ロストクラフト物語

仙道狐来

ソウル・オブ・ジ・オリジン編 第1話「101回目の目覚め」

すべてを終わらせる力、ソウル。


君達の一番目の魂は過去から未来へと進化し続けている。


様々な時空と終わりなき輪廻と共に産まれた魂を、我らの計画のための駒としてこの世界を造った。


心の一欠片が歴史とともに摩耗し、自身の運命すらも嘆いた。


心に生まれる人格は4つの感情から生まれ、光と闇の人格により身体が形成されるが、君達の前任者たちの願いそのものが君達の力をより一層引き上げ、そして何かが欠落した。


無限に増え続ける虚空の世界は、君達の真価を望む。


この地獄の輪廻を終わらせるには、己自身の未来をも犠牲にしろ。


抵抗するなら好きにしたまえ。だが、創造主には逆らえんのだよ。


我も同じ想いであり間違いを繰り返す、昔の君のようにな・・・オルト・・・。


そして・・・ウロボロスの天秤は、君たちの呪縛を流転し続けるだろう。



~~秘水の恩恵の街【レウートサクス】~~



僕はリヴァン=ゴールドタイタス。病床に伏す妹のために、骨身を削って冒険者として日々様々な依頼をこなしている。


「はぁ・・・今回の依頼の報酬もこれっぽっちか・・・。」


冒険者家業が軌道に乗ればガッポリと金が入ると考え、思い切って奮発して買った大きめの財布は紙を押さえる重しにもならないほど空っぽだ。


夕日に照らされた大通りを肩を落としながら重い足取りで宿に向かっていると、背後から声が聞こえてくる。


「おーい!リヴァーン!」


誰かに呼び止められることすら少し嫌気を感じる状態だが、後ろを振り向くと冒険者パーティの仲間の一人、ドラゴン族とヒューマンの混血の「レイン=ライトイーグル」が手をブンブン振りながら笑顔で駆け寄ってくる。


「ハァッ・・・ハァ~・・・。な、なぁリヴァン、妹さんへの仕送りは終わったか?」


「終わったけど、どうしたの?」と聞くと、レインは深呼吸をして息を整え。


「今日の依頼のとき、蛮族との戦いでだいぶ武器が刃こぼれしているのを見てな。お前、妹さんに仕送りを毎日欠かさずしているからお金ないだろ?知り合いに良い鍛冶師が居てさ、俺の仲間の武器も格安でメンテナンスしてくれるって言ってくれたから、明日にでも届けようと思ってよ。」


確かに・・・買ってから自分で毎日手入れはしていたが、本格的なメンテナンスは何年もしていなかった。


「レイン、とてもありがたい話だけど、僕・・・もうお金がほとんどないよ?」


軽くなった・・・いや、いつも軽い大きな財布をゆっくりと取り出すと、レインは少しため息をつく。


「なぁリヴァン、少しは俺等を信用しろ。まだパーティとしては日は浅いかもしれないが、もう立派な仲間であり友達だ。大丈夫!金なら俺が出してやる!それでお前が少しでも元気が出るなら、俺はいくらだってお前を助けるからな。」


その言葉で僕の心は少し軽くなった、そんな気がする。


「ちょっとレイン!それは聞き捨てならないわね。」


「そうですよレインさん!抜け駆けはダメです!」


夕日を背に目の前に現れたのは僕の冒険者パーティの仲間、少し性格は男勝りではあるがとても美しい顔立ちのエルフ族の女性「リセル=レッドイーター」と、丁寧な口調で話す小柄で小動物のようなトレント族の少女「マルタ=アークウィンド」三人とも僕の大切な仲間たちだ。


でも、何故だろう。


今、こうして仲間と共に居るこの光景が、とても懐かしい記憶として鮮明に心の奥底に眠っている。


遠い昔の、僕がこの時代に産まれるずっと前の記憶。


僕がその記憶を鮮明に思い出したとき、僕はきっと、この世界を呪い続けるだろう。



そう、これは感情を失った心からすべての因果を胎動させるための物語。




~ロストクラフト物語 ソウル・オブ・ジ・オリジン 「犠牲の魂編」~




なんだ・・・?何故か、身体が心地よい。


ずっとこうして眠り続けたいような、暖かく優しい羽毛に抱かれているような、そんな気分だ。


そしてそのままゆっくりと、僕はこの空間の奥底へと落ちていく。



あれから何時間経ったのだろう、いつしか閉じているまぶたから感じていた光が消え、だんだん意識がハッキリしてきた。


ゆっくりと目を開けると、そこは雲ひとつない空が夜のように暗く足元の湖畔からは優しい光と湖畔の光を包む空へ空へと昇っていく水泡が、辺りを照らしてくれている。


辺りを見渡すと湖畔の上にレイン、リセル、マルタが寝ている。


「おい!みんな、大丈夫か・・・!?」


と、皆の安否を確認しようと、仲間たちに手を伸ばした瞬間、僕の背後から女性の声が聞こえてくる。


「また、この夢の終わりを見ているようだね。」


後ろを振り向くと、目の前には白い純白の羽を広げる天使のような少女が僕を見つめ、涙を流している。初めて出会うはず、そのはずなのに何故か、この目の前の天使のような少女の姿がとても懐かしく感じる。


