第2話 義妹と苦(ク)エスト!!

 帰宅してキッチンに向かうと早癒がいた。


「ただいま」

「おかえりなさい、葉月。どうだった?」

「きちんと働けたよ。素晴らしいアプリだ」

「良かった! 一日でいくら稼げたの?」

「フッフッフ。なんと……!」


 俺はパーを示した。早癒は、俺のそのジェスチャーを直ぐには理解できず、首を捻っていた。……だよな。

 たった一日でまさかこの金額だとは思わなかったのだろう。


「え……貰えなかったの?」

「なんでそうなる。五万だ、五万」


「え~~~~~~っ!?」



 さすがの早癒も五万という大金に驚きを隠せなかった。予想外だったようで叫んでしまっていた。近所迷惑だぞっ。



「凄いだろう! 廃墟の草刈りへ行ったんだけどな。管理人の牧野さんという女性が優しくてさ」

「へえ凄いなぁ~! 葉月、やるじゃん!」


 褒められて俺は悪い気がしなかった。汗水垂らして働く、そんな労働が誇らしく思える日が来るなんてな。というか、スキマバイトアプリが凄すぎるんだよ。

 あんな大金をくれるとか革命的である。

 なんでもっと流行らないんだろう。


 苦エスト一覧を見る限り、あんまり消化されていないように見えた。

 人気ないのかな。

 それとも怪しまれているのかな。

 闇バイトのニュースもあったしな。



「というわけだ。今日は贅沢をしよう」

「いいの?」

「いいさ。その為にがんばってきたんだ」

「ありがとう、葉月。なんか悪い気がしちゃうけど……」

「気にすんな。アプリを教えてくれたのは早癒だろ。おかげで生活費を稼げたんだから」


 そうだ。アプリが見つからなかったら俺は永遠の無職だった。こんなスキマバイトをやろうとも思わなかった。

 おかげで五万もの大金をたった一日で手に入れられたのだ。


 普通、バイトで日給五万はありえない。

 こんなに高額なら直ぐに求人の取り合いになりそうだな。噂が広まらないことを祈りたいが、すでに話題のアプリだからなぁ。どうなるやら。


「じゃ、遠慮なく」

「おう。とはいえ、今日はもう遅い。ウーハーイーツでいいんじゃね」

「それ、逆にありがたいかも! 好きなの選べるし」


 ウーハーイーツは、飲食系の配達サービスだ。

 少し値段は高いが、家まで運んできてくれて便利。重宝している。


 スマホを早癒に渡し、好きな料理を選んでもらった。


 いくつか選択したようだ。

 俺も自分の好みの料理を選ぶ。


 ――よし、こんなところだろう。



 四十分後。



 注文した品が全て届いた。

 その間にシャワーを浴びたり、ネットを見たりと有意義な時間を過ごした。あとは飯をゆっくり食べるだけ。


 テーブルに袋を置き、開封していく。


 ペペロンチーノ、たこ焼き、デザートのイチゴショートケーキ。これは早癒の注文したものだ。

 俺はネギ爆盛り牛丼とから揚げだ。



「「いただきま~す!」」



 二人で手を合わせ、食事を進めていく。



「ん~、このネギ爆盛り牛丼はネギたっぷりで最高だ」

「葉月、それ凄いよね。山盛りでお肉が見えないもん」



 期間限定メニューゆえか、物凄い量のネギが盛られていた。これは贅沢すぎる……! 今日がんばった甲斐かいがあった。

 仕事をすれば、こんなに美味いものが好き放題食えるのだからな。



「明日もがんばるかな」

「スキマバイトだから、いつでも時間を選べるのがいいよね」

「ああ、休みたい時は休めばいいし、これは今の時代に合っていると思う」



 日雇いだとか短期バイトは、今後廃れていくかもしれない。これからはスキマバイトの時代だ。

 履歴書なしのアプリだけで成立する求人。なんて素晴らしいアプリなんだ。


 俺は飯を食いながらも、次の『苦エスト』を探した。



 3.最恐廃墟スポットで一泊 報酬:1.5万円/交通費5,000円

 7.【大至急!!】実験台(命の保証たぶんあり) 報酬:7万円/交通費なし



 今のところはこの二つかな。

 無難のは③だ。⑦は……命の保証がたぶんだからなぁ。治験ならいいけど、実験台ってなんだよ。なにされるんだよ……!?



「葉月、次の苦エスト悩んでるんだ?」

「そんなところだ」

「③でいいんじゃない?」


 俺のスマホの画面を覗く早癒。だよな。怖いけど廃墟なら今日も行ったし、少し慣れている。だが一泊かー。

 とはいえ、俺は心霊現象だとかあんまり信じないタイプなのだ。きっと大丈夫だ。



「そうするかな。夜でいいらしいし、それまではのんびりできるな」

「いいじゃん。しかも二名まで参加してもいいみたいだし、わたしも行こうかな」

「マジで!」


 よく見ると【最大参加人数:二名】と書かれていた。

 苦エストによっては最大参加人数が設定されているようだった。なるほどね!

 ということは、早癒も一緒に働ければ三万円を獲得できるわけだ。美味しいぞ。


「ダメかな?」

「いいと思う。一緒にやろう!」

「うん。廃墟で泊まるだけなら大丈夫かな。それに葉月もいるし」

「ああ、俺が守ってやる」


 よし、決まりだ。

 明日は最恐廃墟スポットで一泊して三万円ゲットだ!

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義妹とはじめる苦(ク)エスト 桜井正宗 @hana6hana

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