第16話 固有魔法乱れ打ち!

 ピーチが首を傾げる中、まず最初にポンポに異変が起こる。街中に潜ませていた蟲達を集め、ココに向かって攻撃をし始めたのだ。


「この裏切り者め、恥を知れええ! 蟲共行けえ!」

「裏切り者はそっちですわあ!」


 ココはココで、同じく潜ませていた魔物達で反撃する。これは明らかにホワイトインパクトの効果だろう。

 大量の蟲と魔獣達のバトルを目にしながら、ピーチは腕を組んでその様子を注意深く観察する。


「うわ、同士討ちを始めちゃった。そうだ、他の2人は?」


 彼女が確認しようと視線を動かすと、キースは動きを止めてまぶたを重そうにして船を漕ぎ始めていて、ディオスはその場に立ったまま動きを止めていた。


 そう、ピーチが会得した固有魔法の『ホワイトインパクト』、この魔法は光を浴びた敵を混乱させる効果があったのだ。

 勿論、光を浴びた相手の資質によって効きには個人差がある。素直で単純な相手には効きやすく、ひねくれていて疑い深い相手には効きが悪い。


「なるほどなるほどお」


 ピーチはまるで他人事のようにうなずいて、自身の固有魔法の効果を理解していく。この混乱の魔法によって四天王は自滅していき、一番効きが悪く眠気に抗っていたキースだけが残った。


「中々味な事をしてくれるじゃないか。流石のあたしもこれは想定外だったよ」

「そりゃどうも。一対一になっちゃったけど、戦う?」

「愚問!」


 四天王一の頭脳派イルカは得意の魔力遊泳で突進。それを紙一重で避けながら、ピーチは基本の4大元素魔法を連射する。


「マジカルファイア! マジカルウィンド! マジカルウォーター! マジカルアース!」


 この魔法連射をキースは泳ぐように器用に避けていく。お互い一進一退の攻防の中、喋るイルカは今までのピーチとの戦闘データとの違いを指摘した。


「連射もすごいけど、君は肉弾戦が得意では?」

「私は苦手を克服したいの!」

「愚かな選択だな。得意を極める方が勝率は上がるんだ!」


 キースはそう叫ぶと、急に速度を上げる。この突然のスピードアップに、ピーチは狙いを定められない。やみくもに魔法を打ち込んだところで、当然ながら当てる事は出来なかった。


「急にっ! なんでっ?」

「今まではデータを取るためにぬるくしてただけ。これは本気だから。悪いけど、仕留めさせてもらうっ!」


 キースは超スピードでピーチの目前にまで接近したとろで大ジャンプ。このアクションに驚いた魔法少女は、一瞬体を硬直させる。

 飛び上がったイルカは、上空で目を合わせると魔法の呪文を唱えた。


「マジカルスパイラル!」


 詠唱と同時に、複数の魔法を込めた渦状の魔力の風が一気にピーチに迫る。風は見えないために防御魔法の設定が難しい。しかもピーチは基礎攻撃魔法のレクチャーしか受けていないため、この厄介な魔法攻撃を防ぐ手段を持っていなかった。

