第3話
かくして、俺と河瀬による教室掃除が始まった。まあ、掃除とは言っても、いつもクラスの皆でやるような、机の椅子を端に寄せての大掛かりな掃除ではない。ホウキで机と机の間を軽く掃いて、あとは黒板や棚など細かいところを綺麗にするだけだ。
「じゃあ、私がホウキやるから、和樹は、まず黒板頼むわ」
「はーい」
河瀬の指示に従って大人しく俺は黒板を拭くための雑巾を取りに行く。そのために教室を出ようとしたそのとき、河瀬が俺の背中に声をかけた。
「あ、和樹! 廊下に雑巾取りに行く?」
「うん、行くけど」
「私の分も持ってきてくれない?」
彼女の頼みに頷く。河瀬はホウキだけでなく、雑巾も使って掃除をするらしい。さすがは河瀬美來だ。彼女は、俺に謎に構ってきて、気が強くて、少々強引(主に俺に対して)だが、その性根は本当の善人――だと思っている――掃除という負担も、人のためなら喜んでやるような、そんな人間だ。
そんなことを考えながら、雑巾を取り、水道に向かう。冷たい水に雑巾を浸し、ギュッと絞る。
「ほらよ」
俺は教室に戻ると、河瀬に雑巾を差し出した。すると帰ってきた言葉は。
「あ、雑巾使うってやつ、ウッソーン! ウソだから! 私使わないから!」
「は?」
河瀬はテヘッと笑う。
「今日はエイプリルフール、でしょ? こーゆー細かいところから嘘で固めていかなきゃなのよ」
「いや意味わかんないんすけど」
「ちょっと、マジギレしないでよね。ま、とりあえず私は雑巾使わないってことだから」
河瀬美來の愛らしい顔に、憎らしい笑顔が浮かぶ。
「ってことで、和樹クン、二枚使って掃除していいよん」
「……」
マジギレしないでよね、って。
いや、キレるキレないの前にほんとに
とりあえず、めんどくさいから放っておこう。
「じゃ、二枚使わせていただきます」
ペコッとわざとらしくお辞儀をして、俺は黒板の方へとスタスタ歩く。そして雑巾を黒板のチョーク置きに置いて、まずは黒板消しでチョーク跡を綺麗に消し始めた。
「ちぇ、つれないなぁ」
背後から、河瀬の残念そうなため息が聞こえてくる。おあいにくさま。俺には今の、ちょっと(だいぶ)めんどくてうざったいジョークに上手く返せるコミュ力と対応力は無いのである。
「お前さ」
手を動かしながら俺は言う。
「もっと面白い嘘つけねーの?」
「どーゆーことよ」
「絶対に起こりそうもないことをさ」
「うん」
「面白おかしく嘘つくんだよ」
「なるほどね」
河瀬が意地悪く笑った。
「たとえば?」
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