一章 最終話 友達
『可井君、学校を辞めたらしいよ』
『うそうそうそ! そんなのあり得ない』
『あと、好ちゃんも転校したんだって』
『なんでも、お父さんが病気になったとか、だから病院……』
突然、好が姿を消してから、一週間がたった。
その一週間、絶えることなく、様々な噂が生まれ、広がり、そして消えていった。それほど、彼女の存在は、生徒達にとって大きかったのだろう。
そんな、いつもの学校とは違う空気感の中、僕たちはというと……。
「冬至! それは僕のハンバーグだ、返せ!」
「この前俺のトンカツ勝手食ったろ! その分頂いただけだ!」
「なんだと! このチンパンジー、さては僕を飢えさせる気だな!」
「うるせぇ! お前は仲間のために自ら犠牲にするパタスモンキーを見習え!」
いつものように喧嘩していた。
……でも。
「「なぁ、好(相川)、どう思う⁉︎」」
好の席の方向に一斉に振り向く。
しかし、その席は、もう一週間以上も使われていない。
「「……」」
僕たちの中での、好の存在は、他の生徒に比べ何倍何十倍も大きい。
時折、今のように空の席に振り向くことがある。
……どうして好は、僕たちに黙っていなくなってしまったんだろう。
カチコミをした翌日、彼女は姿を消した。
何度も屋敷に居場所を聞きに行ったけど、『お前たちに教えることはない』と、まともに取り合ってくれなかった。
まぁ、屋敷をあんなにボロボロにしたんだから仕方のないことだけど。
それと、もう一つ変わったことがある。
「冬至、あーん、ですわ」
「……なぁ、このトマト、なんか白い錠剤みたいなものがはみ出してないか?」
「……気のせいですわ」
冬至の近くに、神崎さんが現れるようになった。
それもけっこうな頻度で。
「これを飲めば、お利口に、なりますわ……!」
「ぐぬぬ、勇気、てめぇ、たすけろ……!」
そしてすごく距離が近い。羨ましいほどに。
「ねぇ、二人はどういう関係なの?」
「おい、今はそれどころじゃ、ないだろ……!」
「付き合っていますわ」
「勝手に話を進めるな!」
そうかそうか、冬至と神崎さんは付き合っているのか。
このブサイクが、僕を差し置いて、美少女の神崎さんと……。
…………。
「僕ちょっと家庭科室に予定ができたから行ってくるね」
「いってらっしゃいですわ」
「いかせるな! おい、くそ、はなせ!」
家庭科室って、たしか鍵が必要だったような……。あ、そうだ、野球部に金属バットを借りに行こう。包丁よりもバットの方が気持ちよくやれるからね。
そんな和やかな教室での昼休みを過ごしていると、ガラガラ、とスライド式のドアの音が響いた。
『皆さん、お昼休み中ですが、連絡事項が二つあります』
担任の神垣かみがき先生は、手に持った紙に視線を落としながら淡々と話す。
『このクラスの仲間だった、相川好さん、並びに特進クラスの可井日向さんは、家庭の事情により、退学することになりました』
…………だいたい予想はしていた、悪気はなかったとはいえ、世界中を巻き込んで魔法を行使したんだ。当然と言えば当然なのかもしれない。
すぐ隣から、笑い声が聞こえてくきた。
「なんで笑っているのさ」
「まぁ、だまって聞いてろ」
『そして、もう一つ連絡事項は……。さっ、入ってきなさい』
そして、神垣先生も笑顔を見せながら、その人物を教室に誘った。
「………あぁ!!」
思わず声が溢れた。
その人物は、ハニーブラウンカラーのポニーテールをぴょこぴょこと跳ねさせ。
びっくりするぐらいぺったんこな胸で。
そして、いつもの笑顔で。
「初めまして、本日より転校してきました、皇好実すめらぎこのみです、よろしくお願いします!」
「それで、話って何よ」
好実は、僕から視線を逸らしながら、頬を少し赤ながら、放課後の空き教室で、そう聞いてくる。
「一つ、伝えたいことがあるんだ」
そうだ、僕は一つ、どうしても伝えたいことがあった。
皇家に潜入した時に、好実と戦っている時に気づいた。
それを、今、伝えなきゃいけない。
「な、なによ、伝えたいことって」
好実は、茹蛸さんみたいにもっと頬を赤らめる。
そっか、そんなにも……。
「ずっと、ずっとこの気持ちから、視線を逸らし続けた。でも、僕のためにも、好美のためにも、伝える必要があると思うんだ」
きっと、好実は怒るだろう。でも、この気持ちを伝えなきゃ僕の気持ちが収まらない。
「だから、聞いて欲しい」
好実の、今にも閉じそうな目に真っ直ぐな視線を注ぐ。
「うん、聞かせて」
好実は、逸らしていた視線を僕の目に合わせる。
「……好実」
「うん」
「……好実は、男の子だったんだね」
「うん……… は?」
「そんなに顔を赤くして怒る気持ちも分かるよ。気づかなかった僕が悪いんだから」
「………」
「でも、やっと気づいたんだ。好実の胸が、初めて会った時からずっと、全く成長してしてないって、だって、僕の方が大きいぐら——」
「こ……」
「こ?」
「こんの、バカァ!!!!!」
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