第20話 飛竜

 飛龍がくるりと上空を旋回する。そして大きく羽ばたいて舞い降りてきた。

 風が髪を揺らす。


 さっきの竜と胴体は同じくらいだけど、翼がある分すごく大きい。感じる威圧感も桁違いだ。

 長い首の先にはさっきの竜と同じようなワニのような顔がついている。

 ゲームでよく見るような飛龍ワイバーンがそのまま現実に飛び出して来たって感じだ。


「竜騎兵3人を二人で倒すとはな」


 乗っているのは、あきらかに上官って感じの房の付いた長めの制服を纏った男だった。

 長い刀身の剣をもって、背中には銃を担いでいる。


 かけていたゴーグルとマスクみたいなのを外すと、無精ひげにぼさぼさの長い金髪。それにがっちりした顔が現れた。

 普通にすれ違えばワイルドなアクション映画のスターって感じなんだろうけど、こちらを見る目がなんというか、虫でも見るかのような視線だ。


「……土人どもの呪い師ごときがやるじゃないか」


 鬼蘭がまた踊るようにステップを踏むと肌に刻まれた赤いタトゥがかすかに光った。

 鬼蘭の武術ウーシューというのは、独特の歩法で地面に触れることによって龍脈の力を吸い出す、というものらしい。

 肌のタトゥは呪符のかわりで、体に龍脈の力を纏わせることによって身体能力を大幅に引き上げるというもの、なんだそうだ。


 呪符の用意はしなくていいけど、代わりに短い間しか効果がないし、あたしのように自分の体の外に炎や風をだすことはできない。

 武術というにふさわしい、完全な近接型の技術だ。個人的には波動拳とか使えた方が便利だと思うんだけど。ないものはないのだそうで。


「ああ、うわさの漂泊道士はお前か……無駄足じゃなかったわけだ」


 男がそう言って剣の切っ先をこっちに向けた。

 ゲームとかでもあんまり見たことないけど、薙刀の刃を伸ばして柄を短くしたって感じの剣だ。


「逃げるつもりなら無駄だ。面倒くさいから降伏しろ。おとなしくな。女を痛めつけるのは趣味じゃない」

「西夷の連中なんぞに降伏なんてするか!しっぽ巻いて帰りやがれ」


 鬼蘭が叫ぶ。


「下らない呪いごときで俺をどうにか出来るつもりか?お前等は臭い香でも焚いて、亀の甲羅でも燃やしていろ」

「名乗りなさいよ、偉そうね、あんた」


 見下しオーラがあからさまに漂っていてなんか腹が立ってきた。


「土人の小娘ごときに名誉ある俺の名を教える必要があるか?そもそも、女が戦場に出てくるな」


「その辺で転がってる人は女の子にその呪いで倒されたんだけど。同じ目に合わせるわよ」

「親切で言ってやってるのに、バカは始末に負えないな。俺は戦場なら女でも容赦しないぞ」


 手綱を引くと、竜が威嚇するようにうなり声をあげた。


「地面をはう地竜リンドヴルムどもと俺を一緒にするなよ」


 飛龍が翼を畳んで体を沈めた。雰囲気が変わった。来る。

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