砂飲み鯨の―――
鯨が砂をかく音は砂嵐で遮られているのか、小さすぎてとぎれとぎれ。当てにするのは危険だろう。
「見えないってのは…だーいぶまずいぞ…!鎧!」
「はい!抜け出しました!」
地面から抜け出して砂を払っているのを視界の端に捕らえ、俺がそんなものを気にするなという意味で呼びかけると抜け出したことを報告してくる相変わらずポンコツの鎧。
「そんなことは見たらわかる!そうじゃない、砂を払ってなんかいないで臨戦態勢を取れ!」
「はぁーい!」
少し間延びした声を出し、俺と背中を合わせるように立って周りを警戒する。
何でこういうとこだけちゃんとしてんだろうなぁ…!
怒りの感情が沸かないでもないが、文句を言っては収まらないのでそれを収める。
鯨が動いてからすでに一分弱経過。攻撃は起こっていない…向こうもわかってないとかだと楽なんだけどなぁー…
「なあ鎧。何でこんなに来ないんだと思う?」
行動音も完全に途切れ、砂嵐の音と俺の声だけが聞こえてくる。
「さぁ…隠密性を高くしなければ成功しない何かでもあるんじゃないです」
地面が揺れ始める。
「か?…って言ってたら来ましたね…」
「コレ、下で合ってるよな?」
「おそらく。間違ってても責めないでくださいね?」
鎧の戯言は無視安定。揺れはだんだんと大きくなる。
「火攻撃」
右手のナイフに火が灯る。
「グロロロロォォォォォーーーーーーン!」
砂がかき分けられ、立派な髭をたくわえた鯨の口が近づいてくる。
「ハァッ!」
髭の一部を火で切ると、弾かれるほどに固かったが髭に火が燃え広がる。
砂ってことで感想もしていて、燃えやすいんだろう。
だが鯨の眼では髭の中央部は見えないのか、一切の躊躇なく俺たちを喰らおうとしてくる。
「チッ、躊躇なしか!」
「食べられちゃう⁉」
そして口は閉じ、咀嚼する。かと思われたが…
とある鳥は、獲物を食べた後、すりつぶすため小石を食べるという。
「砂がッ⁉」
その瞬間俺は、開幕砂を吹いていた理由がわかる。
「この膨大な砂を飲んでいたからか!」
マズイ。これでは髭も砂で鎮火されてしまうし、砂の中で加速しているのかだんだんと砂の量も増えてくる。
「風攻撃!」
ナイフは刃渡りを伸ばすように風が伸び、サーベル程度の風の刃が構築される。
「さっき砂を纏わせることで威力が上がるのは検証済み!」
モンスター狩りの途中、偶然気づいたもの。
風攻撃中にリーチを間違え、地面を切ってしまったときにそれは起こった。
ーーー
「砂が風に巻き込まれてる…?」
ーーー
それで切れば、砂が当たる分かどうかは分からないが、確実に威力は上がっていた。
「口に刺せば…吐き出すだろう…っと!」
刺そうとした瞬間に後ろから声が聞こえる。
「すいませーん!落ちましたー!」
「ああもう…回帰!」
回帰の宣言をし、鎧を休眠状態にさせる。
「改めて…っと!」
舌の中心あたりに少し砂で押されながらもナイフを刺す。
「グキュルオォォォォォォォォォォォォーーーーーン⁉⁉」
痛みが強かったのか、一気に地上で咆哮する。
その瞬間砂が胃の方から一気に流れ出てきて、押し出されていく。
「ナイフッ!」
ナイフが刺さったままなのに手を放してしまい、外に一気に流される。
吐き出されたのはいい。吐き出された。ってだけなら全然いい…だが、今俺が落ちている真上には大量の砂がある。
「これ、もしかしなくても窒息するな?俺」
地面に俺だけ墜落。俺は砂までの間に拳を鯨に向け、
「次はその髭全部燃やしたるからな」
少し鯨が青くなったような感覚を持ち、砂に俺は埋まる。
さて…苦しい。
ここから俺は、10分ほど苦しみを味わいながら緩やかに死んでいくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます