第14話 アリスの挑戦
トリは深呼吸をすると、自分の考えが正しいかどうか試してみる事にする。まずは、アリスの残留思念を辿り、消失地点を特定。そこについたところで、翼を該当空間に沿わせてみる。
すると、予想通り微かな違和感があった。
「やはり、空間転移してたホね」
トリは翼を器用に動かし、アリスがいるであろう空間とのゲートを開く。そう、彼女は異空間にいたのだ。トリは何故アリスがその空間に向かったのかの真相を探るため、自身もゲートの中に入っていった。
空間内は空気もあって、トリは翼をバタつかせて飛んでいく。
「アリスー! どこにいるホー!」
異空間ではアリスの気配がより確実に感じられたため、呼びかけはするものの、もう居場所はハッキリ分かっていた。その場所に向かうと、トリの目の前に大きな倉庫のような建物が見えてくる。
どうやら、アリスはその中にいるらしい。
建物の入口は開きっぱなしになっていたので、そのままトリは中に入っていった。
「ここはどうなってるホ?」
建物の中は結構広い。横幅や奥行きは100メートル以上、高さも50メートルはあるようだ。顔を左右に振りながら進んでいると、侵入者の存在に気付いたのか、奥から人影が現れて手を振り始める。
トリが向かうと、そこにいたのは探していたアリスだった。
「おそーい!」
「アリス! 勝手にいなくなるなホ!」
「すぐに来ると思ってたんだよ。トリはあーしの相棒だからさ」
アリスは勝手に消えた理由をニコニコ笑顔で悪ぶれもせずに口にする。信頼していたと言われては彼も言葉が出ない。
無事に会えた事で感情をリセットしたトリは、改めて建物内をぐるりと見渡した。見る限り様々な物が並べられているので、やはり倉庫ではあるのだろう。
「で? ここどこホ?」
「あーしが作った異空間。キースほどじゃないけどね。レンタル倉庫的なやつだよ」
「何かを取りに来たホ?」
「一緒に来て」
アリスに先導され、トリは素直に後をついていく。行き着いた先にあったのは棚にずらりと魔法少女のステッキが並べられているエリアだった。その数は以前アリスが言っていたように数百本。千本近くあるかも知れない。
その壮観な光景を目にしたトリは、あんぐりとくちばしを大きく開く。
「まさか、これ全部そうなのホ?」
「そーだよ。このステッキが使えないかなって思って」
「ホ? 何を言ってるホ?」
魔法少女のステッキは1人一本。もしマスコットが倒されて新しいマスコットのステッキを使うようになった場合も、以前のステッキは使えない。それが魔法少女のシステムだ。
アリスはその原則を破ろうと考えている。トリはすぐに彼女の目論見を否定した。
「使える訳ないホ。魔法少女のステッキは常に1本ホ」
「あーしは魔族で天才だよ? 出来るかもじゃん」
アリスはドヤ顔で鼻息を荒くする。確かに今まで魔族が魔法少女になったと言う事例はなかった。しかも、変身してすぐに固有魔法をマスターした魔法少女もいなかった。ここまで異例づくしだと、今までの常識を覆す事も不可能ではないかも知れない。
とは言え、原則は原則。トリにはアリスがやろうとしてる事が絵空事にしか思えなかった。
「はぁ……せいぜい頑張るホ」
事情が分かり、呆れたトリは帰ろうと方向転換をする。アリスはそんな彼の翼を力強く握って離さなかった。
「ちょい待ち。トリにも手伝ってもらうかんね」
「何言ってるホ?」
「あーしだけじゃダメなんだよ。分かるっしょ?」
アリスは逃げ腰のトリの翼を握りながら、ニコニコ笑顔で彼の顔を強く見つめる。その表情に強い圧を感じたトリは、その場で軽く暴れた。
「そのにっこり笑顔が怖いホーッ!」
結局力技で抑え込まれ、トリはアリスに協力する事になった。何をさせようとしているのかと言えば、封印を解いた後の他マスコットのステッキの稼働だ。
ただ封印を解いただけでは他の魔法少女のステッキを使う事は出来ない。マスコット経由で魔法少女に力を伝えなければいけないのだ。
「他マスコットのステッキを使いこなすとか無理ホー!」
「やる前から逃げ腰ダメ、絶対! 大体、私が使えるステッキを見つけても力を充填出来なきゃ意味ないでしょ!」
「マスコット使いが荒いホー!」
その後、アリスの異空間ではトリの阿鼻叫喚が響き渡ったとか渡らなかったとか――。
その頃、魔王城ではアリス達にやられた四天王が会議室に集まっていた。最初にやられたココや次にやられたポンポは既に完全回復しているものの、先日の作戦で返り討ちにあった2人はまだダメージを残している。
特に精神的に深い傷を追ったイルカのキースは、会議が始まってからずっと無言のままだ。
「ココは絶対このままでは済まさないのよ!」
「オラだって今度は絶対アイツらをボコすぜ!」
「ふん、俺様が本気を出せばあんなヤツらなんて一捻りよ」
「……」
四天王の内の3人が気勢を上げる中、キースは机に肘を置いてヒレを組んだポーズのまま固まっていた。そんな彼女を目にしたココが激く非難する。
「キース! 何ゲンドウポーズで固まってるんですの! あなたもココ達に合わせるのですわ!」
「……はぁ、お気楽なものだな君達は。相手はあのリリスだぞ。勝てる訳がない。勝てると思ったのが愚かだったんだ」
ココから発破をかけられてもキースの態度は変わらない。それどころか、仲間に対して弱気な発言を続ける。前回の敗北がよっぽど
ディオスは、そんなキースの主張を聞いて腕組みをする。
「リリスは魔王様によって魔力を全て失った。もう魔王軍最強じゃあないだろ」
「あたしはそのリリスに魔法勝負で負けたんだよ! 魔法少女になってマスコットから魔力を借りただけであれだ! もっと魔法少女に慣れたら、それこそ……」
「だから、だからこそだ! 今総攻撃をすれば間に合う! 今しかないんだ。だから協力してくれ! リリス共が強くなる前に! 協力してくれ、キース! お前の頭脳が必要だ!」
ディオスは拳を握りしめ、熱く熱く熱弁する。その表情は真剣そのものだった。普段の俺様気質の彼とは思えないくらいの熱のこもった説得に、イルカの目から涙がこぼれる。
「分かった。確かに全員でかかれば、今ならまだリリスを倒せるかも知れないな。よし! 作戦を練ろう!」
「そうこなくちゃだぜ! オラも本気でやるべ!」
「ココだって本気ですわ! 四天王の最強攻撃を魔法少女共に見せつけてやるのですわ!」
「ああ、力を合わせた俺様達は最強だ! それを証明して魔王様に笑っていただくぞ!」
こうして、四天王は全員心身共に完全復活。自分達を倒した魔法少女達に対するリベンジ計画が発動した。その計画は一番の頭脳派のキースが主導で行う。
彼女は魔法少女がどう動くかのシミュレーション及び、弱点を研究。他の3人はひたすらに個々の能力のレベルアップに励む。力の底上げが終わったところで、全員でキースの作戦通りに動けるように全体訓練。いくつものパターンの戦術を全員で煮詰めていった。
「その調子、みんな息が合ってきたね」
「ココ、楽しくなってきましたわ!」
「オラもこれなら勝てるって自信がついてきたべ!」
「俺様率いる四天王は最強だぜ!」
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