俺は今度も彼女には勝てない。

咲翔

第1話

 四月一日エイプリルフール


 ――それは嘘をついても許される日。


 それは同時に、俺とあいつの勝負が再び始まる日でもあった――。




 ***




 校門前の小道の桜が、爛漫と咲く頃になった。時折ウグイスの声が校庭にこだまし、ふと空を見ると柔らかな日差しが降り注いでいる。


 そんな穏やかな春のある日。世間の学校は春休み真っ只中の、新年度初日に。


 俺――此上和樹このうえ かずきは超絶面倒な役割を押し付けられたが故に、長期休暇なのにも関わらず、学校の敷地内に足を踏み入れていた。


「あー、ほんと何で俺がこんな目に」


 思わずため息をつく。


 理由は分かっていた。


 俺が陰キャぼっちで、お人好しそうだからである。……そう見えているだけでなく、実際そうなのだからしょうがない。


 前髪は長めだし、二次元大好きだし、体育ではあまり目立たないし、キラキラ運動部系男子でもなんでもない。教室では、いつも窓の外を眺めている感じの奴だし……自分でもわかっている、俺には友達と呼べる人が居ないのだ。


 まあ、つらつらと自分語りをしてしまったが……早い話、俺が陰キャぼっち故にクラスの奴らから、「春休み中の教室掃除当番」なるものを押し付けられたのだった。


 さすがに俺一人で春休みの掃除を全部やるわけではない。きちんと他の日には、他のクラスメイトが二人一組くらいで当番に入っている筈だった。

 

 俺が「押し付けられた」と言っているのは、その掃除当番自体のことではない。四月一日というこの日付に、掃除当番をやらされていることち対して、超絶面倒くさいと思っているのだ。

 

 掃除をするためには学校に来なければならない。学校に来るということは、必然的に人と会わなければならない。


 そして今日――四月一日は、どこの誰が決めたのか知らないが、巷によく言う「エイプリル・フール」。


 嘘をついても、許される日。


 こんな特別感漂う日に、人と関わるなんてのは、陰キャの俺には至難の業だ。


 本当は家にこもってアニメの続きを見たいところだったが、クラスの役割とあらば仕方ないと、渋々家を出てきたのだ。






 とまあ、こんな事情で、俺は今、二年八組の教室の前に立っていた。


 手を伸ばし、ガラガラと静かにドアを開ける。


「あー、早く終わらして帰るかー」


 小さく呟いて、教室に足を踏み入れたその瞬間だった。



「あれ、和樹じゃん」


 

 聞き慣れた声が、俺の耳に届いた。

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