第34話 幽閉の日々
自然と目から涙が零れ落ちる。
「オルランド様……っ!」
名前を呼んでも意味がないことはわかっていた。それでも、心のどこかで助けて欲しいと願ってしまう。無理なのに。相手はこの国の王位継承権第二位の王子。
いくら彼が公爵であっても逆らいようがない。
逆らったら、その時点で反逆罪とみなされて地位をはく奪され、投獄されるかもしれない。
そう思うと、助けてという声すら上げられなくなってしまった。
わたしはふと、今こそ呪いが発動して死ねたらいいのに、と思う。
ずっと、恋とか愛とかわからないまま生きて来た。
けれど、オルランドが特別だと、大切だと、好きだと自覚したのだ。なのに、それはすぐに叶わなくなってしまった。
求めた途端に得られる道が断たれたのだ。
まるで、お前には幸せになる権利がないと神様に宣告されたような気分だった。
そうだ、わたしは綺麗な宝石などではない。このままロセンドとわたしが婚儀を挙げた場合、オルランドは他の誰かと結婚するのだろう。
それを思うと、胸が苦しくて仕方ない。
仕方ないのに、なぜかこれが当たり前のように思う自分がいた。
むしろ、これで元通りだとすら思う。それでもロセンドと婚儀を挙げるのは嫌だった。いっそのこと死ねたらいいとさえ考えてしまう。
わたしはそのまま床にうずくまった。
そのままぐったりと横になる。
目を閉じると、疲れから睡魔に襲われてしまい、わたしは眠ってしまった。それからしばらくはただ眠った。
翌朝、わたしは前日に会った中年の使用人らしき女性に起こされ、渋い顔で「困ります」と言われて無理やり着替えさせられ、新しく持ってきた食事を食べ終えるまで見張られることになった。そんな日が数日続いた。
わたしは何度か逃げ出せないかと試みたものの、出入り口という出入口全てが厳重にふさがれてしまっていて、怪我する覚悟で叩き壊そうとしても無駄だと悟らせるほど隙が無かった。
自害を防ぐためなのか、食事はいつも全て手づかみやスプーンで済ませられるようなものしか出てこない。
出て来たとしてもすでに切ってあったりと徹底していた。
相手が強大すぎて、諦めの感情が全身に広がっていくような気分だった。自分という人間が持っていた微かな意思ですらゆっくりと丁寧にすりつぶされていく感覚。
どうしたら良いのかわからないまま、時間だけが過ぎて行く。
オルランドはどうしているだろう。
もうわたしが生きていることを諦めたかもしれない。けれど、婚儀を挙げるとしたら彼の前に姿を現さなくてはならない。その瞬間を思うと心が千切れそうだ。
しかし、毎日のように泣き過ぎて涙は滲むだけ。
わたしは自分の弱さを憎むことしか出来なかった。
そんな日々が続いて、何日経ったかわからなくなりかけた頃だった。外からわずかに入る光が淡くて青いから夜だということだけはわかったものの、正確な時刻はわからなかった。
「エルミラ様……エルミラ様、ここにいらっしゃいますか? 起きておりますか?」
ここ最近聞き馴染んだ女性の声に聞こえた。
そんなはずはない。彼女がここにいるはずはないし、時間は夜だろうし、わたしはそう思って薄く笑った。
ついに幻聴が聞こえ出したらしい。
いよいよ精神が壊れるかもしれない。
それならそれでいい。まともな状態で生きるより少しはマシかもしれないとわたしは思った。
「仕方ありません。お休みのところを起こしてしまいますが、このままには出来ませんから、後でお叱りは受けます」
すると、何やらがちゃがちゃという金属音が聞こえてくる。恐らく鍵を開けようとしているのだと思われたが、どうせ無理だろうと思い、わたしはその場から動かない。
もしも本当に彼女が来てくれて、わたしを助けようとしてくれているのだとしても、とても厳重に掛けられた鍵を開けることなど不可能だと思った。
一瞬、事実だとしたらと考える。
そうだとしたら、彼女が危ない。わたしの部屋の周辺は定期的に誰かが巡回して様子を見ているらしいことはわかっている。
もしも見つかったら、何をされるかわからない。
逃げた方がいい。
そう伝えようと声を出そうとしたものの、それで気づかれたらもっと良くないことに思い至り、口をつぐむ。
小声で伝えたら良いのだろうかと迷っているうちに、鍵の外れた音がしてわたしは驚いた。
やがて、窓が開いてそこから見知った顔がのぞく。
わたしは掠れた声で名を呼んだ。
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