 体術特化で逃げても、攻撃が見えないために逃げ切れる保証はない。下手に動く事で予想外の方向からの攻撃に大怪我をしてしまう危険もあった。


「くっ!」


 なので、ピーチは敢えて正面からこの攻撃を受け切ると言う選択をする。腕を体の前面に出して守りを固めたところで、マリルが叫んだ。


「ダメ! 無事じゃ済まない! 逃げて!」


 見えない凶悪な風がピーチに迫る。彼女は体に魔力を流して少しでも基礎防御力を上げようと試みた。そんな魔法少女を目にしたキースは、勝利を確信する。


「魔法の風に切り刻まれろ!」

「オレンジインパクト!」


 どこからか聞こえてきた呪文と供に、オレンジ色の魔法の壁がピーチの周りに展開。襲いかかっていた魔法のかまいたちを全て弾き飛ばした。

 この予想外の展開に、ピーチとキースが同時の声のした方向に視線を向ける。


「間に合って良かった」

「りりす!」

「リリス!」


 そう、ピーチのピンチを救ったのは魔法少女りりす。ストックしていたステッキの固有魔法を使ったのだ。姿を表した彼女は、すぐにピーチの隣りに収まった。


「遅くなってごめんね。無事で良かった」

「もう修行は済んだの?」

「バッチリ!」


 りりすはピーチに向かって笑顔でピース。それだけでピーチは全てを理解する。面白くないのは、さっきまで有利に事を進めていたキースだ。

 彼女はクイッと眼鏡の位置を戻し、わなわなと声を震わせる。


「リリス! 君の固有魔法は攻撃特化じゃなかったかい? なのに何ださっきのアレは! おかしいじゃないか!」

「あんたうっさい。パープルインパクト」


 りりすはまた別のステッキを出し、てキースに向かって固有魔法を唱える。すると、すぐに魔法の効果が現れ、イルカはドサリと地面に落ちた。


「嘘? 魔法が……使えない? なんで複数の固有魔法を使えるんだ! 有り得ない!」

「うっさいなあ。使えるように頑張ったんだよ。だから遅れたの」

「有り得ない有り得ない! そんな事は有り得ない!」


 キースは自分が体験した事さえも否定して、自分の中の常識を優先しようとする。その姿は滑稽ですらあった。

 りりすとピーチはそんなイルカを見て、お互いに顔を見合わせながら肩をすくめる。


「話になんないわ。これだから頭の硬いやつは」

「でもすごいです。他の固有魔法も使えるんですか?」

「そだね、今から見せるよ」


 りりすはそう言うと、顔を正面に向ける。ピーチもそうすると、視線の先には同士討ちのダメージから回復した残りの四天王の姿があった。


「よくもココたちを混乱させたのよ! 許さないのよ!」

「オラもすっかり騙されちまったべ。今から反撃だべ」

「よおリリス、やっと来たな。今から俺様が……」


 3人の四天王はそれぞれの得意魔法で反撃をしようと杖を構えていく。その様子を目にしたりりすはニヤリと笑う。

 そうして、手にしているステッキをしまうと、空になった手でさっと水平に空を切った。


「マジカルパレット!」


 詠唱を唱え終わると、空中に複数のステッキが並ぶ。ドヤ顔のりりすは、そのステッキを眺めながら指を動かした。


「さあて、どれにしようかな~?」


 楽しそうにステッキを選ぶりりすを見て、流石のディオスも顔を青ざめさせていく。


「嘘だろ? そのステッキの固有魔法全部使えるのか?」

「とーぜんでしょ」


 その後は、色とりどりの固有魔法で四天王は手も足も出せずに一方的に倒された。りりすは黒焦げになって地面にひっくり返った4人に改めて魔法封印の縛りをかけ、そのまま魔界に送り返す。

 それらは、全てステッキの固有魔法の効果だった。


「まーざっとこんなもんか。いい実験台になってくれてありがとさん」


 全てが終わった後、りりすはパンパンと手を叩いて両手を腰に当てる。そうして改めて振り返ると、ピーチの顔を見て笑みを浮かべた。


「ピーチ、覚醒おめでとう」

「りりすちゃんもすごいです。まさか他のステッキの固有魔法も使えちゃうなんて」

「あーしは余裕だったけど、トリがね」


 りりすはそう言うと、離れた場所でひっくり返っているトリに向かって親指を指した。くるくると目を回していて、ピーチは心配になる。


「トリさん?! アレ、大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。さっきの固有魔法乱れ打ちはトリがどこまで耐えられるかの耐久テストも兼ねてたんよね。大体分かったわ」


 りりすは腕を組んでウンウンと満足気にうなずく。その相棒をあまり気にかけていない態度には、流石のピーチもちょっと引いた。

 同じ魔法少女のマスコットと言う事で、マリルはトリに近付く。


「あんたも振り回されてんねえ。でもよくやったよ」

「トホホ。りりすの無茶ぶりに付き合うのはもう懲り懲りホ」

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