不穏な屋上
春の風が屋上を吹き抜ける中、輝は手すりにもたれ、遠くの景色をじっと眺めていた。心はロッカールームでの出来事に引き戻され、重い思いが胸を圧迫していた。
足音が静かに近づくのを感じ、輝は横を見た。白玖が彼の隣に静かに立ち、同じ方向を見つめている。彼女は彼の彼女であるが、彼の内面の動揺に対して直接的な慰めを提供することはなかった。
「輝、どうしたの? 何か考え事?」
白玖の声は優しく、常に彼を気にかけていることを示していた。
輝は少し間を置いてから、ぎこちなく答えた。
「うん、ちょっとね。」
彼の声には明確な距離があった。
白玖は一瞬、何か言おうとしたが、すぐに彼の表情を読んで言葉を変えた。
「輝、スカウトの件で色々と大変だろうけど、輝なら乗り越えられる。自分の心と向き合うことが大事だよ。」
輝は彼女の言葉を聞きながらも、どこか他人事のように感じていた。彼女は彼の側にはいるものの、彼の深い不安や葛藤を真に理解してはいなかった。
「そうだね、ありがとう。」
輝は礼儀正しく答えたが、心の中ではさらに孤独を感じていた。白玖は彼の隣にいるが、彼の心の支えにはなっていない。ただ、白玖の顔を見ると癒されるだけだった。
白玖は彼の肩に手を置き、
「私はいつもここにいるから、何かあったら言ってね。」
と言った。彼女の言葉は心からのものだが、輝にとっては十分ではなかった。彼はただ頷き、再び遠くを見つめた。
二人はしばらく無言で立っていた。春の空が広がる中、輝は白玖との問題にこの時は気づいていなかった。
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