第4章 神永未羅の場合 第30節 天の岩戸で綱引き大会

私が提案したのは、早い話が、ザ・クラッシュを神がかりにして、パワーアップしようと言う作戦だった。


まず、かのじょをシャワールームで丸洗いした。

神さまだって、不潔な女はイヤだよー。


次に私は、コンクリ構造物のおくの資材倉庫に、おこもりした。

注連しめなわは、ちくひんのシーツをいて、り合わせ、どうにかこうにか、それらしい形にした。

(和紙をリボンみたいにカットしたヤツね)は、古新聞をカットして、形ばかりの物を作った。

それでガマンした。


他にも、いろいろ必要なんだけど省略した。

ニーナのメイク用の手鏡だけ、倉庫の外にポンと置いといた。


未羅みらとニーナには、「出来るだけさわがしく、出来るだけ楽しそうに、おどりでも踊っていて」とたのんだ。「ヌードになる必要ないからね」とも言いえた。

そう言い残して、倉庫のドアをバタンと閉めた矢先に、ニーナの金切り声が聞こえた。


「ごつせぶくいいん!ざふぁしれいじいいん!えめいじゅあもーろーん!ぽてんちゃはいぼーむ!」


高音のキーキー声で、歌詞も良く聞き取れないけど、どうやら歌の積もりらしい。ちゃんとリズムも取ってる。ポリタンクをポコポコたたいて。一体、ナニゴトかと思って、ドアを開けたくなったけど、ガマンした。まだ早すぎる。

だけどぉ、人がこうやってふんとうりょくしてるのに、no future, no future(お先まっ暗)とは何よ。エンギでもない。


やみの中で、おいのりしながら、私はザ・クラッシュの視線を感じてた。

かのじょおそれと不安とあせりが伝わってきて、背中がジリジリ焼けるようだったけど、まだ早いのよ。

あの方がたが、この山の上に現れてくれなきゃ、なんにも始まらないの。


ニーナと未羅みらは相変わらずそうぞうしい。また出た、ニーナの十八番おはこが。


「あほーとろーえぬ、ろーうぉん!あほーとろーえぬ、ろーうぉん!」

「あほーとろーえぬ、ろーうぉん!あほーとろーえぬ、ろーうぉん!」

「あほーとろーえぬ、ろーうぉん!あほーとろーえぬ、ろーうぉん!」

「あほーとろーえぬ、ろーうぉん!あほーとろーえぬ、ろーうぉん!」


とつぜん、私は「これだ!」とさとり、ドアの向こう側めがけて、大声を上げた。

「そこにかくれているオマエの名前は、田中明子であろう!」

ドアしに「ぐぇぇぇる!」みたいなせいが聞こえた。


私はドアにけ寄り、ドアノブを両手でさえつけた。

案の定、ドアの向こう側にいる女が、ものすごい力でドアを引っ張った。

両サイドでドアノブを引き合う、女二人の力くらべになった。

私はドアの向こう側にいる女、つまりザ・クラッシュに向かって、こう言った。

「ザ・クラッシュ、私が言った通りに、あんたも続けなさい。」

ザ・クラッシュ「分かった。」

私「仁王様、仁王様。どうか私に、力をお貸し下さい。」

ザ・クラッシュ「仁王様、仁王様。どうか私に、力をお貸し下さい。」

私「これから合い言葉を言うわ。言葉が合えば、このドアは開く。あなたの望んだ物が、手に入るわよ。」

ザ・クラッシュ「合い言葉なんて、聞いてないよ。」

私「いえ、知ってるはずよ。言葉が降りて来なかったら、それまでの話よ。それじゃ、言うわ。

ザ・クラッシュ


ドアがガバッと開いた。私はドアノブに、つかまったまま、倉庫の外に放り出された。

ザ・クラッシュのが、緑色に変わってた。

もしかして、ブチ切れてる?

私「ねえ、おこってる?」

ザ・クラッシュ「え?怒ってないよ。なぜ?」

あ~、良かったぁ。


このヘンなつなきのせいで、資材倉庫のドアはちょうつがいこわれ、ドアわくから外れて、ゆかたおれてしまった。

ザ・クラッシュは、重い鋼鉄製のドアを指先で、ひょいとツマミ上げ、部屋のすみの方にブラ下げて行った。

仁王様の力が、ザ・クラッシュに宿ったんだ。

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