最終決戦
第17話 魔王城陥落
りりすとピーチが魔王軍四天王をフルボッコにしていた頃、魔界は防衛戦力が手薄になっていた。つまりは攻める絶好の好機であり、魔王軍勢力と敵対する魔法少女達は妖精界からの司令で総攻撃を仕掛け、その結果――。
魔王城は想定よりも呆気なく陥落し、世界征服を企んだ魔王は捕縛される。
舞鷹市の魔法少女2人は、戦闘の結果報告をしに由香の家に戻ってきた。空を飛んで戻ってきた2人は着地と同時に変身を解除。ももはぐいーっと背伸びをする。
「あ~空を飛ぶの楽しい~」
「病みつきになるよね~」
そう、2人は存分にアクロバット飛行を楽しみながら帰ってきたのだ。この時、ピーチの背中にしがみついていたマリルは目をぐるぐると回して完全にグロッキー状態。
「もう、ああ言うのは勘弁して……」
「ごめん。楽しくてつい」
モフモフ白猫からのクレームに、ももは後頭部を触りながら謝罪する。玄関の前でしばらく談笑していると、短い翼をバタつかせてトリが戻ってきた。
「みんな早いホー! あれ? もしかして僕を待っていたホ?」
「ちげーし。話が盛り上がってただけだし」
「じゃあ早く入るホ。話は家の中でするホ」
トリに促され、一行はアリスの下宿先の先輩魔法少女の家に入る。最後に入ったももがドアを閉めていると、家主の由香が出迎えにやってきた。
「お帰りなさい。その様子だとバッチリ修行の成果は出たみたいね」
「あれ? 由香っち、そのメガネ……」
「ああ、さっき妖精界から連絡があってね。向こうと連絡を取る時に使ってるの」
そう言うと、由香は眼鏡の位置を人差し指でくいっと調整する。この眼鏡姿の彼女を見たアリスは、少しの間言葉を失っていた。
普段は見せないその様子に、ももは首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「あーしの両親、メガネ職人だったんだ。それを思い出しちゃって……」
「あっ……」
そう、アリスは幼い頃に両親を含む一族を全て魔王に殺されていたのだ。その事を思い出したももはかける言葉を失う。
後輩の困惑する様子を見て、アリスは彼女の肩にやさしく手を置いて微笑みかけた。
「大丈夫! もう越えたから」
「アリスちゃんっ!」
感極まったももはアリスを抱きしめ、アリスもまた抱き返す。
しばらくして2人の抱擁が終わったところで、ずっと話すタイミングを待っていた由香は髪を掻き上げた。
「じゃあ2人共上がって。話があるからさ」
「あっはい」
リビングで少女2人が席についたところで、由香は世間話のような軽いテンションでしれっと話を切り出した。
「魔王城、陥落したんだって」
「そーなんですk……えーっ!」
「だからもう戦いは終わったんだよ。良かったね」
由香は満面の笑みを見せて2人の苦労を労う。話を聞かされた2人とマスコット達は、この唐突な重大発表に全員が豆鉄砲を撃たれた鳩のような表情になる。
「あなた達が四天王と戦っている間に、魔法少女の大群で一気に魔王城を制圧したんですって。すごいわよねえ」
由香がクッキーをぽいっと口に入れながら軽いテンションで話すのを見て、流石のももも少し呆れる。
「そんな、他人事みたいに」
「だって私、もうとっくに引退した身だし」
「魔王は! 魔王はどーなったっすか!」
「慌てないでアリスちゃん。魔王は捕まえたよ。今は妖精界にいるっぽいね」
この由香の言葉に、アリスは指を顎に乗せる。このシリアスモードが発生した事で、室内は突然静寂に包まれた。
「いや、それはおかしい。魔王は強いよ。そんな簡単に捕まるはずがない」
「でも、逮捕出来たのは事実だよ。妖精女王も確認してる」
疑うアリスに、由香は情報に精度の高さを訴える。それでも納得していない彼女を見て、由香は軽くため息を吐き出した。
「じゃあ、行って確かめてみよっか」
「行くってどこに?」
「決まってんじゃない。妖精界だよ!」