「き、君は・・・一体・・・?」


目の前の存在を確かめたい・・・何故懐かしく感じるか、その答えを知りたい欲だけが僕の思考を動かし続ける。僕が天使に話しかけると、天使は僕に屈託のない笑顔を見せて、こう答えた。


「私たちはこの世界を見守るため、あなた達を守り続けるために存在する『守護天使』の一人。」


守護天使?そんなものは僕は聞いたこともない。この世界の歴史の書などは少しは見たことはあるが、彼女の存在についての文献なんて見たこともない。見たことはないが、何故なんだ・・・?何故彼女のことを知っているような気がするんだ・・・?そんなこと・・・ありえないはずなのに・・・。


「守護天使・・・?の君は、どうして僕らの前に現れたんだ?」


「それはあなた達にとって、とても大事なことを伝えるためにこの世界にあなた達を呼んだから。そして・・・ごめんね、オリジンよ。これが最後だと私たちは信じている。」


彼女の言葉に疑問を抱く。彼女は何故謝っているんだ・・・?まるで何かを手放すような言い方だ。


「オリジン・・・?何故僕らのことをオリジンと呼ぶんだ?」


その答えを知りたいという欲が脳裏で加速し続ける。


「ごめんね、そのことについては詳しくは教えられない。でも、いつか思い出すと思う。あなた達が何故この名で呼ばれ、何故この世に存在するかを・・・。そしてこの一番目の夢は、あなた達のプロローグを始めるための最初の夢。そしてその夢は二番目の夢に受け継がれていく。止めることのできない排他的辺獄、それがこの世界。」


言っている意味がわからない・・・。一番目・・・二番目の・・・夢・・・?彼女は何を言っている・・・?だって僕らは、ただの一介の冒険者だぞ・・・?


「ところであなた達は今、どんな夢を見ているの?」


その言葉に返答する前にまばたきを一回すると、目の前の光景が一変した。僕が今居るそこは空、地面、建物、すべてが灰色の世界が広がっている廃都のような場所。空には灰色の星空があるけどその星々が流星群のように流れ続け、消えていっている・・・。


「ここは、一体どこなんだ・・・?」


周りには寝ていた仲間たちは居なかった。自分ひとりだけの孤独な空間だけど、何故か心が不安で押しつぶされるなんてことはない、この場所が僕の自室の中のように、落ち着く空間と感じている。


「不思議な空間だ、何故か熱さや寒さも感じないし、息苦しくもない・・・。」


僕が歩み始めると、目の前に何かを映し出すスクリーンのようなものが現れた。


「なんだ・・・これ・・・?ひとりでに空中に浮いてるけど、何かを映しているようにも見える・・・。」


スクリーンのようなものをじっと見つめると、徐々に映し出されているモノが鮮明になっていく。


そのスクリーンには会ったこともないが、何故か懐かしい顔の夫婦が映し出されている。二人の幸せな家庭の様子、その光景は一瞬にして地獄の光景になる。夫婦の子供が謎の病気で徐々に衰弱していき、女性はそれに耐えかね自害をし、男性は二人の亡骸を見て涙を流し世界を呪う。


こんな光景なんて見てはいけない、見ると心の内奥から何かが溢れていくんだ、そう思うけど何故か悲しいという感情が出てこない。なんでだ・・・?映し出されている夫婦は、僕は知っているはずなんだぞ・・・!なんで、なんで悲しいと思えないんだ・・・!


「それは過去の自分でもあり、未来の自分でもある。」


スクリーンから男性の声が聞こえてくるが、この声も、遠い昔から何度も聞いたことがあるような感覚に陥る。


「お前は一体何なんだ!?何でこんな光景を見せる!今までの光景は、何でこんなにも懐かしいという気分にさせるんだ・・・!」


「君たちには彼らの想いが受け継がれている。だが彼らの命などこの世界の一つの事象にしかならぬ。この輪廻を終わらせるには、君達の進むべく未来の軌跡を踏みにじってはならない。」


何だ・・・何を言っている・・・?だって僕らは、ただの・・・。身体に流れる血液が頭に登っていき、どんどん冷や汗をかくが、ずっと感じていた何かの感情が僕の心を後ろから押し続けられる。


「偽りの感情に惑わされるなオリジンよ、自分の使命を思い出せ。その時が来たりしとき、悠久なる約束の地からこの物語を始めよう。」


その言葉を最後に、僕の意識がこの空間からどんどん離れていく。


「待て・・・ッ!まだ・・・お前にはまだ・・・聴きたいことが・・・!」

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