#5 託された願いのカタチ
思えば人生で初めて涙を流した気がする。
いや、こんなことが起きて悲しまない人はいないか......
あれから、感情を爆発させた後のこと。
魂のない糸峰と白龍川の体を緊急医療班に任せてきた。
二人の身体を渡すときに、励まされもしたが、人殺しもどきが励まされる意味あるのかと思ってしまった。もちろん彼女たちに非はない。僻んでる俺が悪いんだ。
二人とも死ぬとわかっていても、戦ってくれた俺にとっての大切な親友であり戦友だ。
これは彼らが仮に生き返ったとしても変わらない。
それほど二人と過ごした時間が大切な時間と思えた。
だからかな、二人からもらったスキルは彼らからの願いのようにも思えるのは......きっとそうだろうな。
俺は糸峰と白龍川に託されたんだ。
だとしたら、彼らの覚悟を俺が背負う他にない。
それに武器もだ。
糸峰と白龍川が選んだ武器、その二つをスキルを獲得したことによって有効的に使えるようなった。検証はしていないけど、武器を持った瞬間に。
この武器が使えるという感覚が身体から湧いて出てくる感じがした。
二人の武器も背負って戦う、それでこそ本当に糸峰と白龍川の意思を引き継いでいると言える。
二人の武器を背負うことで戦闘において、格闘による超近距離、刀による近距離、弓による中、遠距離のレンジでの戦いが可能となる。もちろん、武器を変えて、構えなおす動作が必要になるのは明白だが、ナックルダスターは最初から握っていればいいので、弓くらいか......?武器を交換する動作が必要になるのは。
この戦闘スタイルを確立できれば、あの魔王テネブリス戦での距離で苦しめられることはなくなるだろうな。もちろんそれは、武器を破壊されたり、落とされたりを考えないものとするんだが......まぁそれはいいや。
それよりも重要なのは、俺の印象だ。
残り98人の生存者の中で俺は唯一あのボスラッシュからほとんど心に傷を負わずに生き帰ってきたこの空間における重要人物になるだろう。なるんだろうが、先ほどの号泣のせいで誰一人近づこうともしなくなった。
腫物扱いか、様子をうかがっているだけか。それとも俺の心の傷心を察して近づかないのか。どちらにせよ、俺はボスラッシュに一人でも挑む。
だが、一人で挑むにはあの魔王テネブリスはハードすぎる。いや、ハードなんてもんじゃ表せないか?あれはもう難易度インポッシブルと言ってもいい。正直、人間があれと拮抗した戦いをできるイメージが何もわかない。たとえイメージを自分でしても、自分が何度も何度もぐしゃぐしゃに握りつぶされる光景だけが見える。
だからそう、仲間が必要だ。
人殺しもどきが何を言ってるんだと思うかもしれないが、それでもこのボスラッシュをクリアするには100人全員の力が必要になるんだと思う。
一人でも欠ければ、クリアできないそういう類の空間なんだと思う。
そうでなければ、100人誘拐してこんなデスゲームをやらせないだろう。
何処かに攻略の糸口は絶対にあるはずだ。
「......よっし!」
頬を思いっきり叩いて、気合を入れる。あの二人に弱いところをいつまでも見せられないしな。
背負ったモノの重さは理解しているつもりだ。
人間なんだからそれくらいは分からなきゃな。
そういえば、スマホのアプリの中にボスラッシュのアプリがあったのを思い出した。
「このアプリしか触れないか。なら、開くだけ開いてみるか。」
アプリをタップをすると、今の自分のステータスが表示された。
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神鶴ゼディア Lv:1
HP:20 MP:20
装備品
武器:魂魄『刹那』、デモンヘブン、輪転の光翼弓
防具:なし
アクセサリー:なし
パッシブスキル『格闘技』『弓術』『戦いの心得』『鷹目』
アクティブスキル『クイックステップ』『ヘビーブロウ』『クイックショット』『チャージショット』
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これが今のステータスだ。
糸峰と白龍川から託されたスキルがステータスの重みを増させているように思える。が、それよりもだ。何だこの武器の名前は......!?こんな大層な名前が付いた武器をさっきまで振っていたのか?
