第4話 深追いは禁物ホ!

 変身したりりすは、一旦元に戻ったトリをまたキーホルダーに戻すように要請。その言葉に従ってアクセサリー姿に戻った彼を服につける。この仕打ちにトリは憤慨した。


「どう言う事ホ!」

「だってトリりん遅いじゃん。移動時はあーしが身に着けたげるから、バトルん時に勝手に戻って離れて観戦してね」

「ぐぬぬホ……」


 言い返せなかったトリはくちばしを震わせる。支度が終わったりりすは、違和感の元を辿って空を飛んだ。

 上空からの観察と超感覚で、彼女はすぐに気配の正体を突き止める。


 そこにいたのは、魔法でステルス状態になっている小さな魔界の蜘蛛。姿を消しても魔力がダダ漏れなので、魔法少女ならすぐに感知出来る。小さいと言っても全長は50センチほどあったので、こっちの蜘蛛に比べたら桁違いに大きかった。蜘蛛はこちらの世界に来たばかりのようで、まだ特に何もしていないようだ。

 ターゲットを見つけたりりすは、すぐに蜘蛛に向かって急降下。と、同時にステッキを振り上げる。


「マジファイア!」


 ステッキの先から生成された火炎が蜘蛛に迫る。蜘蛛はヒットする直前に素早く体を動かして回避。そして、高速移動でその場を離脱した。


「あーしの魔法を避けるとは、やるじゃん」

「早く追いかけるホ!」


 蜘蛛を追いかけて辿り着いたのは、空き地に出来た地下に続く大きな穴。どうやら、そこから蜘蛛がこの世界に来たらしい。こう言う事例の場合、穴を埋めて封印すれば問題は解決する。

 けれど、逃げられて頭に血が上っていた彼女は、セオリーを無視してそのまま穴の中に入っていった。


「蜘蛛ー! 待てーっ!」

「ちょ、りりす、深追いしなくていいホ」

「あの蜘蛛、絶対ボコす!」


 穴の中は蜘蛛の巣。つまりは天然のダンジョンだ。りりすは蜘蛛を追って縦横無尽にダンジョン内を飛び回る。巣を守る別の蜘蛛を初級火炎魔法で撃破しつつ、彼女は最初に逃げた蜘蛛を探した。


「どこに行った~? あの蜘蛛~っ!」

「いい加減に落ち着くホ」

「あいつ、あーしをバカにしてたし。ぜってー許せんし」

「話、聞く気ないホね……」


 その後もダンジョンを飛び回ったりりすは、逃げ回る蜘蛛を発見。火炎魔法を避け続ける蜘蛛に、彼女はムキになって攻撃をし続けた。


「当たれーッ! 当たれったら当たれーッ! このっ! 避けんなし!」


 ダンジョン内を散々飛び回ったりりすは、激闘の末に何とかその蜘蛛を消し炭にする。この時、彼女の目の前には如何にもな怪しげな道が続いていた。

 その道の奥に視線を飛ばすりりすを見たトリは、先手を打ってすぐに釘を差す。


「蜘蛛は倒せたし、帰るホ」

「や、この先に間違いなくボスが居るやつじゃん? ついでに倒すわ」

「話を聞いてくれホー!」


 トリの必死の抗議も虚しく、彼女は巣の奥に続く道をズンズンと力強く歩いていく。辿り着いた先は開けた大広間。そこにはお約束のボスが待ち構えていた。巣を動き回っていた蜘蛛達の親、魔界の大蜘蛛。大きさは10メートルを優に越えているだろう。さっきまで倒しまくっていた子蜘蛛とは訳が違う。

