輝サイド3章

スカウトの秘密

 輝は自分のロッカーの前で立ち止まり、重い息を吐き出した。練習後の疲労が彼の体を包んでいる一方で、部員たちは冗談を言い合ってリラックスしていた。しかし、その笑い声は今日に限って彼の耳に遠く感じられるようだった。


 部室のドアが開く音がした。彼の視界の端で、一人の後輩が急いでロッカーに向かいながら他のメンバーに話しかけた。

「おい、聞いたか? 輝がプロからスカウトされたって!」

その一言が部屋に静寂をもたらし、突然すべての目が輝に向けられた。彼の心臓の鼓動が、静まり返った空間で唯一聞こえる音のように感じられた。


「マジで?聞いてないぞ、そんなこと!! なんでそんな大事なこと、俺らに教えてくれなかったんだ??」

部室の一角から不満げな声が上がる。輝はゆっくりと周りを見渡し、驚き、疑問、そして少なからず妬みの色も含まれた表情たちを目にした。彼は必死に冷静を保とうとしたが、心の中は波が荒れる海のようだった。


「みんな、ごめん。まだ何も決まってなくて、自分でもどうすべきか...」

彼の言葉は途中で震えてしまった。彼はキャプテンとして、部員たちに向けて話を続けた。

「これは確かに大きなチャンスだけど、まだ確定したわけじゃない。だから何も言わなかったんだ。でも、僕たちの目標に変わりはない。一緒にこのシーズンを最後まで戦おう。」


「県大会出場が目標だった俺たちに輝は全国の景色まで見してくれたんだ。今度は僕たちが輝にプロの世界を見してあげよう。それが俺らにできる唯一の恩返しだろ?」

3年の田中が部員に対して話した。彼は輝が入学するまでエースを張っていた男で現在の副キャプテンである。


 しかし、田中の発言も虚しく部室内は依然としてピリピリとした空気が漂っていた。輝は深く息を吸い込み、もう一度仲間たちを見回した。その瞬間、何人かの部員が頷き、少しずつ部室の空気が和らいでいった。彼らはまた一つの団結点を見つけ、互いを高め合う関係へと戻りつつあった。輝は自分のロッカーを開け、次の戦いに向けてギアを整えながら、未来への一歩を踏み出す覚悟を新たにしていた。


 このスカウト情報が広まることで、輝への尊敬はさらに大きくなったが、同時に彼にはプレッシャーが増大していた。彼はチームのリーダーとして、その期待は彼の肩に重くのしかかっていた。この新たな評価が彼に与える影響は計り知れず、輝はその重みを感じつつも、これを乗り越えなければならないという強い決意を固めていた。

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