第21話 役割分担
『いいか、相手は多重結界で守られていた扉を簡単に破壊できるほどの召喚獣の使い手だ、迂闊に手を出したらやられるぞ!』
『召喚獣だ、召喚獣に警戒しろ!』
『見た目はヒヨコだが、ものすごい力を内蔵しているに違いない!』
あれやこれやという間に、誤解が広がっていく。ハトにすら勝てないただのヒヨコだっていうのに。
……いや、この状況、利用できるんじゃないかな?
『ピヨ?』
意味もなく能天気に僕の頭を突いていたヒヨコを掴む。
そして、力いっぱい、広場にある大きめの木のところに投げ飛ばした。
『ピヨ!!』
スチャ、と木の枝に着地するヒヨコ。
そして、魔力の操作をする。
僕とヒヨコの、瞬間移動術以外の、二つ目の技。
冬至から、『これはいったい何の役に立つんだ?』と馬鹿にされた技だけど、今なら最大限に活用できるはずだ!
だんだんと眩い光を発するヒヨコ。
光量はどんどんと増え、まともに目を開けることすら出来なくなる。
『この光……、さっきの爆発と同じ光だ』
『伏せろ! まともに喰らうとまずいぞ!』
そして、混乱している人混みの中を、こそっと移動する。
ごめんなさい、ただ光るだけなんです! それ以外なんの効果もないです!
申し訳ない気持ちを胸に抱きながら、屋敷内の潜入に成功した。
「なんだ、生きてたのか」
囮にした友人にかける言葉ではないと思う。
……いや、ちがう、こいつは友人なんじゃなかった。
「貴様をぶっ飛ばすためになぁ!!」
まごうことなき敵だ。
「落ち着いてください、高橋勇気。今騒げば、今までの頑張りが無駄になりますわよ」
まずは顔からめちゃめちゃにしてやろうと胸ぐらを掴んだところで、神崎さんに止められた。
……神崎さんの言う通りだ、せっかく潜入に成功した。冬至をめちゃめちゃにするのは、作戦が終了するまで我慢しよう。
「神崎さん、『勇気』でいいよ、いちいちフルネームで呼ぶの面倒でしょ?」
すると、神崎さんは、少し恥ずかしそう目を逸らした。
「そ、そうですわね、勇気さん。それと、……冬至君」
ピクっ、と冬至が動いた気がしたが、この程度で冬至が動揺するはずはないから、気のせいだろう。
「こほん、お前ら、地図を見てくれ」
そう言われ、ポケットからスマホを取り出す。
「記憶操作の召喚獣は、今いる建物の2階の奥にいるらしいんだが、一つ問題がある」
「問題?」
「ああ、おい、ありす」
冬至が呼びかけると同時に、妖精女王は冬至の胸ポケットからピョコっと顔を出した。
『うん、すぐそこに、しょうかんじゅうがいる、けっこうすごいのが、まぁ、わたしのほうがいちおくばいすごいけどね!』
結構すごい召喚獣か……。
「それって、どのくらいすごいの?」
妖精女王は、うーん、と首を傾げな、冬至の周りをくるくると回り始めた。
『えっと、そこのれいじゅうの、ごばいはつよいわよ』
神崎さんの召喚獣を指差しながら、そう答えた。
……神崎さんと、その召喚獣であるユニコーンは、召喚士育成高等学校の第二位。
学園内では五本の指に入るほどの実力を有しており、国内でもトップクラスの実力者だと聞いたことがある。
……その、神崎さんの召喚獣より五倍強いって……。
「……冬至に任せるしかないね」
『異常』と称される、冬至の召喚獣が相手取るしか、勝ち筋はない。
「そうしたいところだが、俺は、建物内への入口を塞ぐ、そうしないと、次々と援軍が駆けつけてくるからな。だから……」
神崎さんの方向に振り向き、こう言った。
「神崎、お前が倒せ」
……援軍は、召喚獣使いばかりだろうから、いくら神崎さんでも足止めは難しい、だから入り口を塞ぐのは冬至が適任なのだろうけど……。
「さすがにそれは……」
相手の召喚獣は、神崎さんの召喚獣の五倍強いらしい。いくら神崎さんが優秀な召喚士だからって、どう考えても無理だ。
「……神崎」
じっと神崎さんを見つめる冬至、その眼差しは、いつになく真剣だった。
「……分かりましたわ、引き受けます。これが、あなたの考える最善なのでしょうから」
「ああ、助かる。なんの役に立つかは分からないが、勇気とヒヨコも付けておこう」
こいつ、いつも一言多いい気がする。
まぁ、僕もそのつもりだったし、いいんだけど。
『作戦会議は終わったかな?』
男性の声が響き渡る。
どうやら僕たちの位置はバレているらしい。
「頼むぞ、勇気」
「まかせろ、冬至」
そうして、僕たちと冬至は別れた。
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