転生先はやり込んだゲームのクリア後の世界でした〜自分が育てた最強の勇者に命を狙われてます〜
亘理鳥
第1話 転生した世界は……
「いってぇ……」
強烈な頭痛によって目を覚ます。
頭だけじゃなくて身体も痛い。
ゆっくりと目を開くと、俺は見知らぬ牢獄の中にいた。
「牢屋……なんで?」
なんでこんなところにいるのかさっぱりわからない、犯罪を犯した覚えはない。
そもそも眠りにつく前、俺は何をしていたのだろうか。
半覚醒状態の頭を必死に働かせ、どうにか記憶に糸を辿っていく。
確か俺はどハマりしているファンタジーRPGの『アルカナフラグメンツ』を、勇者を限界まで強くして最強パーティを結成するという目的でやりこんでいた。
そして目標をついに達成し、一息つこうとコンビニ向かっていたら工事現場の足場が崩落、上から落ちてきた鉄柱に潰されたのだ。
「ってことは、俺は死んだのか?」
あんなの間違いなく生きてられるはずがない、じゃあ今ここにいるのはなんなんだ?
万が一助かったとしても牢獄にいる理由は一つも──
「無様だな、ディユ・モントゥール」
鉄格子の向こうから聞きなれた声がした。
ついさっきまで聞いていたのだから見なくてもわかる。
「勇者、ガリオス・パラディウム……?」
アルカナフラグメンツの主人公であるガリオスが、なぜか俺の目の前にいた。
そしてガリオスは俺のことを『ディユ』と呼んだ、これはゲーム中盤のボスとして登場する偽物の勇者の名前である。
勇者の名を騙って各国に取り入り好き勝手していたのだが、本物の勇者であるガリオスとの戦闘に敗れ、その後は投獄されてしまう。
死んだはずの俺は目を覚ますと牢獄にいて、目の前にはガリオスがいて、俺のことをディユと呼ぶ。
この状況から導き出される結論は一つ。
どうやら俺は前世で死んだ後、アルカナフラグメンツのディユ・モントゥールに転生してしまったらしい。
「貴様の処刑日が3日後に決まった、楽しみにしておくんだな」
「3日後に処刑⁉︎」
「じゃあな」
「なっ、待て!」
鉄格子ギリギリに近づいて叫んでみるが、ガリオスはこちらを見向きもしない。
3日?俺の第二の人生はあと3日で終わるのか?
それにさっきのガリオス、なんというか主人公にあるまじき目と声、さらに殺気のようなものまで放っていた。
クソ、牢屋の中では情報が足りない。
「いや、待てよ……」
落ち着け、ここがアルカナフラグメンツの世界だとしたら、何十周もプレイした俺にわからないことはない。
ディユが投獄されているということは、恐らくここはフリア王国の王都。
その地下牢ということは……
「やっぱりそうだ」
この地下牢には抜け道がある、水路を通じて王都に出れるはずだ。
とにかく逃げなければ、処刑されるわけにはいかない。
幸いにも手枷や足枷はなかったため、そのまま外に出ることができた。
「おお……本当にフリア王都だ」
ゲームで何度も見てきた光景が実際に目の前に広がっていることに感動を覚えるが、今はそんな場合ではない。
主人公であり勇者でもあるガリオスが王都にいて、わざわざ俺に処刑を言い渡した。
しかもあの時の格好は薄暗くてしっかりとは見えていないが、それでも見覚えのあるものであった。
あれは物語終盤、或いはクリア後にしか手に入らないものばかりであった。
そこから導き出される一つの仮説、まずはそれが正しいのかを確認しよう。
なるべく顔を隠しながら近くの住人に声をかける。
「すみません、私は旅をしているものでして少し聞きたいことが」
「簡単なことであれば…….」
「ガリオス様は、いつからこの国を治めていられるのでしょうか」
「っ!一月前だよ。それより用事を思い出した、済まないが失礼する」
そう言って青年は足早にどこかに行ってしまった。
呼び止めて悪いことをしてしまったな、しかしやはり俺の予想通り。
ここはアルカナヒストリアの世界、しかもゲームクリア後の世界だ。
既に魔王は討伐されており、勇者ガリオスは使命を果たしてこの世界一の大国であるフリア王国の国王の座に就いた。
これからは勇者を中心に新たなる平和な時代が築かれるわけだ。
そしてゲームでは描かれることはなかったが、クリア後の世界におけるディユは勇者の名を騙った大罪人、と言ったところか?
