第12話 鬼人ディオスと2人の魔法少女

 その頃、舞高市ではディオスとピーチが激戦を繰り広げていた。本来なら勝負にすらならないほどの実力差があるものの、偶然にもピーチがパワー特化型の魔法少女だったと言う事と、元四天王のマリルが自分の魔力をピーチに注いで強化していた事で、いい感じで勝負が成立してたのだ。

 ディオスは、自分の格闘技で簡単に潰れない相手に興奮して目を輝かせる。


「いいぞお前! 最高だあ!」

「私の名前はピーチ! あんたも中々やるじゃない」

「マリルの力を借りてはいるが、そのセンスは本物だな!」

「褒めたって何も出ないから!」


 超高速で繰り広げられる格闘戦。それは常人の目では捉えきれないほどのスピードでの攻防戦だ。実際、彼女のマスコットのマリルでさえ目で追うのがやっとで、アドバイスすら出来ないほどだった。


「ピーチがディオスにここまで対応出来るなんて……逸材だわ」


 ただ、やはり経験の差は出てくるもので、勝負の行方はディオスの有利に傾く。彼のパンチを避けきったものの、次のキックへの対処がワンテンポ遅れてしまったのだ。

 その隙を突かれ、ピーチは腹を蹴られてものすごい勢いで地面に叩きつけられる。


「ぐふっ!」

「中々楽しかったぞ! これで終わりだあ!」


 ディオスがとどめを刺そうとピーチに超高速で接近していたところで、突然強力なフラッシュが彼の視界を奪った。


「目、目がああ!」

「ふう、間に合ったかな?」


 そこに現れたのはりりす。狭間の空間を破壊した勢いで次元を跳躍して街に戻ってきたのだ。

 彼女はすぐに顔を左右に動かして、状況を把握する。


「うん、街はまだ破壊されてな……ピーチ?」


 倒れているピーチを目にしたりりすは、すぐに彼女のもとに向かった。先輩魔法少女の帰還を確認した新人魔法少女はゆっくりと起き上がり、体についたホコリを手で払う。


「りりすちゃん、お帰りなさい。無事にトリさんを取り戻せて、変身出来て良かったです」

「大丈夫なの?」

「あ、平気です。ダメージも回復しました」


 ピーチは笑顔でりりすにピースをしてみせて、健在っぷりをアピールする。確かにあまりダメージを受けてはいないようだ。マリルの魔力フォローのおかげだろうか。

 2人の魔法少女が揃う中、閃光のダメージから回復したディオスは自分の目を疑った。


「ゲエーッ! 何故トリがお前の側にいるゥ?」

「ああ、キースは倒してきたよ。後はディオス、オメーだけだけど?」

「嘘……だろ?!」


 りりすの言葉に、ディオスは動揺する。ヨロヨロとよろけ、ぺたりと地面に尻餅をついた。


「キースがやられただと……そんなバカな……。あいつは四天王の中でも一番の頭脳派……俺様なんかよりもよっぽど……」


 ディオスが現実を受け入れられずに頭を抱える中、りりすはピーチの顔を笑顔で見つめる。


「四天王最強の相手によく耐えたね。エラい。じゃあ、一緒に倒そっか」

「ここから反撃だね!」


 街を守る魔法少女2人はコクリとうなずき合うと、ステッキをうずくまる鬼人に向ける。その殺気に気付いたディオスは回避に移るでもなく、ぐっと体に力を込めた。


「「Wマジカルファイア!」」


 2人のステッキから放たれた炎魔法は最強四天王の全身を包み、彼は気合でそれを一瞬で吹き飛ばす。その体には焦げ跡ひとつついていなかった。


「舐めんなよお……。その程度の魔法で俺様が燃やせるかあ!」

「へぇ、やるじゃん。流石は四天王最強」

「バカにすんじゃねええ!」


 りりすの挑発に、ディオスは超高速で殴りかかってきた。筋肉質の剛腕が空を切る。しかし、そこに彼女はいなかった。魔法で作った幻だったのだ。

 からかわれたと感じた鬼人は、すぐに本物のりりすを探す。


「くそっどこだっ! そこかああ!」


 ディオスは目についた標的を手当たり次第に殴りにかかる。時にはキックもした。彼が攻撃したりりすの幻は数百体。その全てに全力でぶつかっていたため、流石の鬼人も息を切らし始める。

