第4章 神永未羅の場合 第45節 無関心な忠臣蔵

どうくつから、ちょっとはなれた分かりにくい場所に小屋があった。

マーキュリーの「巣穴の一つ」なんだと言う。

「頭のいいウサギは、巣穴をいくつも持ってるモンだよ」とはマーキュリーの弁。


そこで服をかわかし、温まることが出来た。

ペコペコのおなかを満たすことも出来た。

身の回りの世話、片付け物は全部、マーキュリーがやってくれた。

ああ見えて、実はスパダリ?


ついでに言うと、かなりの美形、イケメンで、ちょっと不良っぽくて強引な所もある。

そくだんは出来ないけど、男子属性のポイント高いぞ。


マーキュリー「さあて、一体、何から聞きたい?」

まだかみかわいてない私たちの前に、マーキュリーがドカッとこしをおろした。

こっちが立ち上がるスキをあたえないな。オラオラ営業かっ。


私「率直に聞くけど、あれ、どういうこと? 地下水に放りまれるのを、エリザベート様が自ら望まれてたなんて。」

マーキュリーが、ちょっとコワい目つきになった。


マーキュリー「望んで、そうしたワケじゃない。あれはばつなんだ。」

私「ドラキュラに罰を与える人って、もしかしてキリスト様?」

マーキュリー「いや、そうじゃない。ユニテリアンの神様だと聞いてる。理性しか信じないユニテリアンにも、理性と言う名の神様がいるんだそうだ。見たことも会ったこともないが、百科事典に手足が生えて、歩き出したような物なのかね。」

ニーナ「ずいぶんな言い方するじゃない。ご主人様のことを理解しようともしないワケ?」

ザ・クラッシュ「ニーナ、落ち着きなよ。この人、敵じゃないよ。」

マーキュリー「気にさわったらスマン。オレは代々バートリ家に仕えて来たしつの子なんでな。主人のやることに疑問をいだかない反面、余り興味も無いのだ。」


まあ、家の子・ろうとうとか、だい・旗本って、そういう物よね。

昔むかしから仕えて来た家臣団の層の厚さが、伝統貴族の真の強さなんだ。

ニーナ「分かったわよ。それで、エリザベート様は死んじゃったの?もう帰って来ないの?」

ニーナは、もう両目になみだをためてた。

マーキュリー「水に投げまれたくらいで、ドラキュラは死なんよ。帰って来られるかどうかは、知らん。エリザベート様次第なんだ。」

ザ・クラッシュ「またしても、ずいぶんな言い方してくれるけど、アンタはどう思ってるんだよ? いや、アンタはどうなって欲しいの?」

マーキュリー「どうなって欲しいも何も、オレは、ここで待つだけだ。主人を失ったしきが、いずれちて土くれにもどるようにな。」


運命論者みたいに見えるけど、こいつは運命論者じゃないな。

目的達成のためには何でもするタイプ。

そして、決して、あきらめないタイプだと思う。

きっと、よくよくきょうれつな目的意識なんでしょうけど。

トランシルヴァニアの忠臣蔵?


マーキュリー「質問は以上か?オレはもう行くぜ。」

未羅みら「ちょっとぉ。かよわい女子を、いたわってやろうと言うおとこは無いの?」

未羅みら、アンタが言うな。


マーキュリー「オレは一人が好きなんでな。青い衛兵どものことなら、心配するな。エリザベート様がいなくなって、一番困ってるのは、あいつらなんだ。」

ザ・クラッシュ「水やしょくりょうは、いつまで持つんだよ?」

マーキュリー「ああ。洞窟の中の物はダメになっちまったからな。足りない物は、紙に書いてドアにっとけ。そうすりゃ、届けてやる。姿は消しても、ちゃんとかんはしてるから、心配するな。」

私「それも、エリザベート様のお言いつけなの?」

マーキュリー「もちろんさ。」

愛想笑いの一つもせず、マーキュリーは消えちゃった。

結局、私たちも待つしかないの? こっちが運命論者になっちゃいそうだよ。

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