大変なポジションに転生してしまったな。
いずれ脱獄に気づけば追っ手を仕向けられるだろうが、その前に危険を承知である程度情報収集をしておきたい。
まずは敵の情報、つまりガリオスに関する情報を集めよう。
「すみません、ガリオス様についてお聞きしたいのですが」
「わ、悪いが他を当たってくれ!」
「あの、国王のことなのですが」
「私は何も知らないわ!」
そう思って数人にあたってみたのだが、何かおかしい。
質問しても良いか、という問いに対しては快く答えてくれる人も多いのに、皆ガリオスの名前を出すと足早にどこかに行ってしまう。
まるで彼を話題に出すのを避けるかの如く。
まだ気になることは多いがあまり留まってはいられない、そろそろここを離れよう、そう考えていた時であった。
「君、どうやって抜け出したんだい?」
背後から嫌な声がした。
振り返るとそこにいたのは勇者の仲間の一人、フールー・ロゼ。
俺の想像よりずっと早く追っ手が来ていたみたいだ。
「まあなんでも良いか。暴君様がお前を連れ帰れってお怒りでね」
そう言ってフールーは指をパチンと鳴らす。
「とりあえず抵抗されると困るからね、魔法は封じさせてもらうよ」
フールーを中心に魔封じの結界が生成される。
正直まだ魔法の使い方もわかっていないのであまり関係ないのだが、今はそれ以上に気になることがある。
このゲームでは仲間候補の数が多く、プレイヤーが誰をパーティメンバーにするのか自由に選ぶことができる。
それらを含めた自由度や戦略性の高さも人気の一つ……という話は一旦置いておいて、このフールーもその候補の一人。
だが滅多に選ぶ人はいない。
理由は成長曲線が超大器晩成型であり、ストーリークリアにおいてはまずほとんど役に立たないからだ。
このゲームが好きで二週目以降もやり込むような人しか選ばない、俺のような。
そして今の魔封じのスキルや身につけている装備、これらも全て俺がプレイした時のフールーのそれと同じ。
だんだん嫌な予感が強くなっていく。
「このまま大人しく、ってわけにはいかないかい?」
ジリジリと距離を詰めるフールー、その様子からは余裕を感じる。
俺のことなんてなんとも思っていないのだろう、実際頭を過ぎるこの予感が正しければ俺なんて相手にならない。
何か手はないか、と考えていたら視界の端に道具屋が入った。
そうだ、これなら逃げれる。
急いで道具屋に向かって走り出し、店頭に置かれた『一度行ったことのある場所に一瞬で移動するアイテム』を手にする。
「捕まってたまるか、じゃあな!」
どこに行くのかはわからないが、まずは逃げること最優先だ。
こうして俺はアイテムのおかげでどうにかフールーから逃げることに成功した。
「あちゃー、逃げられちゃった。こりゃまた暴君様、じゃなかった。すっかり地に堕ちた元勇者様に怒られちゃうなー」
◆
「ここは、一体……」
アイテムを使い運任せでやってきたのは、王都とは違って自然豊かな森の中にある村だった。
そこがどこかはすぐにわかった、序盤に訪れるケリト村だ。
ひとまずお邪魔しよう、できれば宿に泊まって、あとこんなボロ布では目立つので適当に服を変えたいな。
そう思っていたらまたまた見覚えのある人物が目の前を横切った。
だがこんなところで会うのは予想外だ、そこにいる白銀の髪を編み込んだ美しい少女の名はミカ・セルフィア、アルカナフラグメンツのメインヒロインとも言える主要人物の一人なのだから。
「その格好、どうされたのですか⁉︎」
こちらに気づいたミカは青ざめた表情で駆け寄ってくる。
確かに服も何もかもボロボロの人が村の入り口にいたら不審に思うよな。
「ああ、気にしないでください。大したことはないので」
正直説明のしようがないので無視して欲しい、そう思っていたのだが。
「……勇者様にやられたのですか?」
驚くことに、どうやら話が通じそうであった。
「何故それを……?」
「彼が暴君となったことは今や周知の事実。ですが私はずっと前から知っておりましたから、彼の本性を。目的のためなら他人の心を平気で踏み躙る、到底勇者とは呼べない残虐な心の持ち主であると」
そういえばフールーも暴君様とか言っていたな。
それに王都の人たちの反応、あれも勇者が暴君として認識されているのならば名前を呼ぶことすら憚られるというのも理解できる。
だがどうしてそもそもガリオスは暴君なんて呼ばれているんだ、残虐で残忍なんて設定もなかったはず。
その疑問に対する答えはすぐそこにあった。
「貴女は勇者を知っているんですか?」
「ええ、かつて魔王がいた頃、私は勇者様の力になりたいと思い彼と行動を共にしました。ほんの一瞬だけですが」
「一瞬だけ?」
「はい、彼は私の力を必要としていなかった。必要なのは私が持っていたモノだけだったようです」
「え……」
その時、俺の中に最悪の答えが浮かび上がった。
ミカは一番最初に仲間にできるメンバーで、役割はヒーラー。
当然回復役は最初から活躍するので、ほとんどの人が仲間にして最後まで連れていく、実質メインヒロインである。
だが最後まで育成した場合、何人か全体回復魔法を覚えるキャラが他にもいる。
なのでストーリーでは最後まで活躍するミカは、クリア後はお役御免となることもある。
例えば最強パーティを結成しようとする物好きがいた場合、ミカを使うことはないだろう。
だがミカが仲間に加入した際の装備品のペンダントは、序盤にしては状態異常耐性が高くて非常に有用だ。
その場合は一瞬仲間にしてペンダントだけもらい、その後パーティを解散することで経験値を勇者に集中させつつ、楽に攻略もできるようになるだろう。
まあ人の心が無い最悪なプレイではあるが。
「勇者様は私を仲間にすると言って、亡き母の形見であると知っていながら私のペンダントだけを奪っていったのです」
ちなみに効率のために俺はそのプレイをした。
この時俺はようやく理解した。
仲間になったフールー、ペンダントだけを奪われて仲間にならなかったミカ、どちらも普通ではありえない、あるとしたら最強パーティを作るような時だけだろう。
さらにフールーの装備やスキル、あれも俺のよく知るものばかりであった。
間違いない、ここはアルカナフラグメンツの世界、しかも俺が死ぬ直前までやり込んでいたクリアデータの世界だ。
暴君と化して人々を怯えさせる元勇者を生み出したのは俺だったのだ。
転生先はやり込んだゲームのクリア後の世界でした〜自分が育てた最強の勇者に命を狙われてます〜 亘理鳥 @wakawakayeah
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