第32話 もう一つの思惑
「収まるところに収まりましたわね」
二人の背中を眺めながら、神崎はそう呟いた。
彼女の言う通り、収まるところに収まった。だが、俺にはまだ理解できていない部分がある。
「……おい、神崎」
「はい?」
「……なぜ、今回、こんなに肩入れしたんだ」
俺の知っている神崎は、名家の屋敷に侵入、なんて面倒くさい仕事を引き受ける人間じゃない。
こいつは、仕事に見合う報酬が提示されない限りは、動かないはずだ。
「私は名家、召喚獣の悪用を見逃すわけにはいけません」
「嘘をつくな、そんな柄じゃないだろ」
お家のためだとか、名家としての責務だとか、そんなことはどうでもいいと、嫌になる程聞かされた。
神崎はクスクスと笑った。
「よく、私のことがわかっているのですね」
……なぜだろうか、神崎の俺を見る目が、急に変わった気がする。
……妹の佳奈と同じ目に。
「聞きたいですか?」
「嫌な予感がするから、やっぱり聞きたくない」
俺はそう言い、早足で階段を降りようとする。
「えい、ですわ(がちゃん)」
神崎は、俺の両手になにかをはめた。
「……なにこれ?」
なぜだ、なぜ神崎は俺の両手に手錠をかけたんだ?
「ふぅ、……私わたくし、冬至君に伝えたいことがあります」
「神崎、話が全く頭に入ってこないのだが、あと手錠の鍵はどこだ? っていうか、どこでこれを入手してきた?」
「私と冬至、昔から知り合いですわね」
「くそ、全く聞いてねぇ!」
そうだった、こいつ、小さい頃から、全く人の話をきかないんだ……⁉︎
「私が今回、手を尽くした理由は一つですわ」
そう言うと、神崎は俺に近づいてきた。
「な、ぐふ!」
逃げようしたが、手錠に動きを制限されてしまい、思わず転んでしまった。
神崎は、尻餅をついている俺に、鼻と鼻が当たるぐらいまで顔を寄せてきた。
そして……。
「……何の真似だ」
吐いた息が当たるほどに顔を寄せながら、神崎はゆっくり話し出す。
「何の真似も何も、私の気持ちですわ」
神崎は立ち上がり、制服についた埃をパンパンとはたく。
「……小さい頃から、ずっとあなたのことが好きです。私と付き合いなさい」
……『付き合いなさい』っていうのが、神崎らしいな。
客観的に考えてみることにしよう。
名家出身のお嬢様で、成績は優秀、将来有望、それに加え容姿端麗。
学園内にファンクラブがあり、男女問わず多くの生徒が加入しているらしい。
そして、一日に数回ペースで告白されているとう噂も聞いたことがある。
そんな女性からの告白、もしかしたら、生涯こんな経験をすることはないのかもしれない。
だとしたら、答えは一つだ。
「断る」
そんな面倒なことはごめんだ。
「………」
神崎は少し沈黙したあと、スマホを取り出し、画面を俺に見せつけてきた。
「こ、これは…… 俺のタイル一丁の写真!」
写真には、タオルだけ腰に巻いた俺と、佳奈がもみくちゃになっている姿が写っていた。
バカな、なぜこいつがこの写真を……!
夜中に佳奈と揉めたていた時に撮られてしまったのか……⁉︎ くそっ、俺としたことが…!
「これをばら撒かれたくなかったら、私と付き合いなさい」
とても、お嬢様の言葉とは思えない、告白だった。
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