 その巨大な魔物を目にしても、りりすの態度は何も変わらなかった。


「あんたがボスね! 悪いけど倒させてもらうから!」


 大蜘蛛は大蜘蛛で子供達を倒されて気が立っていた。なので、先に動いたのは蜘蛛の方だ。巨体に似合わない俊敏さで彼女に迫る。

 ただ、その動きも読んでいた彼女は、ステッキを振ってカウンターで爆炎魔法をぶっ放した。


「マジカルエクスプロージョン!」


 杖の先から放たれた高密度の爆炎球が巨大蜘蛛を丸焦げにする。この様子を見たトリは、思わず例の言葉を口走った。


「やったホ?」

「いや、体を脱皮させて回避してる。やっぱ簡単には行かねーわ」


 そう、流石ボスだけあって、魔法一発で倒れてはくれない。ただ、その状況を冷静に判断してるからこそ、りりすに隙はなかった。

 漂う爆炎の中から繰り出される大蜘蛛からの糸攻撃を、彼女は紙一重で避けていく。避けきれなかった糸は火炎魔法で燃やしていった。


「あーしはお前みたいな魔界蜘蛛を何匹も倒してんだ! 覚悟しなっ!」


 りりすは広場の空間を最大限に活かし、大蜘蛛の攻撃を難なく回避していく。そうして、真上に位置取りをしたところで次の攻撃に移った。


「マジフローズン!」


 呪文の発動と同時に大蜘蛛は凍りつく。魔界の蜘蛛とは言え、そこはやはり変温動物。急激な寒さには耐えきれない。ただし、魔力を持つためにそれが致命傷には成り得ないだろう。とは言え、一時的に動きを止める事には成功した。それこそが彼女の狙いだ。

 身動きが取れない大蜘蛛に向かって、りりすはすぐに追撃をする。


「マジカルデッドレイン!」


 詠唱と供に、空間の穴が無数に開き、その全てから切れ味の尖そうな剣が出現。一瞬で攻撃対象に全ての剣が突き刺さる。この攻撃で呆気なく大蜘蛛は絶命した。


「す、すごいホ……」

「ざっとこんなもんよ」


 ボスを倒したリリスはゆっくりと降下。ボスが消え去ったと同時に現れた箱に注目する。


「お宝はっけーん!」

「……もしかして、それが目的だったホ?」

「当然じゃん。ダンジョンのボスと言えば、レアアテムの守護者っしょ!」


 トリはりりすがウキウキで箱に向かう様子を見て、大きくためきを吐き出した。出現した箱は一辺が30センチくらいの大きさで宝箱のような装飾もなく、見た目はとてもシンプルなもの。

 触ったり持ち上げたりしてチェックしていた彼女は、封印されている事を感じ取って杖を一振り。魔法の粒子が降り掛かった事であっけなくフタは開いた。

 

 中に入っていたのは、箱の大きさピッタリに丸まっている白いモフモフ。覗き込んだ彼女はすぐにその正体を見抜く。


「あ、これ……」

「りりす、知ってるのかホ」

「こいつ、元四天王のマリルだ」

「えっ?」


 そう、箱の中に入っていたのは元魔王軍四天王の1人、白き流星の異名を持つ白猫のマリルだった。元魔王軍のりりすはその辺の事情にも詳しい。なので、トリは彼女に説明を求めた。


「どう言う事ホ?」

「四天王はそれぞれ下剋上でメンバーが入れ替わったんだよ。そっか、こんな所に封印されてたんだ」

「この猫がそんなに強いんホ?」

「強いよ。あーしと互角かも。や、あーしの方が強いかな」


 りりすが事情を説明していると、その声に反応して箱の中の白猫がムクリとその体を持ち上げる。


「何? うっさいわね……。えっ? リリス?」

「やほ。助けてあげたよ。マリルは何くれる?」

「なっ! 助けてって言った訳じゃないからお礼はしないから!」


 見返りを求められた元四天王は、すぐにその場を逃げ出した。リリスも立ち上がって追おうとするものの、ゲートを開いて異次元に逃げられてしまい、すぐに断念する。


「ま、いっか」

「いいのかホ」


 ボスを失ったダンジョンが崩れてきたので、2人はすぐにこの地下迷宮から脱出。地上に戻れたところでダンジョンは自然消滅して人間界から消え、すぐに元の景色に戻った。


「危機一髪だったホ」

「トリりん見て、夕日が綺麗」

「もう日が暮れてたのかホ」


 こうして魔界蜘蛛の脅威はなくなり、魔法少女によって街の平和は守られた。変身を解いてアリスに戻った彼女は、西の空を赤く染める夕日をしばらく眺めたのだった。

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