第7話 家に取り憑いた妖怪(3)

「す、すごい! ガイコツがしゃべっている! 声帯も肺もないのに!」

 兄の驚くところはそこなのか。そういえばちっちゃいころから生き物が好きで、生物図鑑とかよく読んでいたな。

 兄は将来母みたいな医者不足の地域で医者になりたいなんて作文でも書いていたらしく、母がニコニコしながらわたしに聞かせてくれた。

「すばる様がそんなに気に入ったのなら、どくろを自由に研究してもいいでありんすよ」

「ほんとう!?」

「わー、やめてくださいよ! 雪姫様! わたしはこれでも死んだ人間なんですからね! 解剖(かいぼう)なんてされたくないですよ!」

 がいこつが必死に抵抗している。にぎやかすぎて全く死んでいる気がしないが。

「どくろは何体でもいる、犯罪をすると、人は死んだ後はどくろになるんだ。そして、妖怪王のしもべとなる」

「へぇ、魂なんてものが実在したんですね。どんな原理なんだろう?」

 兄の研究意欲は止まらない様子だ。

「よし、魂が汚れるとどうなるか見せてやろう! みんなもどくろに続け!」

 剣士くんを先頭にして慌ただしく四人で2階に駆け上がっていく。自分の家なのに、なんだか自分の家じゃないみたいなドキドキとワクワクがあった。でもちょっぴり怖い。だけど、妖怪王の剣士くんもいるし、大丈夫だよね!?

 どくろが兄の部屋のドアを開けると、黒いもやもやみたいなのが吹き出してきて、うぎゃーぁー、という悲鳴と同時にどくろがバラバラに吹き飛んだ。なんのために現れたんだ。弱いとは思っていたが……。

「な、なんだかすごく嫌な感じがするね、さっきまで自分がいた部屋なのに……ところで、あのガイコツはだいじょうぶなの?」

「組み立てれば元に戻りんす」

「えー! すごい、俺に組み立てさせてよ! 図鑑もあるし多分できると思う」

「なんだぁ? この明るい妖気は? キサマ、吾輩(わがはい)のマーキングが消えているな?」

 兄の部屋にいたのは着物を着てあぐらをかいた猫の妖怪だった。

「可愛いっ!」

 わたしが思わず気持ちを言葉にしてしまうと、今度はわたしに向かって黒い煙が飛んできた。

「見た目で油断してはだめだ!」

 剣士くんがわたしをかばって煙をまともに喰らってしまった。

「ねばねばとした、嫌な妖気だ。これで人間の生命力を奪っていたのか」

「吾輩の妖術をくらって立っていられるとは、そこそこ強い妖怪みたいだな」

 いつもは冷静な剣士くんは鼻の穴を広げて、落ち着いた顔に怒りの表情が見える。

「そこそこじゃない。ちょー強い妖怪だ! それか、最強の妖怪! 僕は妖怪王だぞ!」

 あっはっはっ、と腹を抱えて笑う猫の妖怪。

「それは何百年も昔の話だろ? 妖怪の世界は日進月歩。妖術も進化しているんだ。人間が科学技術を発展させたようになぁ!」

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