2-4 魔王になる可能性
「ケイス、話とは何でしょうか?」
ベッドに腰掛けるのはユウタ、その隣の椅子にはタリダスが座り、向かいの椅子にケイスが腰掛ける。
タリダスもケイスも椅子に座ることを固辞したが、ユウタに命じられ、指定された椅子に座っていた。
「シシス村の生き残りがいたのです」
「生き残り!」
壊滅したとされている村にユウタたちはまだ辿り着いていない。
魔物の群れが邪魔をして村に行くに至っていなかった。しかし日中魔物の動きが弱るため、騎士団から一個小隊を偵察に出していた。
その報告は本来ならケイスではなく、タリダスに行くはずだ。そのことにタリダスは少し苛立ちながらも、表情を崩さずケイスの話を聞く。
シシスの生き残りは村からなんとか逃れ、瀕死で発見された。
現在騎士団が天幕を張ってる場所まで連れ帰ろうとしたが、その途中で息絶えてしまった。死体は黒く変化した後、魔物に変化した。騎士たちはやむなく応戦し、消し去った。
なので生き残りの村人はもういない。
けれども死ぬ前に、彼は村で起きたことを端的に言い残した。
「黒髪の子供が魔物に変化して、村人を襲い、村人や家畜たちが魔物化したと?」
ケイスの言葉を聞き返したのはタリダスだ。
ユウタはショックで言葉を失っていた。
ーー子どもは両親や親族の誰にも似ていない薄気味悪い容姿だった。
ーー子どもは村で疎まれていた。親からも。
少年の境遇がユウタのものにあまりにも類似していて、動揺していた。あの日タリダスが母の恋人の首を切って、彼を助けてくれた。その時に、ユウタは何を思っただろうか。
魔物になる要素が、ユウタにもあった。
だが、彼は聖剣の使い手であり、アルローの生まれ変わり。タリダスという優しい味方もできた。
しかし、村で迫害されていた子はどうだろうか。聞けば殺されかけたいうことだった。
「同情する気持ちはありますが、魔物を生み出す所業、人を殺すことは許されることではありません」
ケイスはユウタのことをほとんど知らなかった。
なので、顔色を変えて小刻みに震えている本当の理由を知らなかった。
「ケイス。報告ありがとう。ユータ様はお疲れだ。休んでいただい方が良い」
タリダスがいつの間にか立ち上がり、寄り添うようにユウタのそばにいた。そんな二人の姿にケイスは苛立ちを覚える。けれどもユウタの顔色が悪いことは本当で、ケイスはタリダスに言われるがまま部屋を立ち去るしかなかった。
「ユータ様」
タリダスはケイスが天幕からいなくなるとすぐに彼の隣に座り、その肩を抱いた。
「タリダス!」
ユウタは幼子のようにタリダスの胸に縋りついた。
「……僕と同じだ。僕が聖剣の使い手でなければ、アルローの生まれ変わりでなければ、僕が魔王になっていたかもしれない」
「それは違います」
「違わない。あなたがあいつの首を刎ねて僕を助けくれた時、僕はざまあみろって思ったんだ。ひどいやつだ」
「ひどくなんてありません。あなたに触れたあの男には生きている価値はありません」
「タリダス」
タリダスはユウタの背中に手を回し、その腕の中に彼を閉じ込める。
「あなたは彼とは違います」
「僕には、あなたがいたから。あなたが僕を救ってくれた。だからだ」
涙声でユウタは言葉を続ける。
「タリダス。僕にはあなたは必要だ。本当は僕は聖剣の使い手にふさわしくないんだ。アルローだってそうだ」
「ユータ様」
自身に縋り付くユウタを胸に抱きながら、タリダスはこの二週間感じていたわだかまりが消えていくのを感じていた。そしてユウタを愛しく想う気持ちが強くなっていく。
「ユータ様」
タリダスはユウタの額にそっと唇を当て、彼を抱く手に力を入れた。
☆
ケイスは天幕から出てしばらくその場にいたが、ジニーに睨まれ、仕方なく自身に当てられた天幕へ戻った。ジニーは元騎士団員で、王の護衛騎士にも顔が効く。そのような者と揉めるような真似をするのは馬鹿げていて、天幕に戻る選択しかなかった。明日も魔物との戦闘がある。体を休めることは必要だった。
天幕に戻ると、すでに数人の騎士たちが休んでおり、ケイスも同様に横になる。
ユウタとタリダスの距離が少し広がっていた気がしていたのに、これで元に戻るかもしれない。ケイスはそんな予感を覚える。
何がユウタをあそこまで動揺させたのか、ケイスには理解できない。しかし、タリダスは理解しているようだった。異世界から連れてきたのは彼で、アルローの死を看取ったのもタリダスだった。
二人の絆にケイスなどが入り込む余地はない。
けれども、彼は足掻きたかった。
ユウタの美しい緑色の瞳に自身を映して欲しかった。
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