第4章 神永未羅の場合 第37節 囚われの少女

私、ニーナ、ザ・クラッシュは、ジメジメしたかげにあるどうくつの前に連れて来られた。

今度は洞窟探検か。


私「ねえ未羅みら、あなた、ちゃんとけ道、知ってんの?」

未羅みら「知ってるよ。と言うか、これ、トンネルみたいな直線コースでね。ここで迷子になる方が難しいよ。問題は、そこじゃないの。」

ザ・クラッシュ「つまり、モンスターが待ってるんでしょ?今度のは、話が通じる相手なの?」

未羅みら「通じるよ。すっごいベッピンさんの貴婦人だよ。ここにいるだれよりもね。ただ、ものすごいヒネクレ者だから、口の利き方には、くれぐれも気をつけてよね。もしもかのじょおこらせたら、私たち、一巻のオワリだよ。」

未羅みらにここまで言わせるとは、ほうもないヒネクレ女なんだろうなあ。


ザ・クラッシュ「また、そうやってウジウジする。さあ、行くよ。」

こういう時、みんなのしりたたいてくれるのは、ザ・クラッシュぐんそうだけだなあ。


洞窟に入る前に、未羅みら、私、ニーナ、ザ・クラッシュの順に並んで、おたがいの体をロープで、つないだ。

電車ごっこみたいにね。

ここから先は直線コースで、これといった難所も無いから、かいちゅうでんとうを点ければ楽勝なんだけど、未羅みらは灯具の使用を禁じた。

「よほどのことがない限り、口も利いちゃダメ」とも言われた。

ヒネクレ者の女王様を、怒らせないためなんだって。

だからロープで体をつないで、はぐれないようにするしかなかったの。


やみの中では時間感覚もきょ感覚もき飛ぶ。

だから私は、ずっと歩数を数えてた。

千歩ほど歩いたら、外からの光は、もう届かなくなった。


進行方向に、明かりがパッと点いた。

うれしい悲鳴が出そうになった。

近寄ったら、きんざんりの大きなソファーに、見た目10さいくらいの少女がちょこんと座ってた。

ソファーの下にはゴブラン織りのじゅうたんき、絨毯の上にはベッド、テーブル、チェストと、一通りの家具は、そろってた。


少女は白いゴシック・ドレスを着てた。

はだけるように白く、手足は人形のように細く、長いブロンドのかみにはウェーブが、かかってる。なるほど美少女だ。


未羅みらが急に歩調を変えた。

つま先立ちで、しずしずと少女に近寄り、ヒザをいて頭を下げた。

未羅みら「バートリはくしゃくのレディ・エリザベート様、未羅みらでございます。お久しゅうございます。」

少女は、首だけ、こちらに向けて、ポイと言い捨てた。

エリザベート様「未羅みらか。久しいな。そくさいだったか。」

未羅みら「おかげをもちまして。」

エリザベート様「であるか。後ろにいるのは、おまえ付きの半ドラキュラか?」

未羅みら「いえ。友でございます。」

エリザベート様「ほぉう、おまえにも友がいたとはな。ならば、今日の所は客人としてあつかおう。無礼講で良いぞ。」

ここで言う無礼講とは、あつじゅうたんのすみっこに、並んで正座しても良いと言う意味だったのでございます。


それから、わたくしたちに、お茶とおのお接待がございました。

給仕は未羅みら

「ここはだまって、接待されてて、ちょうだい」と、未羅みらは私たちに目で告げた。


その晩のこと。

私たちは、エリザベート様に声が届かないだけのきょを取った上で、どうくつの中にぶくろを広げた。

つかれたぁ。

かたがこったぁ。

私「ねえ、何で、あの女の子にヘイコラしなきゃならないの?高貴なご身分だとは分かるけど、一体、ナニモノなの?」

未羅みらは、寝袋から上半身を起こしたまま答えた。

未羅みら「東方ドラキュラ初の女権活動家だよ。」

私「なに?ソレ。自由主義貴族ってヤツ?話に聞いたことはあるけど。」

未羅みら「うーん。そこまで確信犯じゃないかな。以前、東方ドラキュラと日本人とは、けっこんによる一体化が進んでるって、説明したことがあるよね?」

私「うん。なりゆき任せじゃなく、ドラキュラ改革派のイニシアティブで、意図的・意識的にせいりゃくけっこんが進められたのよね。」

未羅みら「ところがどっこい。ドラキュラ改革派が想定してたのは、ドラキュラの男が日本人の女をよめに取ると言うパターンだけで、ドラキュラの女が日本人の男に嫁入りするのはタブーだったの。」

私「あぁ、あぁ、西部劇とかで良く見る、あんもくの人種タブーね。それでエリザベート様は、そいつにちょうせんしちゃったんだ。」

未羅みら「その通り。それで、ひとそうどうも、ふた騒動も起こったワケ。結局、日本人の男とは破局して、エリザベート様は、このどうくつめられちゃった。これでも高貴なご身分だから、ギリギリしょけいだけはまぬがれたのよ。でも、この事件を境にして、ドラキュラ女たちもだまって男に従うだけじゃ満足出来なくなってね。もともとドラキュラの家庭は、家事や育児の負担が小さかったから、何か不満があるとなると、それがストレートに表に出やすいのよ。そんなこんなで、ドラキュラ女たちのステータスも、以前よりはマシになったから、後に続くドラキュラ女すべてにとって、エリザベート様は特別なお方でね。」

私「だったら、もう、とっくに自由の身になってても良いじゃない。なぜ今でも、こんなカビくさい所にかくれてるの?」

未羅みらいっぱんピープルがキライなのよ。自由は好きでも、民主主義はキライ。だから、ドラキュラ・フェミニズムのけいの『先覚者』のらんに、勝手に名前をさいされたくないワケ。大衆とハンド・イン・ハンドなんて、まっぴらごめん。パワー・トゥ・ザ・ピープルなんて歌はいただけで耳がけがれる。そういう所は、しっかり貴族なのよね。」

私「なんかメンド臭そうな人だね。」

未羅みら「そう。元もとアクの強い性格だったけど、今じゃすっかりへんくつものでね。でも、パワーはハンパじゃないよ。ヘタにおこらせたら、体じゅうの血をしぼり取られて、にゅうよくざいにされちゃうよ。」

私「おお、コワ。さすがバートリはくしゃくじんのご血脈だけのことはあるね。それで、私たちのことは、どう思ってるの?やっぱり『やつらを通すな』派?」

未羅みら「そこら辺が、今一つ読めないのよねえ。お耳に届いてないワケないんだけど。今日もね、それとなく水を向けてみたんだけど、トボケられちゃった。」

私「エリザベート様は、ここで一人ぼっちなの?お身の回りの世話とかは?」

(無意識のうちに敬語を使ってる私。)

未羅みら「メイドがいるよ。こいつらは分かりやすいんだけど、めんどうなのはしつでね。絶対、姿を見せないのよ。半ドラキュラだろうとは思うけど。エリザベート様はご自分のお手をよごすようなことは決してなさらないから、この執事は、いわば必殺吸血人でね。コワいよ。ここでは、いつも、こいつにかんされてると思った方がいい。」

ああ、やだやだ。すでに私、X課長補佐の手先に監視されてるってのに。


ザ・クラッシュ「もう、いいよ。ようよ。」

ザ・クラッシュのひと言で、おひらきになった。意外と気持ちよくねむれた。

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