第42話 調理実習


割り当てられた部屋で、冬至、好実、神崎さんとトランプをして遊んでいると、キーンコーンカーン、とチャイムがなった。


「ええっと、今のチャイムは……」

「夕食だな、『カレーの調理実習』って、しおりには書いてあるな」


 トランプを置き、パラパラとしおりをめくる冬至。


「今日は色々あったからお腹ぺこぺこだよ」


 新妻さんとの戦闘に、水辺学習とカロリーを多く消費してしまった。

 今日はキャンプでカレーだ。余程のことがないかぎりカレーで失敗することはないだろうし、今日はお腹いっぱい食べられそうだ。 


「う、カレーね……」

「? どうしたの好実?」

「い、いえ、大丈夫よ。……多分」


 顔をしかめる好実、まだお腹すいていないのかな?


「カレー食べらないなら、僕が食べるから安心していいよ」

「いや、違うの、そういうことじゃないの……」




「では、私と好実さんでカレーを作ってきますので、男性の二人は座っていて下さい」


 神崎さんにそう言われ、静かに椅子に座って待つ僕と冬至。

 食事をする場所と調理をする場所は分かれているため、どんな風に調理するかは見ることができない。だけど、何も見えない分、どんな料理が出てくるか楽しみだ。って言っても、今日はカレーってお題が決まっているけどね。

 しばらくすると、好実が、とことことお皿を持って戻ってきた。


「できたわ」


 差し出された物は、なぜか黄色の物体だった。


「……なにこれ?」

「スクランブルエッグよ」


 なぜスクランブルエッグ?


「…………あ、なるほど、前菜だね。一瞬びっくりしたよ、カレーじゃないからさ」


 きっと、コース料理みたいな感じで、どんどんと料理が出してくれるんだろう。さすが好実、粋なことをしてくれる。


「………がんばってみる」


 また、トコトコと調理場へ向かっていった。

 そしてまたしばらく待つと、今度は大皿を両手に持ってやってきた。


「お待たせしたわね、完成したわ」

「ふぅ、結構まったけど、これでようやくカレーが食べられるんだね」


 そして、大皿に乗っていた、皿用の蓋クロッシュを、と開けた。


「スクランブルエッグよ」


 ………。


「あ、あの、好実、カレーは?」

「……ちょっと間違っちゃって」


 ……何をどう間違えたら、カレーライスがスクランブルエッグになるのだろう。


「……正直に言うわ、実は私、料理があまり得意ではないの。でも大丈夫、今度こそ完璧に作ってくるから、勇気は待っていてね」


 今度は早足で調理場へ向かう好実。


 ……本当に大丈夫かな、好実は周りからは優秀な生徒って見られているけど、本当は鈍臭くて、集中しすぎると周りが見えなくなるし……。

 でも、もう3回目になるし、今度こそ立派なカレーを作ってきてくれるはずだ。


『なぁ、今の調理実習ってカレーを作るはずだよな? ……どこからどう見てもカレーには見えないのだが……』

『はい、スッポン鍋ですわ』

『どうしてスッポン鍋なんだ! そもそもどこからスッポンなんて調達してきた! まさか、わざわざ家から持ってきたのか⁉︎』

『先程、そこらへんを歩いていましたわ』

『そこらへんを歩いていたスッポンを俺に食べさせるな! っていうか、よく捌けたなスッポン⁉︎』

『あなたに食べてもらうため、小さい頃から花嫁修行を積んできました。さぁ、お召し上がりください』

『いきなり頭からは無理だ! ぐぬぬ、こいつ、以外に力が……!』

 

 冬至は食事にありつけたようだ。羨ましいばかりだ。

「今度こそ完璧にできたわ!」


 バン、と勢いよく机にお皿を置く好実。


「さぁ、召し上がれ」


 パカっと、クロッシュをあけられた。


「スクランブルエッグよ」

「………」


 どういうことなんだ。もしかして時間が繰り返されているのか……!


「……どうしてスクランブルエッグなの?」

「今度はうまく作れたわよ」

「いや、あの、そういうことじゃなくて、僕もうこれでスクランブルエッグ三皿目なんだけど……」

「さ、冷めないうちに食べてね♪」


 結局、僕は卵しか食べることが出来なかった。

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