第19話 すごいアイテム

「あっ」

 リースペトラとミレディが握手を交わしてから少し、リースペトラが思い出したかのように声を上げる。


 ミレディは突然の言葉に首をかしげるが、湧いて出た疑問はすぐに解消されることになった。


「やっぱり、リースって呼んでもらおうか……」

 リースペトラが考え込むようにそう呟いたからだ。


 ミレディがぶつぶつと言葉をたれ流すリースペトラに口を挟めないでいると、リースペトラが急にミレディの方に振りかえった。


「我のことをリースと呼ぶのは今のところケラスだけだ。ミレディにはぜひとも二人目に――」


「り、リースペトラとケラス様はどんな関係なの?」

 焦ったミレディがリースペトラの言葉に口を挟む。


 実はミレディ、聖女見習いとしての振る舞いは堂に入ったものがあったが、それ以外の人づきあいはとても苦手である。


 幼少のころから、関わってきた人に偏りがあり今のミレディが出来上がっていた。つまり、コミュ下手べたである。


 お友達→仲が良い→会話が弾む。このようなフローを頭に浮かべ、それが焼き付いた状態でリースペトラと相対。


 湧き水のように言葉をたれ流すリースペトラに投げかける言葉、タイミングが見つからず、割り込む形になってしまったのだ。


 しかし、気分が上がっているリースペトラ――そうでなくてもかもしれない、は気にする様子を見せず、喋り出す。


「あ奴と我はな、将来を誓い合った――」


「嘘を言うな。契約相手だ、馬鹿」

 己の身体を抱き、頬を赤くしてそんなことを口走ったリースペトラに厳しい言葉を浴びせるケラス。


 ミレディは先ほど以上に険しい表情、むしろ能面とも思える顔を見て「ヒッ」と短く悲鳴をあげた。


 対してリースペトラは余裕の表情。これが正妻の余裕、とミレディは思ったが、口に出すと危ない気がしたため黙っておく。


 しかし、ケラスはリースペトラから視線を外すと、そのままの表情でミレディを見た。


 瞬時に聖女見習いモードへと切り替えたミレディは、「どうかしましたか?」と微笑んで見せる。


「あぁ、すまんがこれも頼めるか?」

 ケラスは一度断りを入れると、ミレディに魔物の死体を差し出した。


「――えっと、これは?」

 ミレディは問い掛けつつもスムーズに死体を受け取る。この道中で魔物に慣れ始めており、そこに見える忌避感は減少していた。


 なぜなら、先を行くケラスが何度も倒した魔物を持ってくるからである。


 これは護衛の方法が関係している。


 ケラスは前線基地までの道を先導し、道中で避けられない魔物との戦闘を請け負い、リースペトラは不測の事態に備えてミレディのそばにいるという形。


 必然的にケラスの戦闘が増え、その結果倒した魔物を持って戻ってくるのだ。


「牢獄鳥だ。道中に群れからはぐれた個体がいてな。鳴かれると付近の群れを集めかねないから狩らせてもらった」

 ケラスが持つ牢獄鳥は片羽に風穴が空いており、おそらく石か何かで貫かれたように見受けられた。


 ミレディは牢獄鳥の傷に魔力が関与していないことを確認すると同時にそう結論付け、ケラスの実力に舌を巻いた。


「ものすごく便利だが、我らがそんなに乱用してしまっていいのか?」

 リースペトラは珍しく申し訳なさそうな表情を浮かべ、懐から小さな袋を取り出したミレディに問う。


 その袋はぱっと見でわからないほどに細かく編まれており、その結果光沢を携えていた。


 白を基調とした生地にところどころ散らばった金色の刺繍は華麗で荘厳。それは袋の持つ力と圧を顕していると言えよう。


「気にしないで。これくらいはお礼として受け取ってほしいな」

 ミレディはそう言って袋の口を開けた。


 すると、牢獄鳥があっという間に吸い込まれたではないか。


 牢獄鳥は魔物の中では小型。しかし、懐にしまっておけるくらい小さな袋には明らかに入りはしない。


 リースペトラはその様子を興味深そうに見届けてから口を開く。


「見た目以上にモノが入るマジックバッグ。凄まじい性能だな……」


「あぁ。そのお陰で時間が短縮できたし、余計に魔物を回収できている」

 ケラスがリースペトラの言葉に同意すると、ミレディは恥ずかしそうにへにゃっと笑った。


 現在、この袋にはケラスが道中で狩った魔物と、三体のグランダッカーが入っている。このバッグのおかげで解体の時間が省け、すぐさま帰路につくことができているというわけだ。


「力になれてよかったです、ケラス様。それにリースペトラも」


 ミレディの言葉にリースペトラは気恥ずかしさを隠さず頭をかくと、続けてケラスを見た。


「こ奴がな、中々に金にがめついんだ。表情こそ険しいままだが、内心はニヤニヤしまくって――」


 突如、リースペトラが口を閉じてミレディを守るように前に出た。それはケラスも同じで、リースペトラの前に出て大剣を構える。


「え? あ、あのっ」


 困惑するミレディをよそに二人は戦闘態勢を整えた。


 その速度はすさまじく、レクトシルヴァであっても舌を巻く連携だろう。


「ミレディ、我の後ろで動くな」


 その言葉にケラスが頷く。


「同意見だ。誰かが高速でこちらに向かってきている」

 ケラスはそう言うと、大剣を持つ右手に力を込め、まだ何も見えない森の先をにらみつけた。

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