転校生アリス
第3話 学校に通うアリスを見守るホ
トリとアリスは先代魔法少女の家に下宿する事になった。アリスはバイトをして家賃を払おうとしたものの、家主の由香はそれを拒否。代わりに条件を出した。
「アリスちゃん、あなたは学校に行きなさい。近所の中学校、手続きとかしとくから」
「や、パイセン。あーし飛び級で大学卒業してるんで」
「それは魔界での話でしょ? こっちで14歳が平日にウロウロしてるのは不自然だから。とにかく形だけでも行きなさい。トリも一緒にね」
「ボクもホ?!」
突然話を振られたトリは一瞬硬直する。彼は魔法少女のサポートが仕事なものの、アリスの強さが最初からチートなので、特にサポートの必要性を感じていなかったのだ。
そんなトリの態度を目にした由香は、腰に手を当ててハァとため息を吐き出す。
「あんたねえ、アリスちゃんはこっちの世界に来たばかりなのよ? 分からない事もたくさんあるでしょ。それに、魔法少女としての知識だって完璧とは言えないわ。サポートの仕事をサボっちゃダメ。何のためにサポートマスコットになったの」
「わ、分かったホ。ボクが悪かったホ」
説教されたトリはしゅんと小さくなる。それを目にしたアリスはニコニコと満面の笑みを浮かべていた。
「じゃあトリりん、よろしくね!」
トリはじっとしていたら鳥モチーフのぬいぐるみにしか見えないため、普段はそれで誤魔化す事が出来る。とは言え、学校にぬいぐるみを持ってくのは校則に抵触する可能性があるため、それに対応したモードになる必要があった。
そのモードは魔法少女のマスコットなら身につけていて当然のもので、勿論トリもマスターしている。今回彼が選んだ偽装モードはキーホルダーだった。
トリは、アリスの目の前でキーホルダーにチェンジする。
「学校に行く時はコレになるから、ちゃんと身につけるホ」
「お、結構かわいーじゃん。受ける」
こうして、他にも色々と準備を済ませ、アリスが初登校する日がやってきた。彼女が通う学校は『市立舞鷹北中学校』。普通の生徒が集まる公立の中学校だ。略称は当然『北中』。お前どこ中だと聞かれたら『北中』と答えればいい。
――と、そう言う地元あるあるなども由香から仕込まれる。
「北中は私の母校だよ。雰囲気はいいからすぐ馴染むと思う」
「あざっす。パイセンの名前を汚さないよう、優等生やります!」
「あはは。私ダメ生徒だったし、普通でいいよ」
北中の制服の割と大人しめのデザインのセーラー服に袖を通したアリスは、姿見の前でくるりと一回転。ふわりと広がるスカートが初々しく、見た目も普通の中学生に見えた。
「うん、悪くない」
「アリスちゃん、そろそろご飯食べて家出よっか」
こうして、由香に見送られながら彼女は北中に向かう。トリはカバンに付けられたキーホルダーで同行。人目のある場所での会話はテレパシーで行う事にした。下宿先から学校までは徒歩で10分程度。割と近くにあり、すぐに建物が見えてくるので迷う事もなかった。
無事に学校に着いたアリスは、周りで同級生が登校している中、軽く深呼吸をする。
「さて、行くか」
まず最初に向かうのは職員室。そこで担任の教師と顔合わせをして自分のクラスへと向かう。
担任の竹田先生は眼鏡の好青年で良くも悪くも『ザ・教師』と言う雰囲気だ。柔らかい物腰で、優しそうな雰囲気を漂わせている。
「天王寺さん、初めまして。担任の竹田です。よろしくね」
「あ、はい……」
いつもはギャル語で話しているものの、この場ではどう対応するのが正解か分からなかったアリスは、つい口数が少なめになる。
この借りてきた猫状態の彼女の態度を見て、トリはくすっと笑った。
(いつもと別人ホ……)
(うっせーわ)
竹田先生の案内でアリスは自分のクラスにやってきた。2年2組。そこが彼女のクラスになる。
教室に入ったアリスは軽く室内を見渡し、これから一緒に時間を共有するクラスメイトの顔をざっくりと観察する。
「昨日話した転校生の天王寺アリスさんだ。みんな、よろしく頼むね」
「天王寺アリスです。えっと、両親が海外出張になって親戚の家で厄介になる事になって、それで転校してきました。これからよろっす」
アリスは猫を被った状態のままペコリと頭を下げる。挨拶の後は自分の席に移動。物語の定番だと質問攻めになる流れだけど、現実は割と大人しい反応だった。
それでも、隣の席になった女子からは軽く話しかけられる。
「私は木原もも。天王寺さん、何か分からない事があったら聞いてね」
「あざす。あーしの事はアリスって呼んで。ももち」
「うん、じゃあ休み時間に学校を案内するよ」
「やった! 助かる!」
こうして早速2人は仲良くなった。ももはショートカットで小柄な明るい女の子。面倒見も良くて初日は彼女に色々と教えてもらう。
翌日からは他のクラスメイトとも少しずつ打ち解けていって、元のギャルキャラに戻るのにもそんなに時間はかからなかった。
「ももち! はよっ! 今日はいい天気だねー」
「だね。アリス馴染むの早いよ」
「そっかな?」
「だってまだ転校してきて3日なのに、ずっと前からクラスにいたみたいな感じになってるもん」
そう、ギャルを開放してから、アリスはすっかり人気者になっていた。どのクラスメイトとも気安く話しかけたり、明るくてノリもいいため、全員から受け入れられたのだ。この人心掌握術は魔王軍時代に培われたものなのかも知れない。
彼女がすっかり中学生活に馴染んだ転校1週間後の火曜の2時間目。数学の授業の途中で事件は起こる。ノートを取っているアリスの超感覚が魔の気配を感じたのだ。ほぼ同時にトリもそれに気付く。
(アリス、奴らが来たホ!)
(だね)
こう言う時の対処方法は今も昔も変わらない。彼女はすっと右手を上げ、トイレに行きたい旨を訴える。
「先生、トイレ行っていっすか」
「ああ、行ってきなさい」
アリスは教師の許可を得たその足で渡り廊下まで移動。そこでステッキを出して変身した。
「マジカルチェンジ! 魔法少女りりす!」
「サクッと倒して戻るホ」
「分かってる。じゃあまたキーホルダーに戻って!」
「ホ?」
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