口に出すのはちょっと勇気が必要みたいだ。


すると、陛下の顔が少し赤くなった。……陛下も照れてる?


「い、いや……何の事だか……」


「フフフッ。陛下は嘘を見破るのは得意ですが、嘘をつくのは苦手ですか?」


「……お前の前でだけだ。……お前に嘘をつくのは苦手だ。ほら……覚えてるか?宿屋でお前と話した事。俺は嬉しすぎて……お前の使ったスプーンを……」


「お、思い出さないで下さい!!」

私はあの時の事を思い出して赤くなる。


「ま、まぁ……あんまり褒められた事ではなかったが、気持ちを抑えるのに苦労した」


「あの時は、ただ、ただ驚いただけでしたけど……今思うと、全てが繫がっていたのですね」


「そうだな……。で、俺はいつまでお前の言葉を待てば良いんだ?」


陛下がにっこりと笑う。


「気づいているのなら、別に言わなくても……」

と私が俯けば、陛下は私の顎をクッと上げて、


「お前の言葉で聞きたいんだ」

と懇願するようにそう言った。


私が今、愛を伝えたい人。


「陛下。私は今、コンラッド様ではなく、陛下が好きです。改めて……陛下と共に生きていきたい。そう思います」


「クレア……陛下ではなく、名を……」


「エリオット様……私は貴方を愛していま……」


全てを言い終わらぬうちに、私の唇は陛下の唇で塞がれた。


「ドーソン公爵共々アナベルは国外追放になった」


議会でアナベル様の刑が決まったと言う報告をエリオット陛下から受ける。


「そうですか……。彼女を許す気持ちにはなれませんが、処刑でなくて良かった……と思う私は甘いのでしょうか?」


「そんな事はない。お前らしいよ」

と陛下は私の頭をポンポンと軽く叩いた。


そんな私は今、サイラス女史から与えられた宿題の真っ最中。

陛下は私の手元を覗き込むと、


「カルガナル語か。難しいだろう?俺も習得に苦労した」


この大陸は共通言語がある為殆どの国で言葉が通じるのだが、ガルガナル王国だけは共通言語が通じない。我が国とは最近国交が結ばれたばかり。今後の事を考えて、私は今、猛勉強中だ。


私の王妃教育はまだ半分といったところだ。サイラス女史を手こずらせている事は重々承知。

自分では頑張っているつもりなのだが……。


そんな私に、陛下は絶望的な事実を告げる。


「あぁ、そう言えば。二ヶ月後にカルガナル王国の王太子を招待する事になってるんだ」


「は?へ?二ヶ月後?」


「国交を結んだ記念も兼ねて、俺の即位の祝いに来るんだと。まぁ、今後友好関係を築くのには必要不可だという事だ」


「いえ、理由ではなく……二ヶ月後?」


「……大丈夫だ。俺が通訳する」

私の不安そうな顔を見て陛下は安心させるようにそう言った。


「で、出来る限り頑張ります……」

と言う私に、陛下は苦笑していた。



二ヶ月というのは、長いようで短い。

気づけばカルガナルの王太子殿下を迎える日が刻々と迫っていた。


しかし、私には公務もある。勉強だけをしているわけにはいかない。

私は明日、王妃の仕事の一つである、教会のバザーに参加する事になった。


「王妃として参加しても、皆が萎縮しちゃうわよね……。ねぇ、平民として参加出来ないかしら?」

と言う私に、ロータス様もマーサも困った表情だ。


「変装……とまではいかないけど、高そうなドレスでボランティアに参加しても……場違いな気がするの」


私はつい最近まで平民と同じだったのだ、特別な変装をしなくても、直ぐ皆に溶け込める事間違いなしだ。


ロータス様には、くれぐれも危険な事はしない事、マーサから離れない事を約束させられたが、私の提案を受け入れて貰う事に成功したのだった。











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