確かに今見れば、俺の持っている武器は尋常ならざる装飾が施されている。ファンタジーっぽいなと思いつつもしっかりと見てみた時のインパクトは想像以上のものだった。
「この武器をもってしても魔王テネブリスのバリアらしきものに弾かれたとなると、あの魔王の強さが伺いしれて来るな?やばい、勝てるイメージが益々沸かなくなってきたんだが......」
はぁ......っと溜息を少しだけ吐く。
自分のステータスを見ても、行動しなければ何も良い方向に変わらない。
さぁ、仲間探しだ。
そう思って、壁際で集まっている一つの集団に近づいていくことにした。
しかしながら、一歩。
また、一歩と俺が近づくにつれて、彼らの表情は険しいものになっていくのが分かる。
まるで、死神でも幻視しているかのような反応だ。
やめてくれよ、死神なんてまっぴらごめんだし、こっちから願い下げ名状況だというのに。
そして、3歩目。もう覚悟を決めたかのように、彼らは俺の到着を待っている。
死刑宣告を受け入れたような表情に変わった彼らに向かって、俺はただ一言。
「俺と一緒にボスラッシュに挑まないか?」
真剣に、されど表情は曇らずに笑顔を貼り付けてその言葉を彼らに投げかけた。
その結果......
......俺は仲間というよりも、一時的な協力関係てきなものを得た。
彼らからの願いは、この場所から出たいということ。それはこの場所にいる誰もが思っていることだろうけど、一番大事なことだろうな。そして、ボスラッシュを出るための攻略を手伝うというのは構わないとのこと、その形がどうあれ協力してくれることには感謝だ。それだけで、ボスラッシュの攻略が少しでも近づくはずだ。
彼らのグループは男子5人女子4人のグループだ。全員が高校生同士で集まっていて、俺的には自然と親しみやすいと思うグループだ。まぁ、だからここを最初に目指したんだけど。
さて、協力関係を得たけど、ボスラッシュに挑みたというのは二人だけだった。
二人か......それだと厳しいな。次はできる限り大人数で挑まないといけない。
それなのにまた3人で挑むとなると、結果は同じになってしまう可能性が高い。
そんな可能性を低くするために、もっと多くの人手がいるわけだけど。
普通の人がそう簡単に死地に赴くような、覚悟ができるわけもなく。
あの二人が特別なんだと、実感してしまった。
それ思っても、挑もうと覚悟を決めたこの二人は相当勇気のある人だと感心する。
俺からは少しだけ、ボスラッシュの話をした。
挑めば確実に死に戻りする。
痛みは恐らく、人が耐えられない程だと。
それでも、この二人は俺に攻略の協力をすると申し出てきたのは、初霜摩那と多々良悠馬だ。
一人目の初霜さんの方は、小柄ながらもきりっとした立ち振る舞いで、切れ長の目がクールさを醸し出している女子で、ボスラッシュアプリで確認したステータスのスキルに氷魔法があったらしく、魔法が使えるそうだ。どんな魔法なのか、実際に見せてもらったところ氷のつららが降ってきた。今までで一番、魔王の対抗策になりえるんじゃなかろうかと思い始めている。彼女はきっと、魔王攻略のカギになるだろうな。
二人目の多々良の方は、落ち着いていた状況であれば、親しみやすそうなイケメン優等生というイメージが強い男子で、本人曰く槍術を習っていて、武器の扱いはできるそうだ。何とも心強い限りだが、あの魔王相手には毛ほども役に立たないのを知っているため、何ともいえない。
初霜さんの氷魔法は特別な力のため即戦力でキーマンになるし、多々良だって気圧されなければあの魔王相手に動けるはずだ。それだけでも彼らのグループに声をかけた成果があったというものだ。
どうにか二人ボスラッシュの挑戦者を仲間にしたが、この人数では厳しいのが現状だと言わざるを得ないな。
それでも、糸峰と白龍川のためにも仲間集めを頑張らなければ!
俺が諦めたら、終わりなんだろうな。
なら、俺だけは諦めちゃいけない。この先何があろうとも、絶対に。
未だに感情がローな攻略サポート組を見て、一層そう思ってしまうのだった。
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