 それは、いつまでたっても本体に当たらないのではないかと言う不安も大きく付与していたのだろう。


「卑怯だぜてめええ! ガチで来いやああ!」

「卑怯で結構。悔しかったら本物を当ててみな~」

「クソがあああ!」


 完全に切れたディオスは気迫でりりすの本体を探し出す。集中したところで魔法で作った幻との差異を感じ取ったのだ。

 この感覚を信じ切った彼は、今度こそと体に魔力をまとって魔法少女を仕留めにかかる。


「もう俺様に幻は通じねええ!」


 ディオスがりりすに向かって腕を振り上げたタイミングで、気配を消していたピーチが現れる。そうして、無言で魔力を込めた強烈なアッパーをかました。

 この全く想定外の攻撃をモロに受けた鬼人は、呆気なく空高く舞い上がる。


「ぐああああ!」

「じゃあ、後はあーしが決めるね。マジファイア!」


 普通なら目を瞑っていても避けられる基礎魔法をまともに受けたディオスは、全身を炎に包まれながら更に高く空の彼方に飛んでいく。彼にとってこれ以上の屈辱はないだろう。

 りりすはディオスの落下先にゲートを作り、そのまま彼を異次元に飛ばした。こうして、魔法少女2人は魔王軍最強の四天王に勝利したのだった。


 ディオスの姿が消えた後、ピーチはりりすの顔を見る。


「あいつ、どこに飛ばしたんですか?」

「分かんない。適当に繋いだし」


 その冗談とも本気とも取れる返事に、ピーチは愛想笑いを浮かべた。脅威が去ったところで、2人は魔法で破壊された街を直していく。

 全てが片付いた後、メンバー全員が由香の家に一旦集まった。そこで、今回の騒ぎの総括をする事になる。


「全ては僕が夜に散歩していたのが原因ホ。心配させて悪かったホ」

「本当だよ。勝手に散歩とかすんなし」

「ごめんホ」


 アリスの叱責にトリは小さくなる。そんな落ち込んだマスコットに対して、アリスはバシンと勢いよくその丸い背中を叩いた。


「今度から夜の散歩の時は一緒だよ」

「ホ?!」


 散歩を禁止される流れだと思っていたトリは、アリスの思いがけない一言に目が丸くなる。この流れに由香もうんうんとうなずいた。


「そうだね。それなら安心だよ」

「散歩していいのかホ?」

「ったり前じゃん。好きな事はすればいーんだよ」

「アリス……有難うホ」


 トリは許された喜びに涙を浮かべる。こうして場は上手く収まり、総括はお開きになった。最後に由香が今日のゴタゴタを改めて思い返す。


「今日は本当に大変だったな。それに、トリに会えないだけでガタガタになったのは大きな収穫だったよ。とにかく、トリあえずな騒ぎはもう懲り懲りだ」


 この一言で、全員が軽く笑い合う。1人だけ別に住んでいるももは、2人にペコリと頭を下げて自分の家に帰っていった。

 彼女を見送るアリスに向かって、由香が話しかける。


「四天王を倒したら、次は魔王かい?」

「あーしから攻める事はないし。全ては流れっしょ」

「そうだね。なるようにしかならないか」



 その頃、魔王城では魔王が事の今回の顛末の報告を受けていた。


「何? 四天王が全員倒されただと?」

「魔王様! 魔王様まで人間界に行くとか言わんといてくださいね! 王はどっしりと構えているものです」

「ぐぬぬ……」


 優秀な補佐にたしなめられ、魔王は下唇を噛みしめるのだった。

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