と言う訳で、次の休日に全員で妖精界に行く事になる。この急展開に、リビングにいた全員は圧倒されるばかりだった。
次の日曜日、全員が揃ったところで眼鏡姿の由香が魔道具を玄関のドアに取り付ける。こうする事でドア自体が人間界と妖精界を繋ぐゲートになるらしい。
ドアを開けた向こう側はもう妖精界だ。由香に先導されて妖精界に足を踏み入れたアリス達は、現地に集まっていた妖精達に花をまかれながら祝福される。
「ようこそ妖精界へ!」
「僕達は君達が来るのをみんな楽しみに待っていたよ!」
「妖精界を存分に楽しんでね!」
「ワオ! みんなキュートだね! 妖精界に来てくれて有難う!」
そのあまりの歓迎ぶりに、事前に話を通していた由香以外のメンバーは困惑する。この場に集まっていた妖精達はみんな童話に出てくるような可愛らしさで、大きさも一番大きいので50センチもないくらいだ。つまりは、みんなトリの同類に見える。
妖精と言えば背中に羽が生えているメージがあるけれど、意外と羽なし妖精も多い。人型の妖精はみんなファンタジックな服を着ていて、動物型の妖精もみんなぬいぐるみのような姿をしていた。
「トリりん、懐かしい? 友達とかに会いに行く?」
「や、僕はアリスが暴走しないように見てるホ」
「まっじめ~」
「うっさいホ!」
アリスとトリが漫才をしていると、突然場が静まる。賑やかだった妖精達がおずおずと道を開け、普通の人間の等身の女性がアリス達の前にやってきた。透明感のある神秘的な服を着て現れたのは高貴なオーラを纏う長身の大人の女性。周りの妖精達が頭を下げている事から、この女性が誰なのかは明らかだった。
それを証明するかのように、由香もすっと頭を下げる。
「女王様。ご足労頂き、恐縮です」
「頭を上げてください。私は今回の戦いの功労者を祝福に来たのですから」
女王は優しく微笑み、アリスやもものいる方向に顔を向ける。その慈愛に満ちた表情は、流石妖精界を束ねる女王と言う圧倒的な気品に満ち溢れていた。
ももは緊張で硬直していたものの、アリスはプレッシャーを跳ね除けて女王を見上げる。
「あの、魔王はここに?」
「ええ、います。でもまずは歓迎会をしましょう。みんなあなた方を祝いたいのです」
こうして、アリス達の歓迎パーティーが始まった。この流れに彼女たちは戸惑ったものの、妖精城のきらびやかさとか、並べられている美味しい料理とか、会場で演奏される心休まる音楽だとかで、すっかり楽しんでしまう。
「料理、美味しいですね! みんな可愛らしくてメルヘンチックなのもイメージ通りです!」
「妖精城のパーティーに呼ばれたの初めてホ! みんなに自慢出来るホー!」
「いいのかな、浮かれても……」
「ほら、アリスちゃんも踊っておいで!」
1人沈むアリスの背中を、お酒を飲んで調子を良くした由香がバシンと叩く。その流れでダンスに混じったアリスは、その場にいた可愛らしい妖精と即興でペアを組んで踊り始めた。
最初はぎこちなかったものの、すぐにコツを掴んで周りが注目するくらい華麗なステップを披露する。
「アリスちゃん、すっごーい」
「教養もあったんだろうけど、すぐに感覚をつかめるんだろうね。流石の才能だ」
「私も踊るー」
アリスのダンスに触発されて、もももダンスの輪の中に混じっていく。料理の中にお酒のような効果のあるものが混じっていたのか、彼女はとても陽気に踊りを楽しんでいた。自己流のステップは優雅さとは無縁のものではあったのだけど。
「うふふ、たーのしーい」
「もも、やるじゃん」
「えへへ~。ダンス最高~」
こうしてパーティーは盛況の内に終わり、全員が心地良い疲労感に包まれた。大広間の片付けが始まった頃、アリス達は執事妖精に声をかけられる。
「では、参りましょう」
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