第44話 同じ目
「高橋先輩、あの星座の名前分かりますか?」
「ふふ、あんまり僕のことを舐めないでもらいたい。……射手座だね」
「双子座です」
新妻さんと二人で野原に寝転がり、ゆっくりと流れる星を見ていた。
「それにしても、意外だったよ」
「意外? 何がでしょうか?」
「新妻さんって、中等部の生徒会長でしょ? 雰囲気も和風な感じで、真面目なイメージがあったんだけど、水辺学習の時は必殺技名を叫びながらボール遊びをしてたし、今も草むらに横たわってるし、最初のイメージと大分違うよ」
僕がそう言うと、新妻さんはふふっ、と笑った。
「私、中学校に入りたての頃に、同級生から言われたんです。真面目すぎるよ、って。当時の私は、『何事も完璧に』を念頭に行動をしていましたから。成績は学年首位、教員からの評価も最高。自分で言うのは恥ずかしいですが、私に憧れていた人もいたと思います。……でも、友達はいなかったんです。一人さえも」
ニコッと笑顔を見せてくれるけど、心から笑っているようには思えない。なんというか、偽物の笑顔って感じがする。
「なので私は考えを改めました。『完璧な行動』は大事なことじゃない、一番大事なことは、周りにあわせることだと、だから羨ましいんです。基本的に何も考えてないのに大人気の高橋先輩のことが」
「ねぇ、今僕のことバカにしなかった?」
「さぁ、どうでしょう」
クスクスと笑う新妻さん。
月明かりと星の輝きに照らされた新妻さんは、とても美しく見えた。
「……どうしたのですか? 顔が赤いですよ?」
「い、いや、その、月明かりに照らされて……」
「……月明かりで顔が赤くなるなんて初めて聞きました」
しまった。またやってしまった……⁉︎
「い、いや、月が綺麗だなって思って」
僕は咄嗟にそう言った。
「………」
どうしたんだろう。僕の顔をじっと見て。
「やっぱり、他意はないのですね?」
「タイ? 魚の鯛はここにはいないよ?」
「………」
また沈黙してしまった。
また、知らずのうちに僕は何かやってしまったのだろうか。
「ーー勇気! って、あれ? 桃ちゃん?」
後方から、好実がトコトコと歩いてきた。
「どうしたの、好実」
「いえ、斎藤が、妹の佳奈ちゃんから錠剤を無理やり飲まさせて、様子がおかしくなっちゃったの」
「ははっ、様子がおかしいのはいつものことじゃないか」
「私もそう思ったんだけど、同じ譫言うわごとを繰り返すの、『悪いな、俺は10年も前に結婚しているんだ、実の妹の佳奈とな』って」
「もう冬至のことは諦めよう。そして忘れよう」
さよなら冬至、また会う日まで。
「そういうわけにもいかないでしょ。 ごめんなさい桃ちゃん、こいつ連れていくわね」
「はい、大丈夫です。大した話はしていませんでしたから」
「ごめんね、ちなみにどんな話をしてたの?」
「タイの話だよ」
「タイ? 他の考え、って意味の方の他意? それとも国名?」
「魚のタイ」
「ごめんなさい桃ちゃん、この子バカなの」
「はい、知ってます」
流石に失礼ではないだろうか、僕に対して。
「………」
好実は少しの間、新妻さんの顔をじっとみて、そして僕の手を強引に引いてきた。
「あ、ちょっ、新妻さん、またね!」
「はい、また明日」
「どうしたのさ好実、急に引っ張って」
なんというか、好実らしくない、僕にチョークスリーパーを決めることはあっても、会話を遮ることは一度だってなかったのに。
「……同じだった」
ん? 同じ?
「私と同じ目で、勇気のことを見てた」
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