Escape Ring
ニャン太郎
第1話 プロポーズ
「
「大ちゃん…」
「俺、明日香を一生幸せにする!だから「うん!よろしくお願いします、大ちゃん!」
明日香は大輔が言い終わないうちに、その愛しい体に飛びつく。
「えっ…ほんとに?本当にいいのか、この俺と」
「ほんとにほんとだよ??大ちゃん」
明日香は抱き締める手をぎゅーっと強めた。
それに応えるように、大輔も明日香を優しく抱き締める。
「指輪、はめていいか?」
「うん!」
明日香は照れ臭さそうに色白の滑らかな手を優しく握ると薬指に指輪をはめた。
「ぴったりだ…良かった」
明日香の瞳が、
「わぁ、綺麗…」
「気に入ってくれたか?」
「うん!とっても嬉しい!!ありがと、大ちゃん!大好き!愛してる!!」
明日香は大輔に飛びつくと、天真爛漫な笑みを送った。大輔は明日香を抱き留めると、ウェーブの掛かった茶髪を優しくとく。
「今日は大ちゃん家に…泊まりたいな…?」
明日香は甘えたい猫のように大輔の胸板に顔を擦り付ける。
「あぁ、俺も今日は明日香を存分に堪能したい」
「んも、大ちゃんってば、エッチ…」
とモジモジする明日香を大輔はひょいと抱き上げる。
そして、その愛しい手を包み込んだ。
「んふふ」
周りには一人の影すらない。
ただ、立ち並ぶオレンジ色の街灯が男女をいつまでも照らす…まるで、二人だけしか存在しない世界であるかのよう。
それから時々、赤紫色の光が、ただ果てしなく続く殺風景な岩道を
──────────────────────
「ねぇ、あれ、どうなると思う?」
ふいに透明感ある声がした。
「ん?今の二人か?」
「そうそう」
俺はコーヒーを片手に、男女の後ろ姿に目をやる。
男が女に指輪を渡していたようだが…
おそらくプロポーズだろうか?
「どうって別に…俺には関係のないことだ」
他人がどこで何してようが、どうでもいい。
俺は、特に関心もなく空返事をする。
それより、なぜ彼女は俺にこんなことを聞くのだろう?
俺が他人に関心を持っていないことなど、彼女はとうに知っているはずなんだが。
「え…今日も同じ答えなんだけど…」
突然の彼女の意味深な言葉に、反応が一瞬遅れた。
「ん?どういうことだ?今日もって、それに"同じ答え"って何なんだ?」
彼女は少し考えた様子になったが、すぐに納得したような表情になった。
「ん~やっぱり自覚なかったんだね~あなた」
「自覚ってどういう…「でもね、今日やっと分かった!おかしい原因。きっと、あの指輪のせいね。でないと、こんな監視の目がたくさんあるところで堂々とプロポーズできないでしょ「ちょ、ちょっと待ってくれ!勝手に話を進めるな。一体、どういうことか分かるように説明してくれ」
一度、話し出すと止まらない彼女だが、今回ばかりは止めに入る。
さっぱり分からん。話についていけない。
原因?指輪?一体、何の話をしている??
彼女は、困惑した俺に気付いたのか、
「あっ、ごめんごめん!つい興奮しちゃって~!あなたを置いてけぼりにしちゃってた!ごめん!!」
「いや、大丈夫だ」
彼女はホッと息をついてから話し出した。
「んふふっ、ありがと。それでね、あなた、ここ最近ずっと様子がおかしかったのよ?」
「ん?俺が?おかしい?ずっと??」
「そうそう、今日みたいに、ここに近づくカップル見過ごちゃうんだもん、しかもコーヒー飲んで呑気にさ?いつものあなたならすぐに追い返すのに、全然そうしないんだもの。まるで、それがいつもの光景ですって感じ。ここって、ほとんど人通らないじゃない?だから、いくらカップルって言っても、ここに一週間も続けて、何組ものカップルがプロポーズしてここを通るってさすがに異常でしょ?」
「つまり、俺は異常を異常として認識できていなかったってことだな」
「そう!そういうこと!さっすが~!」
その途端に、俺はハッとして頭を抱えた。
「そうだ…」
異常な光景に対して、異常と感じられなかったということは…
あそこへ立ち入ろうとした不審人物も見逃した可能性がある。
なんてことだ!
なんて失態を犯してしまったんだ、俺は。
あそこは国家機密の塊って分かっていただろ、俺は!
万が一、あそこへの立ち入りを見逃していたとなれば、俺の処刑は確実、それよりも国家の重大事態、いや国際問題にも発展しかねない。
俺と一緒にいる彼女の身も危ないかもしれない。
まずは状況を整理して、上に報告して、急いで不審人物の立ち入り確認調査をしなければ…
「でもでも安心して!あなたは監視を決してサボってるわけではなかったし、私も一緒に監視して、もしも変な人がいたら、捕まえてたから!でも、この一週間、そんな人たちいなかったから大丈夫だよ!」
そうだった、ここには彼女もいる。
俺に何かあっても、いつも彼女が何とかしてくれる。
頭の固い俺と違って、柔軟な思考とユーモア溢れる彼女…
俺にとって、最も信頼のおけるパートナーである。
己の職務怠慢への疑いから冷静さを失って、彼女になだめられるとは、男として情けない…
「よく分からないが…お前がそう言うなら、とりあえずは大丈夫か。ありがとう。しかし、」
「しかし原因究明しなければ根本的解決にはならない、でしょう??あなたの口癖、もう覚えちゃった」
彼女は前のめりになって、人差し指を立てる。
彼女のこういう無邪気さには毎回、救われる。
「ふふっ、あぁ、そうだな」
「うっふふ、私に任せて!!さっきも言ったけど、あなたがおかしかった原因は、あの“指輪”!!ちゃんと説明するから、よく聞いてね!」
彼女の茶目っ気のあるウィンクに、俺の固く強張った表情も完全に砕けてしまった。
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